5年越しの文化祭
【『なろうラジオ大賞5』用に作った、単発の短文です】
【この物語はフィクションです】
【登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません】
【現代の日本で暮らす女性視点での物語です】
今日は11月某日。
ウチの高校は県内では普通規模で、いわゆる普通科の県立高校だけど。
文化祭ぐらいは盛り上がっていくわよ。家庭科部でコツコツ作ったこのぬいぐるみ達、今ならタダでプレゼントするわ。1年の頃から3年になった今まで、ひたすら手芸に打ち込んできたもんだから、いっぱいあるわよ?
だって。ずっと、家で。ひたすら、作ってきたから。
今日こそは、誰か貰ってよ。せっかくの文化祭なんだから。
分かっている。
今年も、誰も来ない。
去年も、誰も来なかった。
一昨年も。誰も、居なかった。
そもそも、マトモに入学式すらしていない。
せっかくできたクラスメイトも、全員揃ったことがない。
遠足?体育祭?修学旅行?なに、それ?
どれもこれも、中止、中止、中止、中止。
感染するから。クラスターになるから。
世界的感染症が流行っているから、仕方がない、って。
感染対策の名のもとに。何も、無かった。
――高校生、って。こんな、ものなの?
誰も居ない校舎。本来なら、今日、文化祭が行われる予定だった日に。
私の教室の、ほとんどロクに座ったことがない、私の机に。
外で遊べないかわりに、家に引きこもって作りまくった、私の作品達を。並べて、並べて。私の机だけでは置ききれないから、近くの机の上にも置いて。
私の机を、思いっきり蹴り飛ばす。
上に置いたぬいぐるみ達は、床に転がった。だけど知らんそんなの。
こんな高校生活があってたまるか。
クラスのみんなで集まって、楽しんだりとか。
素敵な彼氏を作って、キャッー!だとか。
そういうのを夢見ていた私って、何だったの?
私はハサミを握りしめ、その辺にあった出来損ないのぬいぐるみを手に取って。お腹にハサミを突き立て、中のワタをほじくり、斬り裂き、ズタズタにして、捨てる。次はお前だ。次はお前だ!お前もだ!みんな、みんな許してたまるか!
返せ!私の夢を返せ!ええい次はお前だ!お前なんか、こうして――。
というのが。5年前の、今日の話。
せっかくの文化祭なのに、つまらない話をしてごめんなさいね。
私の高校時代は、夢も希望も無かったけど。
だからこそ、教員になるための大学に入ったの。
そして私は今、ここにいる。
高校の、家庭科の教師として。このクラスの担任として、教壇に立っている。
まさか卒業して早々に、母校に赴任することになるとは思わなかったけど。
これも、運命だったのかな、って。そう、思っているの。
だから、先生も。楽しんでいいよね?
理由や内容は問わず。
世界的感染症が猛威を振るっていた時期に、深い憎悪を抱えることになった同志っていらっしゃる・・・?