一瞬の帰省
楓さんからの報告を受けた俺は超最短で令和の時代に帰省し、たった数日でこの時代に戻って来ていた、まぁ俺の体感ではほんの数時間だったのだが…。
(とりあえず戦国時代に戻る前、浩一に手紙を渡したから、瞳ちゃんと上手くやってくれるだろう…またすぐ俺が令和に戻る日時も打ち合わせ済みだし、その間にこちらは次の準備に取り掛かるとしよう…)
「巽殿、この[ぱそこん]とやらは実に優秀ですね、電卓にも驚きましたが、これはそれ以上に作業が進みまする♪…各村の年貢の比率、村民の数、家臣の俸禄や兵数と武器の管理までこれ1台で出来るとは…私にとっては1万の精鋭が付いてくれているようなものです♪」
「小一郎様がとても勤勉で優秀だからですよ♪」
「いえいえ、巽殿の教えが素晴らしいからです♪それと、この[ぐらふ]とやらも便利ですね♪豊作の年や不作の年、これまでの帳簿を元に作成しましたら、大体の周期も読めまする!」
さすが小一郎様はこの短期間でエクセルの基本をマスターしていた!もし、この人が俺の時代に生まれていれば、余裕で東大に合格し何らかの研究で成果を出していたはずだ。
ま、この時代でもゆくゆくは名を残すお方ではあるが…。
「まだまだエクセルには沢山の機能がありますよ♪…まぁ私も分からない機能が多々ありますけどね…」
「して、どの様な機能が?」
「そうですねぇ~…人を使い、近隣諸国における米の売り買いの相場を調べさせ、何処が安く売りどこが高く買ってくれるとかを一覧表にし、それを参考にして利益を作る事も可能ですね…」
「なるほど、豊作の土地から安く米を買い、米不足の土地に尾張で収穫した米と合わせて高く売るのですね!…その差額の利益も[えくせる]が簡単に算出してくれるというわけですか!」
「まぁ、ごく初歩の使用方法ですが…プルダウン機能も入力処理に便利ですよ♪」
「面白い!本当に面白いです、このぱそこんとやらは♪…」
初めて俺が小一郎様にエクセルを教えた機能はオートSUMで、そろばんでの計算なら数分はかかる足し算を、単純に数字を打ち込み[ENTER]キーを押すだけで答えが出た事に彼は感激し、それ以来パソコンの虜になっていたのだ。
「巽殿、私は剣術がからっきしですので戦ではなく、内政で織田家のお役に立ちとうございます!…これから更にこのぱそこんを極めたい所存です!」
(はは、戦国時代第一号のパソコンオタの誕生だな♪)
こうして俺は浩一との約束の日まで昼は清洲城にて信長様と会談をし、夜は小一郎様にパソコン教室の講師をしていた!で、その他の人達はというと…。
「げっ!…楓!…なんでそこで火を使ってうちを足止めさせるのよ!卑怯じゃない!」
「愚問、これは勝負…切り札はここぞの時に使ってこそ切り札…」
「ぬぅ~~…この!……この!…」
「のうのう、おね、わしにも早くそれを貸してくれぬか?…わしも楓ちゃんとげーむしたい…」
令和からこの時代に戻る時、極めて娯楽のない時代だという事で、浩一はこっそりと荷物の中に通信機能があるポータブルゲーム機2台と数種類のソフトを忍ばせてくれていたのだ♪。
ま!当然ながらこの時代の人達がハマらないわけがなかった!。
「うるさい!今、うちは3勝4敗で楓に負けてるの!…うちが楓を負かすまで待ってて!」
「そ、そんなぁ~…わし退屈……」
と、令和の一般家庭と変わらない日常を戦国時代でも再現していたのだが、ここで令和の時代と大きく違う点は、ゆっくりと戦の影がこの尾張に忍び寄っている事だ…この緊張感は令和の時代に住む人では感じることはまず無いだろう…。
(…俺達が桶狭間で自由に動く為には、柴田勝家が後ろ盾になってくれないと…さて、浩一と約束した日は明日…また令和に高速日帰り帰省だが、そこからが本番だ!)
そして翌日、俺は仲様から頂いた大量の完全無農薬春野菜を手土産に令和の時代へと戻ると、浩一に託していた柴田勝家攻略アイテムを彼から受け取り、またすぐみんなの待つ戦国時代に戻って来た!。
(次のタイムスリップは、いよいよ浩一と共にだ!…それまでに勝家攻略の難問を終らせる!)
背中にあの登山用リュックを背負い、両手に穴あきの小さなダンボール箱を抱え、俺は木下家に向かいながら意気揚々と畦道を歩いている。
♪コト、コト…コト…
「ん?…どうした?」
やはり乗り心地が悪いのか、箱の中で可愛い天使が動きまわり、その箱を抱える俺の両手を揺らす。
「もう少しだから我慢してくれよな…あ、もしかしてお前が地球上で初めてタイムスリップをした犬になったんじゃないか♪凄い事をおまえは成し遂げたんだぞ!」
♪コト……コト…コト
「頼むぞ、まだ生まれて間もないお前にこんな重大な責任を負わせて申し訳ないが、俺達の未来の為に頑張ってくれよな♪」
♪キャン、キャン!
「お、やる気満々だな♪……てか、単に早くこの箱から出せ!と、言ってるだけなんだろうな…」
たった一つだけだが、この小さな天使が俺達の希望だ!。
しかし、まだ決定打にするにはもうワンステップ必要…それを始めるには2週間後辺りか…まずはこの天使が人としつけに慣れた頃を見極めてから第二段階の開始だ!。
「すみませ~~ん!巽です~~…只今戻ってきましたぁ~~!」
俺は箱の中の天使を抱え木下家に戻ってきた…。




