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ラブコメ・恋愛

シャツを裏返しで着ていく、それが俺のフィロソフィー


 俺はシャツを裏返しで着る。

 こうすることで、普段、間違って裏返しで着ちゃったおっちょこちょいというレッテルを剥がすことができるから。

 彼は、いつも社会の窓全開だよ、というふうに。着こなしの一部になるのだ。

 まぁ、さすがにチャックは、セクハラだから開けないが。しかし、チャック閉め忘れでバカにされるぐらいならば、普段から全開でもいい気がする。

 

「キモいからやめなよ」


「ふはは、どうせ普通にしててもキモがられる。ならば、ど真ん中を堂々と歩きたい。ど変態は変態よりも、人権がある。キャラが立つんだ」


 『道』とは、真ん中を歩くものなのだ。オタクもド級にオープンならばいい。隠しているから、(かげ)になるんだ。やましいことがなければ隠す必要もない。ということで、スカートめくりを人生で経験させてください。


「シャツのボタン全開で登校しないでよ。恥ずかしい」


 よーし、バレてない。ちょとずつあげていくぞ。


「裏返したせいで、ボタンを閉めるのがめんどくさい。それに、夏は涼しいぞ。クールビズだ。ビズってなんだ」


 バサっとシャツをマントのようにひるがえす。

 なぜ、マントを制服にしないのか。カッコいいのに。

 あっ、スカートをニギニギしてたの忘れてた。

 バサァ……。


「ビジネス」


 なにも気にしない鋼のメンタルさん。


「所詮、クールもビジネスかー」


 うんうん、何もなかったね。


「そんな私たちビジネスなんです、みたいな意味じゃないと思うけど」


 スカートの下の完全なる防御。短パン。

 神は死んだ。知ってた。

 あれ、なんか、むっちゃ足がこっちに伸びてきてるよ。

 あ、これ、キックだ。


「ぐぼぉえ」


「悪は死んだ」




 裏返されたシャツに血液が付着したので、俺は教室で上半身裸で決めポーズをとっていた。

 なにもない日常を噛み締めていたんだ。

 きちんとシックスパックだ。舐めるなよ。帰宅部でも、鍛え上げることはやめない。なぜなら変態はカッコよくないといけないから。肉体のポテンシャルを最大限にまであげておかないと、警察から逃げる時困るだろう。

 なりたいんだ、受け入れられる変態に。


「次は、移動教室か」


 ガタリと、椅子を勢いよく音を上げさせ、マエストロのように机から必要な科目の教科書を取り出す。

 エクセレントッ!



「あっ、ハダカ先輩だー」


「そうです。わたしがハダカ先輩です。って、服を着てるだろう、いつもは」


「例外があることが異常なんですよねー」


 職質されても、それってあなたの感想ですよね、と言って、ズボンも脱げるぞ。服装の自由、服爽の自由。


「一度間違って、引くに引けなくなったんですよね」


「ち、違う。俺は、シャツは、気分でリバーシブルしているんだ」


「みっともないですよ。せめてシルクハットをかぶりましょう」


「なぜ、そんなものを持っているだー、テンダー」


「女の子はさまざまな帽子を持っているのですよ」


 そう言いながら、昔の漫画家がかぶってそうな帽子をかぶる。

 どこに持っていたんだ。


「帽子、注意されないのか」


「宗教上の理由で押し通しました。ふっふっふ、髪を染めてるわけでもないし、帽子ぐらい自由であるべきなんですよ。帽子はわたしの唯一のオシャレポイントです」


 なぜ俺の周りにはおかしな女子が多いのか。

 変態は集まるのか。しかし、彼女はまだ変態のレベルには踏み込めていない。可哀想に。

 帽子というファッションでは無難すぎるのだよ。

 昔のスケバンを見習いたまえ。あの頃は、もっと自由だった。

 いつから、みんな制服という衣に揚げられたのか。校庭をバイクで爆走するぐらいの気概もない。SNSで晒す程度の陰湿さしかない。


「撮ってくれ」


 シルクハットをかぶって、学校の渡り廊下で決めポーズ。

 これだ。この日常の中の違和感。

 モブにも陽キャにも甘んじない異質な異邦人。カフカの変身を内面に取り込むかのような不条理。


「スマホ持ってません」


「それもまたいい。スマホ持たない系女子。いいじゃないか。その道を突き進んでくれ」


 俺は自分のスマホを放り投げる。

 彼女はそれをベレー帽でキャッチ。


「撮りますね」


 スマホの写真とチャイムの音色。

 おっと、いかないとな。スマホは預けておく。

 遅刻はよくないからな。ダッシュで移動。




 そんな生活をしていたとき、ついに俺は悟りを開いた。

 裏返しでシャツを着て6年。

 ついに目覚めた。

 変態道の変態力に。

 鍛え上げられた変態筋がビクンビクンとし始めた。


「風邪だよ」


 ベットに拘束された俺は見下ろされていた。


「違う。これは、俺の魂が咆哮し始めたんだ」


「おとなしく介抱されなさい」


「ああ、今、解放されようとしている。偉人は体温が高いらしい。俺の今のこの熱はっ。あ、熱いっ!!」


「バカじゃないの」


「頼む。瀉血で治る」


「前近代的な医療行為を素人に頼まないで。飯食って寝ろ、以上。風邪をひいたから、バカが治るといいんだけど」


「いや、俺は、今、進化している。オープン変態から殻を破ろうとしている」


「それ、公園で隠れて露出狂になる的な進化じゃないでしょうね」


「陰の変態に、普段は真人間なのに裏のある人間に」


「それ、通常の変態なんじゃない」





「帽子っ子」


「わたしはガールズハットぐらいのカタカナがいいですけど」


「俺は熱にうなされて気づいた。これからは、真の変態は隠すことに」


「えっと、いまさら、どうやって隠すんですか」


「木を隠すなら森の中。元変態を隠すなら、変態の中」


「はー」


 理解できてないようだな。


「ここに、クラスメイトの変態行為を調べた。これをバラマキ、俺は変態を隠せるのだ」


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