楓!憧れのメイド衣装を身に着ける❤
あのメイド喫茶から瞳殿はスマホではなく、紙を見ながら歩いていた…どうやらあの店のおなご頭目が、メイド衣装を所望していた私の為に地図を書いてくれていたのだ。
「えっと、この通りを出て…すぐ左に……あっ!…楓ちゃん、あの店じゃない?」
「あ………ぁ……あぁ……ま、正に……あの店のおなごと同じメイドの着物が………」
「あははは~♪…また[めいどきっさ]に入るの?…うち、お腹一杯だよ~♪」
「なるほど、ロリ系ファッションの専門店か……」
あの店の外観も先ほど訪れたメイド喫茶のように白や桃色の派手な壁色だが、外で[ほうき]らしい物を使い掃除をしているおなごもあのメイドの着物を身に着けていた♪。
「じゃ、お待ちかねのメイド服を買いに行きましょうか!」
「は、はい♪…瞳殿♪」
[半刻ほど過ぎ]
もう[らんじぇりー]の試着経験をしていたからか、私は憧れだったメイド衣装の着方を学び一人で着る事が出来ていた♪…あの白いヒラヒラ簪、膝下まである裾の長い黒の着物に白の前掛け、膝まで伸びる真っ白な長い足袋…どれもこれも私が初めて身に着けるものばかりだった♪。
♪コン!…コン!
「どう?…楓ちゃん?…服、窮屈じゃない?…」
戸の外から私を心配する瞳殿の声がした。
「だ、大丈夫です……も、もう着れました……」
「じゃ、ドアを開けるからこちら側に向いててね♪」
「え……あ……は、はい……」
また心臓がドキドキしてきた…だが、これは緊張や恐怖心ではなく、もっと心が温かくなるようなドキドキだ…そんな柔らかい鼓動を感じながら、私は身体を反転させ、下げた両手をそっと前で重ねると、軽く笑みを浮かべ戸を見詰めた…。
♪ガチャッッ………キィィィ~~~~~……
「さ、楓ちゃんはどんな姿に~♪………えっ!……う、嘘……でしょ?……ほ、本当に楓ちゃんなの!!」
「あははは~♪…どれどれ、あの楓じゃ大した事は~~………うえっ、あ、あんた…本当に楓なの?…な、なんで髪を三つ編みのお下げにしてるの?…馬の尻尾はどうしたの?」
「は、はい…この店の…おなごが…お下げをしており…とても可愛く見えましたゆえ…私も真似してしまいました…ちょうど髪留めの紐もありましたし…ポ❤」
「…か、楓…ちゃん……ちょ、超…可愛いんですけど~~~♪」
「う、ま…まぁ…う、うちの白い烏帽子姿よりは地味だけど……さ、さっきうちの事を褒めてくれたから、褒めてあげる!……か、可愛いよ…楓……ふん!…」
「あ、ありがとうございます…瞳殿、おね殿……う、嬉しいです……」
剣客はいつ何処で剣を交じり合うか分からぬので、これまで普段の私は着物と袴姿ばかりだった…そんな私が令和に来てようやくおなごらしい着物を身に着けることが出来たのだ♪。
「楓ちゃん!…はい、これも♪…」
「…?…この黒い履物は?…」
「おねちゃんの服ならシューズが似合うけど、楓ちゃんのメイド服ならやっぱ革靴しかないっしょ?…さ、一度履いてみて♪…窮屈だったらもうワンランクのサイズにするから♪」
「か、かたじけない…」
まるでこの服も革靴なるものも、全て私の為に作ってくれたのか?…と、思うほど瞳殿の見立ては私の身体に合っていた♪…。
「さて!…今日はこれで女子会はおしまい♪…今、巽君からライン来たけど、今夜は倉庫の敷地で焼肉をするみたいよ♪…楽しみにしててね!…」
「あははは~♪…焼肉?…それ、猪とか兎のお肉?…」
「どうだろう~?…きっと、和牛のいいお肉よ♪…もの凄く美味しいのよ~♪…それに最近、あの二人は商売で儲けたそうだから♪…奮発してくれるはずよ!」
「わぎゅう?…あははは~♪…それ、何のお肉?…」
「牛よ♪」
「う、牛!……あ、あんな大事な動物を食べちゃうの?…畑はどうなるの?…」
「だ、大丈夫よ…食用の牛だから……そっか、おねちゃんの時代では農業に使ってたんだ…」
「ひ、瞳殿…本当に牛など食べられるのですか?…に、臭いもありそうですが…」
私の頭には、泥だらけで常に蝿が飛び交い、涎を垂らしながら尻尾を振り、のんびりと土を耕している牛の姿しか想像出来ずにいた。
「ま、食べてみた時に分かるわよ♪……ん?…でも、その服装で焼肉はキツイわね…匂いが付いてもいけないし……よし、倉庫へ行く前に私の家に寄ってお古のジャージを持っていく事にしましょう♪」
「じゃーじ?…」
「ま、いいから!…さ、帰りましょ♪」
このメイド服の料金を払い済ませ、私達はずっと放していた瞳殿の蒼き猪が居る[ぱーきんぐ]まで戻って来た。
「うふふ♪…ここに戻る道中、すれ違う人みんなおねちゃんや楓ちゃんを見ていたわね♪…ちょっと羨ましかったわ♪」
「ひ、瞳殿…ま、まさか…我らの[ぱんてぃ]が見えていたのですか?」
「う、うち…あのカニカニ姿してなかったけど…」
「違うわよ♪……二人とも本当に可愛いから、みんなが見惚れていたのよ♪」
「見惚れて?…」
「う、うち…ただ歩いてただけだよ…」
「でも、この時代の人はあなた達を可愛いと認めたのよ♪…2人共自信を持ちなさい!」
「う、うん…」
「か、畏まりました…」
こうしてまた我らはこの猪に乗り、瞳殿の家に寄ってから主の待つ蔵へと戻って行く…私はこの道中、何度も視線を下げ、今自分が着ているメイド服を眺めては口元緩ませていた…。
(本当に…着れたんだ……主…褒めてくれるかな……)
気持ちが高揚している時は何故か刻の経つのが早い…すでに私の視界には主の蔵の屋根が道沿いに見え始めていた。
「いい?…ちょっち巽君と浩一を驚かしたいから、私が合図するまで車から降りちゃダメよ♪」
「あははは~♪…いいよぉ~~…」
「心得ました…」
猪が蔵の敷地に入ると、主と藤本殿が蔵の前で、囲炉裏のような鉄製の籠から煙を立ち昇らせていた…。
「おっ、浩一達、もう準備をしてるみたいだね♪」
瞳殿は握っていた丸い輪の真ん中のボタンを軽く叩き猪を鳴かせると、その声に主達はこちらに視線を向けた!。
「あははは~♪…たっちゃんだぁ~~❤」
(…主……御無事で何よりです……)
「じゃ、先に私が車から降りるから、あなた達は私が合図するまで待っててね♪」
先に瞳殿が猪から降りると、ゆっくりと主と藤本殿へと歩き出したが、主達も瞳殿の元へと駆け寄って来た。
「お帰り、瞳!…大変だったか?」
「まぁ、色々とね……でも、楽しかったよ♪」
「すまないね、瞳ちゃん…無理な事をお願いして……ありがとう、恩に着るよ…」
「いいって♪…でも、しっかり巽君名義で領収書もらって来てるから♪…よろしくね!…」
「あ…あぁ…分かったよ♪……で、あの二人はまだ車に?」
「ふふん♪……じゃ、今からおねちゃん達を呼ぶね♪……おねちゃぁ~~~ん!……楓ちゃぁ~~ん!…出てらっしゃ~~い!…」




