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後編

「おーい、帰ったぞ。誰かおらんのか!」

 ゆりは慌てて玄関の方に走っていった。さやもそれに続く。

「申し訳ございません、ご主人様。おかえりなさいませ。あと、こちらの方はお客様です」

「客?」

 ここの主人は見た目は五十代ぐらいで、顔には髭が蓄えており、長身の男である。その主人がさやをじっと見つめる。

「はじめまして。私は通りすがりの払い屋です」

 ゆりが少し戸惑ったような気がしたが、さやは気にせず続ける。

「ここにはただならぬ妖気が渦巻いています。少し話を聞かせてもらえませんか?」

 普通の人ならここで怒鳴って追い出すだろうが、ここの主人は急に笑顔になり、さやの手を取った。

「おぉー! これは奇遇だ。私もお祓いを頼もうと思っていたところだよ」

 これにはさやも呆気にとられてしまった。

「さぁ、早く私の部屋にどうぞ。おい、早く案内せぬか!」

「は、はい!」

 それからあれよあれよという間に、主人の部屋に通された。

「では、率直に聞こう。ここには何がいる?」

「いえ、まだそれは調査中でして、ご主人様は何かご存じではないですか?」

「そうだな。最近ではこの屋敷に化け猫が出るという噂が女中たちの間で流れておってな。しかし、その女中や使用人たちが行方を眩ませている。早いところ払ってほしいんだが、出来るか?」

「お任せください。あと、さくらという女性をご存じですか?」

 その名前を出した途端、主人の顔から笑顔が消えた。さやは、それを見逃さなかった。

「実はその娘も行方がわからなくてな。まぁ、この屋敷を勝手に出ていったのかもしれん」

「そうですか。では私は調査の方に戻りますので、失礼いたします」

 さやは主人に一礼して部屋を出ていく。残された主人はずっと一点を見つめていた。

 一旦部屋に戻ったさやは、畳の上に正座をしてはぁーとため息をついた。

「やはりあの主人、何か隠しているな。セイリュウ、キュウビ!」

 再びセイリュウとキュウビが姿を現した。

「何かわかった事はあるか」

 さやの言葉に、まずはセイリュウが口を開いた。

「俺が調べたのはこの部屋の邪気についてだ。この邪気の正体はこの部屋の真下にある」

「真下?」

「あぁ。猫の死体とたくさんのガイコツがあった」

「うわぁー、そんなところに通されて、さやかわいそう」

 キュウビがとても楽しそうに茶化しながら、次は俺ねと言った。

「俺はさくらって子の事を調べたら、すごい事がわかっちゃったんだよね」

 キュウビは、面をしててもわかるぐらい得意気だった。

「ここの主人のおばって奴と三郎って奴が話しててさ。さやが来てるから、三郎あんたは逃げなさいって言ってたんだよね」

「その三郎という男に話を聞くしかないな」

 話がまとまったところで、さやが腰を浮かせると、勝手口の方から悲鳴が聞こえてきた。

「どうされましたか?」

「今の悲鳴はなんだ! 何が起こったんだ!」

 皆が駆けつけると、ゆりが腰を抜かして震えていた。

「ゆり、どうした!」

「さ、三郎さんが……」

 そう言ってゆりが震える手で勝手口の方を指さすと、そこには、血だらけで死んでいる三郎の姿があった。

「なんてこと……もしかしたら次は私かもしれないわ」

 小さな声でおばが喋った。さやはそれを聞き逃さず、スタスタとおばに近づいた。

「次は私とはどういうことですか?」

「な、なんでもないわ! 失礼します!」

 おばは焦ったようにその場を後にした。主人も目をそらしたまま行ってしまう。あとに残されたのはさやたちだけだった。

「とりあえず、三郎さんはこのままにしておけないから、私がお経を唱えましょう」

 そう言ってさやはお経を唱え始めた。ゆりも手を合わせている。

 お経がすみ、三郎の死体に布をかけた。

「なんでこんなことに……」

「これは警告なのかもしれないな。多分狙いはここの者たち全員かもしれない」

「そんな……」

「本人の憎しみは相当なものらしいからな。まずは、その正体を現わしてもらわないと」

「払い屋様……」

「さやでいいよ、ゆり」

 二人して微笑みあっていると、屋敷の周りが暗くなってくる。

「邪気が強くなっている。親玉のおでましか」

 空を見ると、ゴロゴロと雷のような音とともに巨大な化け猫が降りてきた。

「な、なんだあの生物は! 払い屋、早く退治してくれ!」

 主人が慌てて出てきて、さやに怒鳴った。しかし、さやは冷たい目で主人を見つめていた。

「あなたはまだ、私に伝えていないことがありますね。それを話してもらわないと私も退治出来ません」

「私は何も隠してなどいない!」

「さくらのことですよ」

「姉のこと?」

「あなたとさくらには、何かあったんではないですか? あれはさくらの怨念です」

「なっ……!」

「姉の怨念?」

「さくらが悪いんだ! 私の求婚を拒んだから! 私は何も悪くない」

 主人は焦ったようにペラペラと話し出した。

 ゆりは耐え切れず泣き出し、その場に膝をついた。さやは、無表情で主人を見る。

「あなたは最低なことをしました。後で裁きを受けてもらいます」

 そう言ってさやは化け猫に向き直る。

「あの化け猫を蹴散らせ! ビャッコ!」

 さやの言葉に反応して、巨大な白い虎が現れた。

 化け猫と虎が激突し、しばらくすると、化け猫が弱ってきた。

「さくら、もう何も憎むことはない。あなたには、待っていてくれる妹がいるのだから」

 さやは振り返りゆりを見た。ゆりはまだ泣きじゃくっているが、化け猫は少し笑ったような気がした。

「あるべきところへ帰りなさい。邪気退散!」

 さやが言い終わると、化け猫はさくらと1匹の猫の姿になった。

 1人と1匹は微笑みながら消えていった。

 その後、騒ぎを聞きつけた警察に事情を話(もちろん化け猫の話は少しごまかした)、屋敷を探してもらったところ、さやのいた部屋の真下に猫の死体があった。

 そして、もう少し穴を掘ったところに、女性の遺体も見つかった。

「おばの話では、あの猫はさくらがかわいがっていた猫らしいよ。でも猫嫌いの主人が殺してしまった。あと、今回の件であの2人も捕まって刑が下されるだろう」

「そうだったんですか……」

 ある茶屋でさやはゆりと話していた。

「ところで、ゆりはこれからどうするんだ?」

「一度実家に帰ります。姉の葬儀もしたいので」

「そうか。では元気でな」

「はい。さや様もお元気で。この度はありがとうございました」

「礼などいらんよ。ゆりが元気でいてくれたらそれでいいんだ」

「本当に、ありがとうございました!」

 ゆりが深々と頭を下げる。それから2人は別々の方に歩き出した。

「さて、次はどんなことが待っているのやら」

 さやはふと立ち止まり、空を見上げふっと微笑み、また歩き出した。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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