浩一と戦国女子
どうやら、まだ戦国時代には[おしるこ]という甘味は存在していなかったみたいで、てっきり楓さんも期待してくれるとばかり思っていたのだが、無反応の彼女に少々俺は拍子抜けしてしまった。
(水あめなんか平安時代には存在していたらしいから、てっきり[おしるこ]もあると思ってたけど…戦国時代よりまだまだ未来の甘味だったのか?…)
「あ、あの[おしるこ]は小豆を甘く煮た飲み物で、楓さんが気にしているゲップも出ませんよ…はは…」
「なら…それで……お願いします……」
俺はまた自販機で[おしるこ]を購入し、缶のタブを開けてから楓さんに手渡した。
「あ……主…ほ、本当に……この筒…冷えてます……」
「さ、飲んでみて下さい…気に入ってくれればいいけど…」
「…は……はい…………クビッ!………!!……あ、甘いです♪……冷たくて……美味しいです♪」
こうして俺達は暑さで乾いた喉を潤しながら、浩一の到着を待っていた…ちなみにおねちゃんは楓さんが飲んでいた[おしるこ]も気になったのか、また俺におねだりをし、更に楓さんも「甘すぎたからお茶が飲みたいです」と、言い出す始末だった…。
[十数分後]
[おい、淳一!…ここに居たのか?…さっきから電話を鳴らしていたのにさ!…探したぞ!]
暫く自販機前で俺達がくつろいでいると、俺にとっては久しぶりとなる浩一の生の声が聞こえてきた!。
「おぅ!…すまん、浩………いっ!!」
俺が浩一に返事をしようとした時、いきなり手にしていたお茶のペットボトルを地面に捨て、楓さんは俺を庇うように浩一の前へと立ち塞がり、腰帯に差していた[仕込み刀]の柄を握った!。
「役目により…貴殿の姓名を聞かせていただく!」
「お、おい…淳一…な、何この子?……時代劇オタか?…」
「我が主に何用か?…姓名を名乗られよ!…名乗らねば…間者とみなし、この場で貴殿を……」
「だぁーーー!!…楓さん、楓さん!…彼は私の親友です!…私達を迎えに来てくれたんですよ!」
「…ぇ……あ、主の……し、親友!……あ、あの…大変失礼をいたしました!……わ、私…主の警護をするよう命を受けております橘楓と申します…」
「…なぁ?…淳一?…どういう事?…もしかして…お前、戦国時代でナンパでもしてきたのか?…」
「いや、まぁ…これには色々訳ありでさ…後で話すよ…」
「あははは~♪…この時代にたっちゃんの命を狙う馬鹿が居るわけないじゃぁ~~ん!…楓って、結構早とちりなおなごだねぇ~~!…あははは~♪」
「…淳一……このノリノリで能天気なお姉さんは?……誰?……」
「あははは~♪…うち?…うちは[木下おね]だよ~♪…こう見えて亭主持ち!…亭主は[藤吉郎]って言って、おなご好きで~さえない表六玉のボンクラ亭主なんだよ~♪」
(藤吉郎様が居ないと思って言いたい放題だな…)
「…木下おね……亭主が…木下藤吉郎って!……あ、あの太閤の!……」
「しっ、浩一!!……お前が驚くのもよく分かる……時として、俺達が学んだ歴史の文献は大きく間違っている事もあるって事だ……今は何も言わず、おねちゃんを見守ってやってくれ……」
「わ、分かった…とりあえず、俺の車の中で話を聞こう…あ、申し遅れましたが、淳一の友人で[藤本浩一]と言います…」
「あははは、よっろしっくねぇ~~♪」
「は…はぁ…」
互いの自己紹介を終えた俺達は、浩一の愛車を停めているコインパーキングに到着した…のだが…。
「あははは~♪…ここ、人が乗せれる[猪]がいっぱい居てるねぇ~~♪…浩ちゃんの[猪]はどの子なのぉ~~?…」
「こ、浩ちゃん?……じゅ、淳一?…あの、おねって人は…いつもあんな風なのか?…で、何で俺の車が猪になってるんだ?…」
「あまり深く考えるな……し、暫くすると…慣れるから……今は好きなようにさせてやってくれ……」
「あ…あぁ…」
何が何だか分からないまま、浩一はパーキングの清算を済ませ、俺達を自分の車に案内してくれたのだが、ここからまた一苦労な出来事が始まる。
「あ…主…ほ、本当に…この…[猪]の…腹の中に…入るのですか?」
「大丈夫だから、まぁ籠に乗るようなもんだよ…心配ないって…」
「あははは~♪…うち、[猪]に食べられるの初めてぇ~~♪」
「だから食べられたりしませんって!」
「こ、このような狭さでは……もし、主に何かあっても……抜刀出来ませぬ……」
「楓さん、この時代は安全なので、絶対刀を抜かないでよ!」
「お、おい!…淳一!…この子、本物の刀を持ってるのか?…ずっと腰に差してた木の棒…あれって木刀じゃなくて、本物の[仕込み刀]か?…それ、マジでヤバいだろ?…」
「だ、大丈夫…絶対、俺が抜刀させないから……はは…」
「おいおい…トンでもない子達をこの時代に連れてきたな……今からパトカーを見たらビクビクしなきゃならなくなったじゃないか…」
「す…すみません……その理由も車の中で説明します……」
何とか楓さんを宥め、彼女達を後部座席に乗せた俺と浩一は、とりあえず会社の倉庫へと向かう事にした。




