とんぼ返り
倉庫に戻った俺達は、おねちゃん達にも手伝ってもらい信長様に届ける荷物の梱包も終わらせ、すでに俺と浩一は屋根の上に荷物を乗せ最後の仕上げにかかっていた。
「結局、中型ダンボール2箱+フライドチキンの箱が1箱になったな…」
「淳一、しっかり荷物を持っていろよ、その為に少し緩めにロープを縛ってるんだからな!」
「分かってる、しっかりロープを握ってるよ!…」
屋根の下にはおねちゃんと楓さんが見守っている…やはりおねちゃんは楽しそうに俺を見ているが、楓さんは主の俺が一人で戦国時代に戻ってしまう事が不安のようで、左手の甲をそっと右手に添えながら、淋しそうな色気を出し視線を地面に向けていた。
(あの子、マジで無意識に男心をくすぐる仕草をするよな…あれって、あの子が持つ女としての本能なのかな?…)
俺の視線に気が付いたのか、楓さんはそっと自分の顔を上げた…そんな彼女は悲しそうに瞳を潤ませながらも、小さく俺に微笑んでくれた…。
(だから、その可愛い仕草をされると…男は凄く弱いんです!…それも、おねちゃんの横でそんな顔しないで!)
「淳一、約束の時間まであと1分……」
「え?…お、おう……」
「悪いがこの時間からだとお前を淀川まで迎えに行く事は出来ない…なにせ天神祭りの真っ最中だしな…どの道も混んでいるはずだから…」
「あぁ、何とか電車でここに戻って来る!…それまでおねちゃんと楓さんを頼むわ…」
「おぉ、間もなく嫁さんもここに来るから、彼女達を紹介しておく…それと、ちゃんと小一郎様に[取り説]を渡すのも忘れるなよ…」
「あぁ任しておけ!…それに瞳ちゃんが付いてくれるなら安心だ♪…さて!…またバンジーしますか…」
「未来の天下人によろしくな!」
「おう、また後でな!…せ~~のっ!!」
こうして俺は梱包した荷物のロープを握り締めたまま、小一郎様との約束の時間2秒前に屋根から飛び降りた!…偶然にも外の通りには人も車も無かったのが幸いだった。
…………………
………………
……………
…………
………
「…………殿……巽殿!…………」
「ん………んん~~~…………あ、小一郎様……」
「約束の時間どおりでしたな、巽殿!…」
「お、おぉっ!…巽殿!……よくぞ無事に戻られた♪」
「藤吉郎様……ただいま戻りました…」
藤吉郎様達は、約束の場所である[庄内川]の土手に木製の荷車を用意し、俺の到着を待っていてくれていた。
「いやはや、急に巽殿が現れたので驚いたぞ!…して、楓ちゃんは息災か?…ま、まさか…令和の若い男共に、気を惹かれてはおるまいな?…」
(何故、最初におねちゃんの事を聞かないの?…)
「み、みんな元気ですよ…さ、早く荷物を荷車に!…」
「お、おぉ!…そうじゃった…」
荷物を積み終えた俺は、小一郎様に各商品の[取り説]を納めた1冊のファィルを渡し、次に梱包してある箱の説明を始めた。
「まず、この赤い印がしてある箱が[胡蝶]様用の夏の便利道具と、[お市]様の化粧道具一式が入っております、そして青い印の箱には信長様に献上する[缶コーヒー]と[酔わないお酒]が納めております!」
「あいわかった!……して…巽殿?……我らには……何もないのか?…」
「兄上!」
「はは、ありますよ♪……今回は食べ物を持ってきました!…」
俺はフライドチキンの箱を彼らの前に差し出した。
「くん、くん……何やら芳醇な香りがするのぉ~~…匂いだけでも美味そうじゃ!…」
「は、はい…恥ずかしながら私も兄上と同じく、そう感じておりました…」
「これはフライドチキンと言いまして、鳥の肉を油で揚げた食べ物です!…私の友人[浩一]が藤吉郎様と小一郎様にと渡してくれました…さ、どうぞ♪…あ、骨は食べられませんので御注意を…」
「な、なんたる!…巽殿の、御友人からのお心遣い…感謝いたすぞ!」
「こ…これが…フライドチキンなる食べ物ですか?…では、巽殿…遠慮なく……」
藤吉郎様と小一郎様はそれぞれフライドチキンを手にし、恐る恐るそのチキンを口にした。
「………う!!!!………」
「………え!!!!………」
「い、いかがですか?……」
「うっ……美味~~~~~~い!!」
「お、美味しいです~~~~!!」
一噛みでフライドチキンの味を理解したのか、それからの彼らは飢えた狼のようにフライドチキンへかぶりついた!。
「美味い!…このフラフラチキンとやら、外はカリッ、中の肉からはジュワっと油が染み出し、これは癖になる美味さじゃ♪」
「あ、兄上!…こ、こんなご馳走は…初めてでございます!…」
(良かった、気に入ってくれて……サンキューな、浩一!)
[令和5年の大阪]
<楓視線>
主があの屋根から飛び降り、目の前に積んでいた箱に落ちた瞬間、主の姿が消えた…私も昨夜、あの欄干から飛び降りた時、木下殿の目にも同じ光景が映っていたのだろうか…。
「ふ、藤本殿?……まだ……主が…戻りませぬが……小一郎殿が言っていました…私があくびをする間にすぐ戻って来ると…」
「えぇ、もう恐らくは淀川に戻っているはずですが、橘さんもさっきこの大阪を見られた通り、今日は天神祭りでどの道も混んでおります…なので、淳一は電車を使いここへ戻って来る事になっています…」
「で、でんしゃ?…ですか?」
「あははは♪…うち知ってるぅ~♪…あの大蛇みたいな乗り物だよね?」
「そうです、よく御存知ですね…」
「たっちゃんに教えてもらったのぉ~♪」
「お…おね殿は…主の身が心配ではないのですか?…」
「え?…なんで?……あははは♪…だって、この時代の人、誰も刀を持ってないじゃ~ん!…これなら貧弱で腰抜けなたっちゃんでも大丈夫だよぉ~!」
「えらい言われ方されてるぞ…淳一…」
この時代のおなごを見ても、さほど物騒な国では無い事が分かっている…しかし、どの時代でも悪事を働く者はいるはず…もしそのような輩が主に手をかけたとならば、私はその者の両腕両足を斬り、最後に首を刎ねるつもりでいた。
(主……どうか御無事で……)
「橘さん、そんなに思い詰めなくても大丈夫ですから、この時代は子供でも電車に乗っていますし、人が多ければ多いほど安全ですよ…」
♪プッ!、プッ!!
「ふぅえ!…ここにやって来た青い猪が、う…うちらに吼えた~~!」
聞きなれぬ猪の叫び声に、私は[仕込み刀]の柄を握った!。
(…一撃で斬れるか?…だが、あれは鉄の猪だぞ…斬鉄するには少々厄介…それとも、連打の方が有効か?……)
「ははは、そんなに身構えないでいいですよ、あの車は妻の車ですから♪」




