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戦国時代の電気屋さん  作者: 朝風清涼
第5章 桶狭間

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おねちゃんの気持ちはよく分かる…

 親元から独立するまでの俺の人生はずっと犬と一緒だった…小学5年に初めてマルチーズを我が家に迎え入れ、そのマルチーズが老衰で[虹の橋]に旅立った三年後、今度はポメラニアンが実家の(ぬし)として今は君臨している!。

 なので、長年犬と過ごしてきた俺にとって仔犬の世話としつけは慣れたもんである♪。


(さすが、トイプードルは犬の学級委員長だと言われているだけの事があり、小雪も物覚えが速くていい子だな♪)


 ペットシートのトイレ学習、基本のお手、お座り、待て、伏せ、寝転がり、(まり)を使ったボール遊びと、次々にこの子はワンちゃんスキルをマスターしていった❤。

 そんな彼女は、すでに木下家のアイドルになっているのは言うまでも無いのだが、これ以上情が移ってしまう事への不安も俺の中で次第に大きくなり始めていた…。


(特に…おねちゃんと(かえで)さんが要注意人物だな…)


 日が経つほどペットとの信頼関係と情が深まってくる、ここまで小雪は基本を覚えてくれたのだ、そろそろ嫁入り準備を始めた方が、お別れの際におねちゃんと(かえで)さんの悲しみも最小限で抑えることが出来るだろう…。


(なら、早く事を進めるのがいい…)


 その決断の理由は俺自身、いつも一緒に過ごしていたマルチーズが[虹の橋]に旅立った日の悲しみをこの年齢になってもまだ昨日の事のように覚えていたからだ…。

 それに、いつもなら何かと衝突していたおねちゃんと(かえで)さんだが、小雪が来てからは二人で仲良く一緒に遊ぶ姿を見る機会も増えた…ただ、それだけに俺の決断は心苦しかった…。


(小雪は木下家に置いて、もう一度令和に戻って新しい犬を…いや、もう時間が無い……くそ、俺も段々小雪に情が移り始めている!…この気持ちを押し殺さないと、いずれ俺達の命運は…)



 [その日の夜]



 ゆうげを終え、一家団欒タイムになった事を利用し、いよいよ柴田勝家攻略第二ステップを俺は打ち明けようとしていたのだが、とても胸が苦しく言葉を出すのに時間がかかっていた…。

 それはおねちゃんの膝の上で丸くなり、すやすやと眠る小雪の姿を見てしまったからだ…。


「して、巽殿(どの)、わしらに話とはなんじゃ?…」


「は、はい………そ、その……じ…実は…」


 一瞬俺が小雪に視線を向けたからか、それに感づいたおねちゃんはそっと自分の両手で小雪を包んでしまう…(かえで)さんも大人しく正座をしているが、安心して眠る小雪から視線を外しそっと瞼を閉じていた…。


「ふぅ…いよいよなのじゃな?……」


 煮え切らない俺の姿を察してくれた藤吉郎様は、言葉の助け舟を出してくれた…。


「はい、藤吉郎様……桶狭間まで時間がありません……次に我らの行う計略ですが…」


「やだ!!」


(おねちゃん……やはり…来たか……)


「おねちゃん……」


 いきなり声を張り上げたおねちゃんに驚いた小雪は目を覚まし、そっと顔を上げ黒くて愛くるしい瞳で彼女を見詰めている。

 この子はきっとこれからもおねちゃんや皆の中で生きていけると思っているはず、一度でもペットを飼った事がある者なら、そんな小雪の姿を見ているだけで胸が痛むだろう…。


「姉上…我らも辛いですが、最初に巽殿(どの)と約束したではありませぬか…それに、小雪は我らの未来を背負っているのです、どうか心をお静めください…」


「そんなの分かってる、分かってるよ!……たっちゃん…小一郎ちゃん……ま、まだ…時間があるなら…別の策略を考えて……(かえで)?…もう一度鬼柴田の事を…」


「ならぬ!…それはならぬ、おね!」


(藤吉郎様…)


 藤吉郎様は瞼を閉じ、グッと腕組をしながら、堂々たる胡坐(あぐら)座りのままおねちゃんを一喝した、そんな彼の背後で、ぼんやりとあの[太閤秀吉]の姿が俺には見えたような気がした!。


「おね、ここまで来るのに、どれだけ巽殿(どの)は考え苦悩していたか分かっているじゃろ?…それに、楓ちゃん、未来の巽殿(どの)の御友人にまで動いてもらっておる!…それも、我らと、この尾張の為にじゃ!…おねよ、お(ぬし)の気持ちはわしらも同じなのじゃ……今は、耐えよ!…」


「ぐすっ……ぐすっ……ぐすっ…う…うぅっ……」


「のう?…おねや?…」


「ぐすっ……ぐすっ…は、母上様…」


「そなたが藤吉郎の嫁に来てから、この家は花が咲いたように明るくなりました、ほんに感謝しています、でも…そなたは子が出来ぬ事をずっと心苦しく思っていたのも、わしには分かっていました…だからこそ、小雪をわが子のように思うてしまうのは、おなごの本能なのじゃろ…おなごのわしにはよう分かる…」


「うっ…ぐすっ……ぐすっ…母上様…」


 仲様の言葉に一同が静まりかえり、おねちゃんの嗚咽の声だけがこの空間に響いていた…そんな彼女を心配そうに小雪が見詰めている…この子は頭のいい子だ…もしかすると、おねちゃんの心情を感じ取ってるのかも知れない…。


「でもの、おねと小雪は今生の別れではないはず、(かえで)さんが見た柴田様なら、きっと小雪をいい子に育ててくれるし、柴田様がこちらの味方になっていただければ、いつでも小雪と会える機会もあるじゃろうて♪…そう思わんか?おね?…」


「……………」


「のう?巽様、こうなる事もすでに見抜いておられたのでしょ?…それを見越して我らに次の策を伝えたかった…違いますか?」


「…はい、柴田様をこちら側に付け、更におねちゃんや(かえで)さんが、小雪といつでも会える環境を作るには…信長様の妹君(いもうとぎみ)であらせられる、お市様の協力が不可欠になります!」


「お市様!!」(藤吉郎、小一郎、仲)


「はい、お市様がこの計略の大きな鍵となっております!」



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