俺の考え
静かな田園風景を眺めながら俺は今自分が考えている策を時間をかけて楓さんに説明していた。
「…なるほど、主はそのような考えで柴田様を?…」
「うん、柴田様が好んでいる物を調べて欲しいんだ、茶器でも屏風でも刀でもいい…後、どんな日常を過ごしているのかも…」
「…しかし、柴田様の御身分ですと、それ相当高価な品々を所有されているのでは?…もっと珍しい南蛮物とかはどうでしょうか?」
「う~ん、それだと信長様に献上してしまう可能性もあるし…そうなれば元も子もない…」
家老の知行はどれほどか分からないが、下級の俺達では手が出せない物を多く所有しているはず、武人ならば名馬のプレゼントが喜ばれるだろうが、そんなの譲ってくれそうな人なんて信長様以外俺が知るわけも無い…。
仮に何処かの名家が売ってくれると言っても莫大な金を要求されるだろう…。
(…かと言って松風は手放せないし…そんな事をしたら信長様の逆鱗に触れるのは必至…俺も木下家のみんなも松風は大好きだし、松風だってもう俺達のファミリーだから、例え柴田様が所望しても譲れないな…)
「…分かりました、私の知人からそれとなく探りを入れてみましょう、ただ…私は主が一人で戦場に向かわれるのが今も心配です…」
「一人じゃないよ、浩一も一緒だし!」
「な、なら…尚更、私が着いていなくてはなりませんか?…ま、万が一にでも藤本殿の身に何かあれば、未来の姉様になんとお詫びをすれば!…私は姉様の悲しむ姿を想像したくはありません!」
たった三日の令和ツアーだったが、これほど瞳ちゃんを慕っている彼女がいじらしく思えた、俺だって浩一を無事に瞳ちゃんの元へ返してあげたい!…だからこそ…。
「だからこそ、柴田様を味方に着けたいんだよ…楓さん…これは、君にしか出来ない仕事なんだ…」
「主……畏まりました…身命をかけ励みます…姉様や藤本殿の為…主のご期待に応えたく思います…で、でも…やはり…わ、私は主と共に…戦場に行きたいです…私は常に…主のお側に…居たい…」
少し淋しそうに楓さんは静かに視線を小川に向け綺麗な水の清流を見詰めだした…なるほど!きっと彼女も俺と共に戦場で功を上げ織田家初の女武将になる夢を理想にしていたのだろう!…。
(なら、その夢を少しでも近付けてやらないとな♪)
「じゃ、俺は楓さんの分身を連れて行く事にするよ♪…ねぇ?…その手にしている髪を俺に譲ってくれないかな?…」
「わ、私の髪を?…ぇ……え?…………ポッ❤」
「うん、楓さんの髪をずっと懐に入れて俺の大切なお守りにしたいんだ♪」
「ぉ…お守りだなんて…ぁ…主?…こ、こんな汚れた私の髪で…よろしいのですか?…」
「いいよ、俺も何だか楓さんが側に居てくれてるようで安心できるし♪」
「あ、あ…主❤…わ、私の髪を…後生大事に持っていてくれる……あぁ…は、離れていても…私の髪は主と共に❤……」
楓さんは何故か頬をりんごのように赤く染めながら、いそいそとこれまでポニーテールに結んでいた紐を使い、切った黒髪を纏め始める!…その嬉しそうに微笑んだ彼女の顔は大切なわが子の為に編み物をしている母のようだった。
「で、出来ました……こ、これでよろしいですか?…あぁ…ちょ、ちょっと恥ずかしいです❤…」
何度も折り畳み、30cmほどの長さにまで纏め上げた自分の髪を、彼女は視線を下に向けたまま俺に手渡してくれた…受け取った髪からは、彼女が大切に使っている令和のショップで買ったリンスの甘い香りがした。
「ありがとう、楓さん!…これで信長様に、君がこの戦における縁の下の力持ちだったと伝える事が出来るよ♪…このお守りが織田家を勝利に導いてくれたとね♪…きっと信長様も楓さんに恩賞を与えてくれるはずだよ!」
「………へ?…力持ち?……お…恩賞?…え?…恩賞って……」
「あぁ♪これで楓さんの夢、立身出世の道が見えてくるはずだよ♪…俺も出来る限り楓さんの出世を応援するからね♪お互い、頑張ろう!…」
「…出世?…応援?…頑張る?…は…はは……もう…怒る気にもならない……この……鈍感……」
「え?…何か言った?…」
「別に…何でもありません……」
[ぬおおおおおおおーーーーーーー!!]
川下から聞きなれた声が近付いてくる…その声の主はおねちゃんなのだが、かなり気合の入った声のようだ…俺は素早く楓さんの髪を懐に隠すと、あたかもおねちゃんに気が付かないフリをし、こののどかな田園風景を眺めている事に徹していた…。
[たっちゃーーーーーーーん!!…ぬおおおおーーーー!!]
(あの声のトーン…え?…おねちゃん、キレてる?…なんで?…こりゃまずい!と、とりあえず視線だけでもそっとおねちゃんの方向に向けてみるか…!!…え?…げっ!…お、おねちゃん?…)
畦道を突進してくるおねちゃんは、まるで自分がおなごだという事も忘れているのか、着物の裾から膝と脛を露にしながらこちらに勢いよく走って来ていた!。
(こ、これ以上おねちゃんの加速装置が発動したら、ふ、太ももまで「こんにちは!」になるじゃん!)
「お、おね殿?…な、何たるハシタナイ…」
(いかん!俺があんな姿のおねちゃんを見ていたと楓さんに感づかれたら、また怒られそうだ…)
俺は慌てて視線を前の田園に向け、青春ドラマのように小石を川へと投げ込みながらこの場を誤魔化そうと必死だった!。
「はぁ~、はぁ~…おい!たっちゃん!!…はぁ~、はぁ~…」
どうやらおねちゃんはこの場に到着したようだ、荒い息使いが俺の右側から聞こえてくる…ここでようやく俺はおねちゃんの存在に気が付いた事にする!…でないと、今は二人の女性が敵に回りそうな気がしたからだ…。
「あ、あれ?…どうかしましたか?…おねちゃん?…ぜ、全然気が付かなかったなぁ~…はは…」
「そんなはどうでもいい!…その髪の短いおなごは誰?…ひるげ前になっても帰って来なかったから、おかしいと思っていたけど、こ、こんな所で…おなごと居るとはーー!…」
「あ、主?…ほ、本当に…おね殿に…気が付いていなかったのですか?…」
♪ドキッ!!
「う、うん…ずっと石を川に投げてたから…」
「おんやぁ~…その声って?……」
「良かったです、ここに走って来るおね殿の着物の裾が完全に捲れ…お、おなごの…し、下が…丸見えだったもので…」
「ひっ、そなの!…う、うちとした事が…でも、チョ、チョッピンモールで買ったパンチィを着けてて、よ、良かったぁ~~~♪……て、あ、あんた楓なの?…どうしたのよ、その髪!!」
乱れた着物の裾を戻しながら、おねちゃんは視線を楓さんの頭に集中させていた!。




