不気味な人形と本
コレクターの持っている人形はかわいいとはいえない。
綺麗な金髪ではあるが、艶があるわけでもなく肩くらいまである髪はボサボサになってしまっている。
目の下にはクマのようなものまである。なにより人形が着ている服は見たことのないデザインのものでこの国のものではないだろう。
それでも手を伸ばしたのは、ローズがより近くで見たいと思ってしまったその理由は人形の瞳が綺麗な若草色だったからだ。それに角度によってその瞳の中に茜色が見えるからでもあるだろう。
どう見ても不気味な人形なのにその瞳を見てしまうと“もっと近くで見たい”それ以外考えられなくなる。
「コレに触ってはいけないよ、とても危険なんだ」
そう言ってコレクターは人形の持つ手をローズから遠ざける。
ローズからは人形が座った姿勢のまま、スーッとうしろへと移動したように見えた。
その様子がローズには神秘的に映ったのだった。
「ねえ、どうしてもだめ?ちょっとでいいの」
ローズは年齢的に幼さが残るものの本来ここまでではない。
同年代と比べれば幾分か大人で、理性的な達観したものの見方をする子供である。
触らせてほしい、そう言う今の彼女はどうなのだろうか。
「いけない、いけないよ。お嬢さん。さっきも言ったが危険なんだよ。」
だが、ローズにはそんなことは聞こえてはいなかった。
そのため、ずっと騒ぎ続けている。
どうやら一つにこだわりはじめるとそれしか見えない性格らしい。今は少々、異常な気がするが。 そうコレクターが分析しているときであった。
ピンポンパンポーンと軽快な音が鳴り、続いて「まもなく閉館のお時間です。帰る際はお忘れ物がないようお願いします」と女の人の声が聞こえてきた。
「うーん、そんなに気になるかい?でもだめなんだ。だから、代わりにこの本をあげよう。気に入ってくれると思うよ・・・・・・・それにまだまだ足りないのだから。ヒヒヒッ」
最後の方は聞こえなかったが、代わりに本をくれたコレクターにローズはすっかり人形のことなど頭の中から消えてしまった。
スキップができそうなくらいに嬉しそうな様子にコチラまで嬉しくなる。
「さあ、暗くならないうちにお帰りよ。ボクはここで失礼させてもらう。では、またね」
早口で言うとコレクターはローズに背を向けていってしまう。
その日は本当にこれで少女とは、お別れしたのさ。
「それにしても、キミは本当に執着が強いねぇ。それともローズに・・・・・もし、そうなのだとしたらヒヒッ楽しくなるねぇ。」