信長と拝謁!
額から溢れた汗が頬にまで伝い、俺と藤吉郎様は生唾を飲み緊張感に耐えていた!。
(はぁ~、はぁ~…こんな緊張したのは初めて金融機関に融資をお願いした時以来か?いや、今はその数倍心臓がバクバクしている!)
廊下の板を踏み締める足音が少しづつこの広間に近付いて来る!ここにやって来るのはあの<織田信長>なのだ!一つ間違えれば命は無い!その恐怖感はこれまで味わった事のないほど俺の身体を強張らせている。
♪スゥ~~~~~~~~
障子が開く音が聞こえた!ノシ、ノシ!と畳を踏む音が土下座をしている俺の頭上から響く!今、ほんの数メートル前で<織田信長>が一の段に向かい歩いているのだ!。
(…ゴクリ!……)
♪ノシッ、ノシッ、ノシ………………トサッ!!
(今、座布団に座った?)
「ふぅ~~~……面を挙げ!!猿!!」
「は!ははぁーーーーーー!!」
(この時まだ俺は頭を挙げず、信長が指示するまで下げておくんだったな……)
「すでに評定も終わり、夕げの刻だというに、わしの酒を邪魔してまでの火急の用件とはなんじゃ?」
(これが…織田信長の声!…でも、かなり不機嫌そうに感じる…ちょっとヤバイんじゃ……)
「は!ははぁーーー!!この度は多忙な殿の刻を割いていただき……」
「そんな口実はよい!!用件とはなんじゃ?」
どうやら緊張感が漂う評定から解放された信長はゆっくりと酒を飲もうとしていたが、俺と藤吉郎様に邪魔された事で彼の機嫌を損ねる原因となったようだ!。
(これ…やっぱり命の覚悟をしなければならない展開?)
まだよく理解していないが、信長の性格は歴史書と同じく気分屋なのかも知れない…果たしてこの状況をどう藤吉郎様は打開するのか少し興味が出て来た。
「は!…実は隣に居る<巽淳一>殿を殿にお目通りさせたく連れて参りました!」
「ふん!仕官目当ての男か!今は人材が足りておるわ!そんな事の為にわしの酒を邪魔したのか!猿!」
「い、いえ!!トンでもございません!…そ、それよりも殿に献上したき物がございます!!」
「あぁ?…何も持っておらぬではないか!猿!わしをからこうておるのではあるまいな!!」
(やっべぇ~~!!益々機嫌が悪くなってるじゃないか!!人たらしの豊臣秀吉は何処行った!!)
「いえ!献上したきは巽殿の持ち物でございます!」
「ほう、だが…その男の横には汚らしい風呂敷包みしか無いではないか!わしに献上するなら箱ごと包んでくるのが礼儀であろう!!」
「いえ!いえ!これには深い訳がございまして、どうか暫くの間!拙者の話を聞いてください!」
藤吉郎様は信長に尾張の峠での出会いからこの清洲城までの経緯を話し始めた!その間、ずっと俺は土下座状態を保つしかなかった…。
(腹苦しい~~!!足が痺れる~~!!腰も痛くなってきた~~!!)
「ほぉ~~~…そやつは470年後の未来からやって来ただと?………猿!!…わしはこれまで家臣から馬鹿にされた事は一度も無い!…貴様!!この場で手打ちにしてくれようか!!…」
「い、いえ!い、今拙者が殿にお伝えした事は全て事実であります!だからこそ、お人が居ないこの刻を狙い、殿にお目通りを願った次第でございます~~!!」
「ならばその男が未来から来た証拠を見せよ!!…いや、未来からか……そうじゃ!わしの未来はどうなるか伝えてみよ!!なるべく近い未来からじゃ!!」
「と、殿!!そればかりは!!…せ、拙者も巽殿に自分の将来を聞いたのですが、それを答えると自らの身体が消えてしますそうで…」
「どうせわしにはその巽とやらがどうなっても構いやせん!!猿!!どちらか決めよ!わしにその男と共に斬られるか、翌日処刑されるかどっちだ?」
(まずい!信長は本気だ!!くそ、どうする?……信長の人生を伝えれば歴史が変わる…しかし、ここで藤吉郎様が殺されても歴史が変わる!なら、選ぶ道はただ1つ!!)
「お、恐れながら…信長様!!…」
「貴様には聞いておらん!!黙っておれ!!」
「いえ、お答えいたします!今、信長様のお心には美濃の義父でもある斉藤道三、東に上洛を狙う今川義元と難敵を抱えお悩みのはず!そしてまず最初に対処しなければならないのが公家狂いの今川義元!」
「ほう、公家狂いの義元だとよく知っておるの!」
「そして…信長様はすでに義元征伐の計略をお考えになっているはず!」
「なんじゃと……なら、申してみよ!!」
俺は頭脳をフル回転させ、過去に勉強した教科書・コミック・アニメ・ゲーム・大河ドラマから信長の人生を思い出していく!。
「は!現在の織田家の兵力と今川勢の軍勢は大きく差があり、家臣の意見も割れているはずです!決戦を望む者、篭城を望む者…しかし!すでに信長様のお心は決まっております!」
「ほう、なら当ててみよ!!」
「……今川義元を討つ!!…と……」
「…ん!!…」
(どうやら史実通りのようだな!信長が反応した!!)
「更に申し上げれば、信長様は家臣団の士気を挙げる為、決戦当日、夜も明けぬうちに単身で出陣され熱田神宮に向かわれる!それは家臣達のお覚悟を見極めるお考えがあっての事…」
「…ほう………続きを申してみよ………」
「はっ!その後、家臣団と合流された信長様はある場所へと向かわれます…そこはずっと信長様が決戦の地だと決めておられた場所に……」
「して!わしが決戦の地と決めていた場所とは?…答えてみい!!」
「……田楽桶狭間!!……」
「…な!!…き、貴様!!…まだ誰にも言うておらん事を!!…何故分かった?…」
「お、恐れ入ります……」
この瞬間、広い大広間が更に静かになり、俺はただ額から流れ続ける汗を恐怖心と共に感じていた。
♪ノシッ!………ノシッ!………ノシッ!!
(……え?信長が…俺の前にやって来てる?)
♪ノシッ!………ノシッ!……ノシッ!……………ドサッ!!
(おいおい、俺の前に信長が座った?…)
「巽!!面を挙げよ!!」
「は、ははぁ~~~~~~!!」
顔を挙げた俺の目の前に浴衣姿の織田信長が座っていた!顔立ちは正に歴史書に載っていた絵とそっくりだったが、まだ絵のように頭髪を剃った曲げ姿ではなく、今の俺のように髪を束ねた曲げをしていた。
「貴殿が<巽淳一>か?わしは尾張の頭首<織田上総介平信長>である!」
(いや!もうこれでもないかというほど知っております…え、<おだかずさのすけだいらのぶなが>が正式名なんだ!それは初めて知ったな…)
「お、お初にお目にかかります……た、巽淳一です…」
「ほう、なかなか良い顔立ちだ!………でかした猿!!!…やはり天はこの信長に天下を与えようとしておるぞ!!この巽は天がわしに授けた神の使いじゃ!!」
「は、ははぁーーー!!あ、有り難き幸せでございますーーーーーーーーーー!!!!!」
「して、巽よ!わしは義元の首を取るのじゃな?」
「まさしくその通りでございます!その当日、桶狭間一帯は豪雨となります!それに乗じて…」
「義元の首を狙うか!!わはははは♪見事じゃ!!天候まですでに知っておるとは♪」
「と、殿?…これで巽殿が未来から来たとお信じに?……」
「桶狭間まで当ておったのじゃ!信じるしかあるまい!わはははは♪」
(た、助かったぁ~~~…これで死罪は免れるぅ~…)
またしても俺は信長の迫力に失禁寸前だったのは言うまでもない!しかし、こうして令和時代に生きる俺が、本物の織田信長と会話をしたなんて、さぞ後世の歴史家は羨ましがるだろう!。
「して、猿よ?わしに献上したき物とはなんじゃ?」
「は、ははぁ~~…で、では巽殿!例の物を……」
「あ、はい…」
俺は信長が見ている前で風呂敷を開き電工ベルトを出した。
「ほう、見た事も無い皮製の帯じゃな?…それに、妙な道具もある……これをわしに差し出すのか?」
「いえ、それらではなくこの筒でございます…」
俺は電工ベルトのポケットから<ペンライト>を取り出し信長に手渡した。
「なんじゃ?この鉄の筒は?釘でも打つのか?」
「殿!これは<ぺんらいと>と言いまして、闇夜でも昼間のように明るく照らしてくれる道具でございます!これがあれば松明の火よりも目立たず安全に夜道も歩ける優れものでございます!!」
(どうやら藤吉郎様は自分の口で信長に伝えたくてたまらないようだ…なら、ここは藤吉郎様に任せてみるか…)
「こんな細い筒でか?」
「左様でございます!その筒から出ている突起物を前に押し出してみてくだされ♪」
「こ、こうか?………」
♪ピカッッ!!!
「お!おぉ!!何じゃこれは!!火も使うておらぬのに、これほどの光りを作るとは!!」
「殿!それが<ぺんらいと>たる物でございます!!巽殿の居た未来の道具でございます♪」
「お、おぉ!何度も消しては点け、消しては点けを瞬時に出来るではないか!!これをわしに献上してくれるのか?」
珍しい物や南蛮物に興味があるのは史実通りなのか、信長は何度も<ペンライト>の光を灯し子供のように遊び始めた!。
「さ、左様でございます!!」
「いや、だがな…屏風や茶器ならともかく、こんな貴重な物をタダで貰うわけにはいかん!これはわしが買い取る事にする!おい!欄丸!!100両持って参れ!!」
「はは!!」
信長の後ろを見ると<一の段>に刀を縦に掲げて座っていた小姓が返事をした!。
(欄丸?…あの、イケメンが<森欄丸>か!!そ、それに…ひゃ…100両って…)
史実によると<森欄丸>はかなりの美形だと記されてあったが、これもまた史実通りの美形であり、間違いなく俺の時代に生まれていれば、かなりの人気アイドルなっていたはずだ!。
「あ、あの…信長様…私は信長様に献上を……」
「構わぬ!お主は今日からこの織田家が抱える事にする!わしの天下取りを手伝え!!そうじゃのぉ~、まずは足軽頭じゃ!知行は5石与える!!」
「い、いきなり足軽頭とは!巽殿もかなり殿の御信頼を得たようで、この藤吉郎も嬉しいですぞ♪」
「ひっっ!!あ、あの信長様…わ、私はただの町人で…い、戦のお役には…それに、一切武芸の心得もありませんし…そんな地位を頂いても…」
「よい!巽はわしの側で進言をすればいい!他の家臣にも巽には手を出すなと伝えておく!」
「おぉ!殿のお側なら巽殿も安心でござるな♪いや~羨ましい限り!!」
(どこがだよ!これって俺も戦場に行くって事じゃないか!!そ、それに…ずっと信長と同行するって事は…ほ、本能寺の変はどうなるんだよ~~!!)