楓はメイドさん
「ねぇ?…瞳ちゃん?…たっちゃん達まだ~~?…うち、お腹すいたぁ~~…」
「昨日、あれほどお肉を食べて、まだ食欲があるの?」
昨夜、みんなで食した焼肉、最初は血の付いた肉を見て少々不快に感じたのだが、焼いて食べてみるとかなりの美味で、特に[タレ]なる汁はより肉の味を引き立たせ、私も知らず知らず何枚もの肉を平らげてしまった…。
「だって~、あんなご馳走初めてだったもん…でも、うちだけじゃなく楓だってかなりお肉を食べてたしぃ~~…」
「ふふ、巽君達、殆ど食べずに焼き係になってたもんね…」
「でも、あぁしてみんなで食べるのって…楽しかった♪……うち、一生忘れない……ありがとね…瞳ちゃん…」
「もう、まだ明日もあるでしょ、ほら!…窓から巽君達の車が見えたわよ!…しんみりしないで、おねちゃんらしく笑顔、笑顔よ♪」
「う…うん…」
それからすぐ、主は私達の席を見つけると、藤本殿は奥方の瞳殿の横に座り、主は藤本殿右側に座り私と対面となった。
「遅れてごめん!、ちょうど通勤時間と重なって混んでいたんだ…」
「で、瞳?…昨夜は彼女達、ちゃんと眠れていたか?」
「えぇ、色々初めての事ばかりだったから、やっぱり疲れちゃったみたいで、電気を消したとたん可愛い寝息を立ててたわ♪」
「あ、あの…瞳殿…その様な事は…」
「はは、ゆっくり休めて良かったじゃないか!…それで、もう注文は済ましたのか?」
「まだ、巽君達が来るのを待ってたのよ…」
「それはすまなかったな、で…もう瞳達は注文を決めてるのか?」
「うん、後は浩一と巽君だけよ…」
「そっか、じゃ…俺達は何を…するかなぁ~♪…」
主と藤本殿はそれぞれ[おしながき]の冊子を開き、何を注文するのか悩み始めた、そして…いよいよ私が勇気を出す刻がやって来た!。
(な、なんだ?…この緊張感は!…わ、私は…幾度も剣客と渡り合ってきたのに…たかが主に一言お願いするだけでこんなに怯えるとは、伝承者の名が泣いてしまうではないか!)
「よし、俺はこの焼き魚定食にするか!…で、淳一は決まったか?」
「う~~ん、そうだなぁ~~…パンもいいし、日本人なら米も……いや、モーニングカレーは…」
「もう、巽君て昔から優柔不断よね~…男ならズバッ!と決めなさい!」
「ご、ごめん…つい目移りして…はは…」
(い、今だ!!)
「あ!…あの!…あ、主!…」
「わ!…ビックリした~!…い、いきなりどうしたの?…楓さん?…」
「そ、その…ま、まだ…お決まりでないのなら………こ、これを…お願いしてください!」
私は自分でも信じられないほど恐る恐る[おむれつ]なる絵に指を指した…。
「オムレツ?……これを注文するの?…オムレツセット…ね……う~~ん…」
「い、いけませんか?…」
「巽君!…女の子が食べて欲しいとお願いしてるんだから、ここは男らしく、楓ちゃんの願いに答えてやりなよ!」
「え、あ、は…はい…じゃ、この…オムレツセットを…」
「あ、ありがとうございます、主♪」
それからしばらくすると、次々と注文した料理が私達の前に並べられていく……ただ、主の注文した[おむれつ]はまだ来ていない、それが更に私を緊張させていた。
(お、落ち着くのよ…楓…今こそ、私はユリア殿の魂を受け継ぐのよ!)
[お待たせいたしました、オムレツセットでございます…]
(き、来た!)
「あははは~♪…これで全部揃ったね、では!…みなさんでぇ~~…いた…」
「あ、あの!!…あ、主!…そ、その…お、[おむれつ]やらを、私に預けていただけますか!」
「え?…か、楓さん?…なんで?…」
「もう~、楓ぇ~~!…さっきから、たっちゃんに何をしたいのよぉ~~…うち、早く[ぱん]てのを食べたいんだけどぉ~~!」
「まぁいいから、おねちゃん!…もう少し楓ちゃんを見守ってあげましょう♪…ふふ♪、そういう事か……」
「何だか、意味は分からないけど……じゃ、どうぞ…楓さん……」
主は首をかしげながらも、[おむれつ]が乗った皿を私に差し出した!…私は皿の上にある[おむれつ]を見ながらそっと瞼を閉じ、精神を統一させていく!。
「あの?…楓さん?……な、何をしたいのかなぁ~~?…」
(武を極めし者は、事を成す前、心を一点に集中させる……私は剣客!…恥かしさを忘れ…この一手に全ての魂を込める!)
「い、今からぁ~~…楓が~~、ご主人様の[おむれつ]が美味しくなる[おまじない]をしちゃいまぁ~~す❤」
「は?…か、楓…さん?…」
「楓ちゃん、それ…コーヒーの事よ…」
「うっ、その手があったか!…チッ、楓のやつぅ~~~…」
精神を統一した私は、静かに[ケチャップ]の筒を握り、白い蓋を開ける!。
(…剣舞を舞うように心を集中させのるだ、楓!)
「い、いざ!…参る!!」
「楓ちゃん…やろうとしてる事と、言ってる事が支離滅裂なんだけど…」
(し、静かに呼吸を整え、まずは最初の一太刀を……いきなり、ここでつまずくわけには…いかぬ!)
私はユリア殿が先に描いてくれた猫ちゃんの耳から同じく画き出した!。
(猫ちゃんの……左み~~み❤……よし、いい感じで出来た♪…次は、二の太刀!…気を緩めるな、楓!)




