楓!心がモヤモヤする
店の奥から現れたおなごは細身で背丈は私より少し高いように見える、それに下ろすと長そうな黒髪は綺麗に頭上で纏めており、年齢的には瞳殿に近いようだ…しかし、ここで奉公しているおなご達に比べかなり地味な衣装だが、なぜか武家の奥方のような威圧感を彼女から感じた。
「急にお呼び立てして申し訳ありません、私、藤本瞳と申しまして、彼女達の保護者をしております」
「そうですか、ここでは他のお客様の事もありますので、事務所でお話をお伺いいたしましょう…」
「すみません、それじゃ楓ちゃん、おねちゃん、少し私は席を離れるけどここで待っててね、他に注文したい物があれば頼んでいいから!」
「うん、ユリアちゃんと待ってる♪」
「畏まりました…」
瞳殿はこの店の頭目と共に奥へと消えて行き、私とおね殿だけがここに残されてしまった。
「あぁ~あ、瞳ちゃん行っちゃった………」
「どうしますか?…おね殿?…まだ何か食べますか?…」
「いっ!…も、もう、うちはあの[おむらいちゅ]でお腹一杯だよぉ~…楓はどうする?」
「私も満足しております……困りました…こうなると何をすればよいか…」
普通、茶店で飲み食いが終われば即座に立ち去るのだが、瞳殿を待つ以上ここに居なければならない、この腹を満たした状態で私達は何をしていいのか途方に暮れた。
「それではお嬢様、本日の来店記念に私達とチェキを撮りませんか?」
(ちぇき?…確か、あの五月蝿く不快な男共が言っていたヤツか…)
「え?…ちぇき?……それは美味しいの?」
「ユリア殿、何を[とる]のか知りませんが、この店で悪事を働くなど私は見逃す事が出来ませぬ…」
「本当にお嬢様は面白いですね♪……ほら、これでございます…」
ユリア殿はこの店の[しながき]と一緒に立てていた薄い冊子を手にし、私達の前で項を開いてくれた。
「あははは~♪…すご~い、この小さくて四角い紙の中に、ユリアちゃんと同じ格好のおなごが入ってるよ~!…こんなに綺麗な絵が描ける人が居るんだねぇ~♪」
「それにしても…このおなご達と描かれているのは男と一緒が多いですね……それも、男共は皆…嬉しそうに笑ってます…」
紙の中に画かれている絵のおなごは[メイド衣装]を着て可愛いと思う……だが、その横に描かれている男の顔は先ほど騒いでいた男達と同じような雰囲気がムラムラと溢れており、何故!可憐なメイドおなごの姿を台無しにするニヤついた[ぶ男]を画いたのか、この時の絵師の心境が知りたくなる!。
「あ、あの…お嬢様?…これは絵ではなくて、写真ですが……あ、これは失礼いたしました!…今、お嬢様は私のメイドとしての力量を測る為に、敢えて何も知らないふりをするゲームを始めてらっしゃるのですね?…分かりました、ユリア、がんばります!…むん!」
(…ユリア殿は、何を一人で息巻いているのだ?…)
「ねぇ?…ユリアちゃん?…この[しゃしん]ていう紙が[ちぇき]なの?」
「そうです♪…いかがですか?…今日の記念にお嬢様もこの紙へ自分の姿を残しては♪…みんな(お嬢様方のチェキは可愛い❤)と褒めてくれますよ♪」
「ほんと?…褒めてくれるの?…じゃ、うちやってみようかな♪」
(褒めてくれる?……もし、この紙を主に見せたら…私の事…褒めてくれるかな……)
「あははは~♪…じゃぁ、真っ先にたっちゃんに見せてあげよう~っと❤」
(えっ!…)
また私の心臓がキュッ、と苦しくなった!…別におね殿は私に何もしていないし、言ってもいない…なのに、私はおね殿の言葉に不快感を感じてしまったのだ…。
(何故、おね殿が主の事を口に出す度に、この様な気持ちになるのだ?…分からぬ…恐らく…私はおね殿に警護役を奪われる事を案じているのやも知れぬ…あぁ、何たる心の狭さなのだ!…まだまだ私は精神修養が足りぬ……)
「お嬢様、[たっちゃん]というお方は恋人ですか?」
「え?…こいびと?……何それ?…よく分かんないけど、でも、それは~~…ひ・み・ちゅ…」
「あは♪…とっても素敵な方なのでしょうね♪…また[たっちゃん]様とここにお帰りになってくださいね❤」
「あははは~♪…分かったぁ~~!…またたっちゃんと一緒に来るねぇ~~♪」
(え?…)
おね殿はきっとこの時代から来た主に色々と風習を学びたいだけなのだ、そんな向上心のあるおね殿なのに、明るく主の事を彼女が口に出す度、私の胸の奥がもやもやしてしまう。
(おね殿はおね殿、私は私!…私は私の役目に精進するのみ…それに、おね殿が主の事を口にしても、私が気にさえしなければいいだけ…)
「浴衣のお嬢様はいかがいたしますか?…チェキを撮りましょうか?」
(この[ちぇき]なる絵の描いた紙は二枚もいらないだろう…おね殿がその気になっているなら、おね殿の分があれば…それで………)
「ねぇ?ユリアちゃん?…この[ちぇき]なんだけど~、これってうちと楓とユリアちゃんの3人はいけないの?…二人しか絵師さん、書いてくれないの?」
(お、おね殿……)
「絵師さん?…あ、だ、大丈夫ですよ、お嬢様……では三人で撮りましょうか?」
「あははは~♪…じゃぁ、この[ちぇき]をたっちゃんに見せたら、うちらを褒めてくれるね♪」
「はい♪…お2人共お美しいですから、きっとお喜びになりますよ♪」
時々、おね殿が振る舞う悪気の無い無邪気さが鼻に付いていたが、やはり彼女は私よりも大人だった事をこの時目の当たりにした…。
(おね殿は、自分の事だけの人では無かった…ちゃんと私の事まで気を使ってくれていた…申し訳ありませぬ、おね殿…まだまだ私は大人になれぬ未熟者でした…)
「あははは~♪…じゃぁ楓ぇ~♪…三人で「ちぇき]しようよ~!」
「か、畏まりました!…私が…ど、どのようなブサイクな絵になっていても、お恨みいたしません!」
「うふ♪…本当に面白いお嬢様達ですね♪」




