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戦国時代の電気屋さん  作者: 朝風清涼
第6章 
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清洲城はまだ遠い…

 確か俺が着物を着たのは七五三の時だったはず、だがその時の記憶なんてあるわけも無く、ただ両親が撮った写真に残っているだけである。


(まさか成人式でも羽織とか着なかった俺が、この年齢で着物を身に着けるなんて…まぁ時代が時代なだけにしょうがないか……にしても、この着物って……)


 正面で<大政所(おおまんどころ)>様、後ろから<関白・豊臣秀吉>様に<大納言・豊臣秀長>様の着物を着せてもらっている俺は、いつか将来それがバレてしまい何処かの武将に斬り殺されるかも知れないぞ!と、背筋を冷たくさせていた!。


「あ、あの…この着物…小一郎様の着物ですよね?……何だかお侍の着物のように見えるのですが…」


「当たり前じゃ、普段は小一郎も農夫をしておるが、ちゃんとした織田家の家臣じゃからな!武士らしい着物も持っておる♪」


「はぁ…でも、私は武士よりどちらかと言えば町人なのですが……」


「まぁ、うちには町人のような高価な着物なぞ無いのでな、小一郎の着物で我慢いたせ!」


「は、はぁ……」


「うん♪巽様は小一郎と背丈が変わらないからよく似合いますよ♪」


「うむ!立派な武士に見えるぞ♪良かったな、巽殿!!」


(ちっとも良くない!!)


 馬子にも衣装と言うが、果たしてこの姿を両親が見れば何と言うのか少し興味がある、まぁきっとお見合い写真に使われるというお決まりのオチになるだろうが…。


「にしても…さっき気になったのだが、お主は褌をしておらぬだな?それも未来の褌か?」


「あれはトランクスという未来の褌のような物です…が!!…と、藤吉郎様?…もしかして、このトランクスも信長様に献上したいと?」


「ば、馬鹿を申すな!金玉を隠す物を殿に献上出来る訳無かろう!即刻手打ちにされるわ!」


「ですよね~~…」


「さぁ、巽様…着付けが終わりましたよ♪中々立派なお侍に見えますよ!」


「ありがとうございます、仲様!」


「<様>なんてよしとくれ!<おばちゃん>でいいから、そう呼んどくれ♪」


「え!!マジで?……あの……は、はい………お、お、おばちゃん!…」


 さ!今俺はあの<大政所>様に<おばちゃん>と言ってしまいました!これでまた将来斬り殺される理由の一つが追加となりました~~!!恐らく下手人は血の気の多い<加藤清正>辺りだろうか?……。


「うん♪うん♪ちゃんとお勤めをして無事に帰っておいで♪」


「は、はい!行って来ます!!」


「いんや、まだじゃ!まだ大切な所が残っておる!」


「ん?ちゃんと巽様は着物を着たのに、まだ何か足りないのかい?」


「おぉ!母ちゃんはまだ分からんか?…ほれ、ここじゃ!ここ!!」


 藤吉郎様は右手を頭に乗せチョンチョンと手を立て数回自分の頭を叩いた!。


「あぁ、曲げか!!そう言えば巽様は曲げを結ってはおらなかったの!」


「そうじゃ、大体曲げを結っておらぬのは医者か罪人か坊主だからの!それにどう見ても巽殿は医者には見えんし…」


(大きなお世話だよ!)


「となると、曲げの無い巽様では殿様にお会い出来ないと…そう言いたいんだね?」


「そうじゃ、だが!巽殿!!安心せい♪さっきわしが隣の権六の家から曲げを借りてきた♪」


「ま、曲げを?…そ、そんなのどうやって貸して貰ったんですか?」


「簡単じゃ♪隣の権六の家には<助松>という黒い毛並みの大きい猟犬がおってな、その助松の尻尾の毛をちと拝借した♪」


「い、犬の毛!!」


「でだ、権六のかみさん<松>はたいそう手先が起用でな、ちゃんと助松の毛で手造りの曲げを作ってもらっておったのじゃ♪ほれ、よう出来ておるであろう!」


 果たしてここは笑うべきなのか?心から感謝するべきなのか…それよりも俺はどう反応すればいいのか全く答えが出なかった!。


「ほんによう出来とるが…だが藤吉郎や?その犬の毛で作った曲げをどう巽様の頭に着けるんだい?」


(すみませんが、あまり<犬の毛>って言わないで欲しいんですけど…ノミとか付いてそうだし…)


「それはの、ほれ!ちゃんと細い糸を曲げの中に通しておる♪これで巽殿の頭へ烏帽子のように結ぶわけじゃ♪」


(烏帽子と犬の毛の曲げじゃ全然威厳が違いますが!!)


「と、藤吉郎様?ほ、本当にそれを私の頭に?」


「うむ、もうそれしか手段が無かろう…ま、殿と面談する間だけ我慢いたせ!」


「は…はぁ……」


 よく毛皮製の帽子等は知っているが、何も加工や洗浄すらされていない動物の毛を直接頭に乗せ殿様と会うヤツなんて絶対俺だけだろう!。


「よし、では準備が済んだのでいよいよ!」


「い、いよいよ清洲城ですか?」


「いや、その前にわしも着替えなくてならぬのでな、ちとわしの屋敷に寄る♪そこにはもう目に入れても痛くない可愛い嫁の<おね>が待っておる❤」


(<おね>…確か秀吉の正室で後の<高台院>なる人だっけ?…その前が<北政所(きたのまんどころ)>だったか?…え?その人もよく大河ドラマに出て来る人じゃん!!)


「は…はぁ……それで、藤吉郎様のお屋敷はまだここよりも遠いのですか?」


「いや、ちょうど清洲城へ向かう道中にある!その間に殿と拝謁する際の作法を伝えるとしよう♪ではな、おっかあ!小一郎!世話になった!」


「あいよ、気を付けてお行き!巽様も御武運を!」


「ありがとうございます!……お……おばちゃん…帰りにまた寄りますね…」


<おばちゃん>と言う度に背筋を冷たくさせながら俺と藤吉郎様はまた清洲城に向かいだす!次にお会いするのは豊臣秀吉の正室様である!確か大河ドラマではかなり気丈なお方で<お局様>的な存在感をビンビンに出していたが、果たしていかがなものか…。


(羽柴秀吉に改名してから最初の側室を持つんだっけ?いずれは信長の妹君でもあるお市の方の娘、後の<淀君>となる女性を迎える…その時もこれまで子が出来なかった<おね>様は堂々と側室を承諾したほど器量もでかい人だったそうだが…)


「よし!では、愛しい嫁の<おね>に会いに行くとしよう♪」


「はぁ…」


 どうせ藤吉郎様に<おね>様はどんなお方なのか聞いたとしても、間違いなくこの藤吉郎様では過大評価な言葉ばかり出るはずだ!俺はただ慣れない着物に苦労しながら彼の後ろを着いて行くしかなかった。


(まぁ、これまでの道中この時代の女性を見たけど、本当にドラマで出て来るような人ばかりだったし、まだ今は貧乏侍の藤吉郎様だから<おね>様の容姿も大体想像が付く…後は、ドラマ通りどれほど肝が据わっているお方なのか?…更に俺を見てどう反応するのか?…それを考えるだけでも不安だ…)


 また歩く事一刻、着物の暑苦しさにふらふらしながら次の集落に俺と藤吉郎様は到着した。


「なんじゃなんじゃ!またへばっておるのか?甲冑も身に付けておらぬのに、よほどお主の居た時代の男共はひ弱なのじゃな!これなら騎馬隊千騎もあれば天下が取れるの~♪わはははは!」


(いえいえ!シュミレーションするまでもなく、この時代の騎馬隊が自衛隊とマジ勝負したら5秒で決着が着きますから!)


 そんなこんなでようやく藤吉郎様の<お屋敷?>に辿り着いた俺は、これまた昔話に出て来る茅葺屋根のボロ民家を眺めていた…。


(やはり藤吉郎様は話を盛るのが好きなようだ……お屋敷とはかなりかけ離れているし……俺ならそんな恥ずかしい言葉を堂々と………ん?…いや、待てよ!この人はいずれ<天下人>になる人だ!もしかして藤吉郎様は自分の思い描く希望をワザと口に出し、それを実現させる為に自分を鼓舞しているのでは?)


 口に十を足すと<叶>という文字になる!未来の<天下人>もこうして常にポジティブ精神を支えとしてこの戦乱の世の中を生きているのかも知れない…。


(俺が居る時代、あんな平和な世の中なのに…いつもネガティブな事ばかり考えていたな…命まで取られるわけでもないのに…そうだ!今俺は未来の<天下人>と行動を共にしているんだ!なら、この人の考えや行動を全て盗めばいい♪そして、俺も元の時代に戻って天下を狙ってやる!!)


 まぁ天下までとはいかなくていいが、出来れば借金地獄から抜け出し、今の店舗を全国展開してみたいという夢が小さく俺に芽生え始めた!。


(もうこれが夢でも本当にタイムスリップしていたとしても構わない!いつか元の時代に戻る方法を見付けるまで、俺は藤吉郎様に着いて行く!!)


 昔、映画ブームでよくカンフー映画やヤ○ザ映画を観終えた観客が作品に感化され、主人公のような振る舞いをしながら映画館を出て行ったと聞いた事があったが、今の俺もそれに近い心境だった!。


(俺もいつか令和に戻り、家電部門の天下を狙ってやる!見ててください、藤吉郎様!)


「お~~い!おね~~!!わしじゃ~、お前の愛しい旦那様が帰って来たぞ~~❤早ようお主の可愛い顔を見せてわしをウキウキさせて欲しいのぉ~~❤」


(……この部分は別に藤吉郎様から盗む必要は無いな……)


 ♪ガッタン!!


 いきなり家の納戸が空き、そこから一人の女性が飛び出して来た!!。


「あははは~~♪おっかえり~~!!この甲斐性なし亭主~~~❤」


「おぉ!おね~~❤……!!!…うぎゃっっ!!」


(ゲッ!!いきなりラリアット!!)


 家から飛び出した女性は藤吉郎様の喉元に見事な右ラリアットをヒットさせ、その勢いで藤吉郎様は2メートルほど後ろに吹っ飛んだ!!。


「と、藤吉郎様!大丈夫ですか?」


「い……いつつ……相変わらず<おね>の一撃はきついのぉ~~……」


「あははは♪こんな可愛い嫁っこをずっとほったらかしにしてた罰だよ♪てっきりあんたは熊に喰われて、うちはもう未亡人になったと思ってたんだぞ!!」


「そ、それは…殿から火急の主命があったからで……淋しい思いをさせて悪かった…おね…許してね…」


(て、天下人に…ラリアット!………こんなの嫁さんでしか出来んよな…て事は!!この人が!!)


 背丈は153cm程度、背中まで伸びた黒くて長い髪を束ね、切れ長の鋭い目に日焼けをした肌、体型はやや細身といった感じで、顔立ちは決してブスレベルではない女性が目の前に立っていた。


「たく、可愛い嫁を無断で一人にするんじゃないよ!……!!…あ、これはこれは、お客人も居られるとは!大変恥ずかしい所をお見せして…おほほほほ~~♪私、藤吉郎の妻で<おね>で~す♪よっろしっくねぇ~~!!いぇ~~い!!あははは~♪ふぅ~~~♪」


(おい!日本の歴史学者よ!もっと人物像の調査をしっかりやれ!!天下人の妻<北大政所>様は若い頃パリピだったと付け加えろ!)


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