自分の心が見えない
主とあの淀川に現れてから3日が経ち、後半刻で私達は藤本夫婦と別れの刻を迎える。
大阪城、メイド衣装の茶店、ショッピングモール、パフェ、緑色の高い[ビル]と呼ばれている塔、快適な乗り物、瞳殿の美味しい料理…そして…私が主に恋なる感情がある事を教えてもらったのも、この令和の時代でだった…。
[昨日・ショッピングモールにて]
私達は元の時代に戻る前、この時代の思い出として土産を買いに主達とまた初日に訪れたショッピングモールへ来ていた。
正直、今でもこの様な騒がしい場所は苦手なのだが、これで見納めだと思うと少し淋しい…。
そんな中でぼんやりとこのショッピングモールを眺めていると、さり気なくおね殿が私に耳打ちをしてきた。
[楓、昨日、うちと約束した事…覚えてるよね?…]
何故かあのおね殿の言葉に不快感を覚えていたからか、その事は忘れたくても忘れる事は無かった…。
「はい、覚えております…」
[それならいいけど…]
いつもの陽気な雰囲気を全く出さず、おね殿はすっと私からそよ風のように立ち去る…そんな彼女の後ろ姿を私はまた右手に拳を作り見詰めていた。
「どうしたの?…楓ちゃん?…具合でも悪い?…車に酔った?…」
「いえ、何でもありませぬ…」
「そう、じゃぁ行きましょうか?…」
皆でこの建物の中に入ったものの、私はいつおね殿が主に声をかけるのか気になって仕方が無く、自分が元の時代に持って帰る商品も考えてはいなかった。
「さ、何処から回ろうか?…楓ちゃんは何か欲しい物とか、気に入った物はある?…巽君に案内させるわよ♪」
「え?…あ、主と?…」
「だって、楓ちゃんは巽君の警護役なんでしょ?…といっても、ここは警備員も常駐してるから、安全と言えば安全なんだけどね…」
瞳殿の言葉に少し私は安堵してしまったが、そんな彼女の言葉をおね殿が聞き漏らすはずも無く、一瞬にして私の安堵は彼女に打ち崩されてしまう。
「あ、たっちゃん!…ほら、この前、うちに買ってくれたリップ!…また別のを持ちたいから、何処に売ってるのか案内してよ♪…楓も瞳ちゃんに何か可愛い物を探してもらってね~♪」
「あ、ちょっとおねちゃん?…楓ちゃんはどうするの?…」
「瞳ちゃんも言ってたじゃない、ここは安全だ!って…じゃ、また後でここに集合ねぇ~♪」
おね殿は私と瞳殿に笑いかけながら主の背を押し、その場から逃げるように消えて行った。
(主……はぁ……)
そんな主とおね殿を、私は何も出来ないまま見送るしかなく、右手の平に喰い込む指先の感触だけが妙に痛かった…。
「しょうがない、それじゃ楓ちゃん、私がその衣装に合うバッグを見立ててあげるから、上のフロアに行きましょ♪…ふふ♪…今回の経費は巽君持ちだから、私も買っちゃお❤」
楽しそうな瞳殿とは違い、私の心は虚しかった…一体、何の為にこの時代に来たのだろう…私は今日まで一度も主の役に立つどころか、迷惑ばかりかけている気がしてたまらない…。
そんな私だから、おね殿は自分で主の側に付き、私よりも自分の方こそ主にふさわしいと認めてもらいたいのだろう…。
(いや、違う……もっとおね殿には深い考えがあるように感じる…それが何か…分からない…ただ、一つだけ分かるのは、おね殿は、私を主から遠ざけたいという事だけ…)
何故、そこまでおね殿が私を主から離したいのか彼女の心が読めない、あの竹刀での打ち合いに負け、剣術以外の事で自分は主の役に立つ所を見せ付けたいのだろうか?。
いや、それならこうも私がイラつくのはどうしてだ?…主の為になろうとおね殿は精進しているのに、それを不快に感じるなど…人として恥ずべき事なのに…。
(私は…ここまで度量の狭いおなごだったのか…)
瞳殿に二階のフロアにある小物を入れる皮製の包みを売る店へと連れて来られたが、私は商品よりも主達の事が気になり心ここにあらずだった。
「あら♪…このブラウンのポーチ、楓ちゃんの衣装に合いそうよ♪」
きっと瞳殿は私の為に色々考えてくれているのだろうが、商品に夢中になっている彼女を尻目に私はその店をこっそりと抜け出し、通路の端から吹き抜けになっている1階を見下ろしながら主とおね殿を探した。
これまで野鳥や森の獣相手に弓の鍛錬を積んでいた私にとって、目立つ白き烏帽子を被っているおね殿を見つけるのは造作もなかった。
(……!…あ、あの明るく派手な店の前に居る……)
主とおね殿は、美しい異人のおなごが画かれた大きな絵を飾っている店の中へと入っていく、もしかするとあの店で主はおね殿の[紅]を買ったのだろうか?。
そんなおね殿の顔は笑顔に包まれ、無所気に主の腕を引き奥へと進んでいく。
(主…)




