商店街を歩く戦国女子
倉庫に向かう道中、ちょうど渋滞に巻き込まれた事を利用し、俺は事細かく浩一にこれまでの流れを説明していた。
「なるほど、そういう理由だったのか……しかし、主に忠実なのはいいが…本物の刀は…やはりマズイぞ…何とか世間の目を欺いておかなくちゃ、あの子もお前もヤバイ事になるぞ…それに、かなりの剣客なんだろ?…」
「あぁ、でも預からせてくれと言っても、楓さんは剣客…簡単に渡すとは思えなくてな……」
初めて乗った車にテンションが上がっているのか、後ろの女子達は外の景色に夢中で、俺達の会話は全く聞こえていないようだった。
「あははは~♪…この[猪]のお腹の中、涼しくて気持ちいい~♪…それに、いい匂いがするねぇ~!」
(あ、車の芳香剤の匂いね…淡いフローラルな香りか…て、これ猪の腹の中じゃないし!…)
「私も…この香り…嫌いじゃないです……」
「それは良かったです、これは僕の妻の好みの香りなんですよ♪」
「あははは~♪…浩ちゃん、奥方様がいるんだぁ~~…うちらと仲良しになれたらいいなぁ~♪」
「そ、そうですね…きっと妻も喜びます…」
どちらかと言えば浩一の奥さん[瞳ちゃん]は極普通の主婦だ…そんな彼女が、戦国時代からやって来たおねちゃんらを見てどう思うかは想像が付く…。
「それでな、浩一…すまんが俺は彼女達の面倒を見なければならないので、このリストにある商品を早急に準備しておいてくれないか?」
渋滞で車が停まっている間に、俺は戦国時代で作成した納品リストを浩一に手渡した…。
「どれ………あれ?…電化製品と関係ない別の商品もあるじゃないか?……カフェオレ、微糖の缶コーヒーがそれぞれ1ケース?…それに、各種ノンアルのドリンク?……なんだこれ?…そんなのも戦国時代に必要なのか?…」
「まぁ流れでそうなったんだ……だが、依頼主は、あの織田信長様だぜ!……」
「おぉ!、なら一番の売れ筋を用意するか♪…で、今回の商談はどのくらいだ?…」
「その他もろもろを合わせると、[百]以上は固いな♪」
「淳一、俺!…お前のパートナーで良かったぜ♪…このリストの品々、俺が責任持って用意してやる!」
「頼むぜ、相棒!」
リストを眺める浩一の顔がかなり嬉しそうに見えた、今回の商売が成功すれば、浩一の夢でもある[マイホーム購入]の頭金が確実になるからだ!。
(俺が無能な経営者だったせいで、ずっと市営住宅住まいだったからな…浩一、これまでの借り…お前に返すよ!)
「ねぇ~、たっちゃぁ~~ん……どうして周りの猪もゆっくり歩いてるの~?…これだと牛の方が早いよ~……それに、お腹空いちゃった~……」
「この時間は沢山…い、猪が出る時間ですから……道も混んでしまうんです……」
「じゃ、淳一…その先の高架を降りて、梅田に向かうか?…あそこなら俺達の知り合いの店もあるし!」
「そうだな、浩一に任せるよ!」
それから20分ほどで俺達はとある商業施設のパーキングに車を停めたのだが、ここは一日何万人もの人が往来する大阪最大の都市[梅田]だ!…そんな街の風景眺めていた俺の心は不安な気持ちで包まれていく…。
「あははは~♪…このお城…中に猪小屋があるんだねぇ~…」
「り、立体駐車場といいます…」
畑と山しか知らない戦国女子を、俺と浩一は今からこの梅田シティーを連れまわさなければならない…さすがに、俺と浩一の間にも緊張感を抑えられなかった…。
「淳一……まず…橘さんの刀をどうにかしなければ……」
「分かってる……絶対、車に刀を置いておくのは拒否るだろうし……人が見ても違和感を感じさせない方法は…………あ!……浩一、すまんがこの車に飾ってあるクレーンキャッチャーのミニぬいぐるみ、これを2つほど貸してくれるか?」
「……なるほど、それを刀の鞘と柄の間に結んでおくわけか!…それなら誰が見ても樫の木の杖にしか見えないもんな♪」
「というわけで、楓さん…ちょっとその愛刀を可愛く飾っていいですか?」
「……あ、主の命なら…致し方ありません…」
彼女から刀を借りた俺は、ウサギちゃんとあの有名なクマちゃんのミニぬいぐるみをそれに装飾し、最後は浩一の車のキーに付けていた鈴もオマケに結んだ。
「はい、楓さん!…これで令和の人が見ても日本刀だとは思いませんので、外で持ち歩いても大丈夫ですよ!」
「は…はぁ……私の……愛刀が………こ…こんな姿に………」
「あ、あの……く、車に戻って来る間だけ…我慢してね……」
「…でも…この……ふわふわ人形………か、可愛いです……ポッ❤」
「え?…楓さん?…」
てっきり「私の愛刀に何をするのですか!」と、怒鳴られてしまうかも?…なんて冷や冷やしたが、やはり彼女も若い女の子だったようで、可愛いぬいぐるみのアクセサリーが気に入ってしまったようだ。
「あ~~~!…楓だけずるい~~!…うちもその可愛いふわふわ人形が欲しい~~!…」
「ははは、うちにいくらでもありますから、おねさんの分もあげますよ♪」
「あははは~♪…浩ちゃん優しいぃ~~♪…うちの[表六玉]に、浩ちゃんの爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいよぉ~!」
「な、なぁ?…淳一?……表六玉って……やっぱり…元、森之宮にお住まいだった…あのお方の事だよな?…」
「…あぁ…そのお方の…事です……」
「す……すげ……」
こうして一番の問題を解決した俺達は車を降りると、浩一が通っていた大学の同期が経営している日本料理店へと戦国女子を連れ向かった。
「わ、わ!……な、何?…この人の多さ!……や、屋根がある道を…うちら歩いてる!」
「おねちゃん、これはアーケードといいます…」
「あ…主……こ、ここはあの世ですか?……綺麗な店が…連なって……それに、道なのに…何やら上から音色が…聞こえています…」
「まぁ、このアーケードを通る人が快適に歩けるよう配慮したようなもんかな……」
「あははは~♪…ねぇ?…ずっと気が付いていたんだけど、うちらと同じ浴衣姿のおなごが多いね!…あ、みんなうちらみたいに永禄からやって来たのかな~♪」
(そう言えば…普段ならこんな浴衣姿の女性を見る事は……ん?…今は文月…令和の暦で7月か……で、この界隈で浴衣の女性が多いって事は……今日は天神祭りの日か!…どうりで新御堂も混んでいたわけだ…)
「浩一?…今日、天神祭りの日か?…」
「あぁ、知らなかったのか?…てっきりお前も浴衣なんて着てるからそれに合わせてるのかと…」
「いや、全然知らなかった……」
だが、今日が祭りで助かったのは言うまでも無い…これでおねちゃんも楓さんも目立つ事はなくなったからである。
(さて、次は戦国女子達の初お食事会になるのだが…そこでも何が起こるか不安だ……あ、そう言えば…次…藤吉郎様の時代に戻った時は…150日後…季節はもう真冬か…こんな浴衣姿じゃ帰られないぞ、かと言って…まだ何処も冬物の衣類は売ってないだろうし…)
まぁ、その件は後ほど浩一の奥さん[瞳ちゃん]に相談するとして、俺はこの道中、何事も起こらないよう祈っていた。




