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戦国時代の電気屋さん  作者: 朝風清涼
第6章 
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木下家の人々

「それでは小一郎、すまぬがお主の着物を借りるぞ!」


「は、はぁ……」


<どうしたんだい?何だが外が騒がしいけど……>


 家の中から声が聞こえ、その奥からこれまた田舎のオバちゃんみたいな人が現れた!。


「おぉ!母ちゃん!わしじゃ、藤吉郎が帰ってきたのじゃ♪」


「まぁ~まぁ~、藤吉郎!しっかりとお勤めしておるか?」


「おおよ!まぁすぐにでも侍大将に出世してやるから楽しみにしておれ!!」


(母ちゃん?……え?……藤吉郎様と小一郎様のお母さん!!…て、てことは!このオバちゃん大河ドラマにもよく出て来る将来<大政所(おおまんどころ)>になるお方!!)


「それで、藤吉郎や、なぜこの中村に戻ってきたんじゃ?」


「まぁ、少々事情があってな…ちと小一郎の着物を隣に居る巽殿に貸してもらおうと思ってな♪」


「それは、それは、初めまして、藤吉郎の母<(なか)>です!」


「え、あ、は、初めまして…巽淳一です!!」

(この人、俺の姿を見ても全然眉一つ動かさず笑ってる!)


「ははは♪さすが母ちゃんじゃ!巽殿を見ても驚きもせぬとは!!」


「どう見ても藤吉郎と同じ日ノ本のお方ではないか、なにゆえ驚かなければならぬ?」


 やはり将来の天下人のお母さんは肝が据わっているのか、それとも怖い物知らずなのかは知らないが、確かあの徳川家康でさえ一目置いた人物だと本に書いてあった。


(やはりこれは夢のようだ!こうも俺の記憶通りの展開になるなんてマジ夢でしかないよな…)


「でな、母ちゃん!すまんが巽殿の着替えを手伝ってもらえぬか?」


「おや?このお人は着物を着れぬのかいな?」


 小柄で中肉中背、頭に白の手ぬぐい…まさに昔話に出て来る貧乏農家のオバちゃんキャラでしか見えないが、間違いなくこのお方は将来天下人も頭が上がらないほどの大人物になられるお方なのだ!。


「まぁ色々あって、着物の着付けを忘れてしもうておるのじゃ!」


「そうかい、それはお気の毒に…では藤吉郎も手伝っておくれ!」


「いや、わしはちと隣の権六の所に用が出来てしまってな、すぐ戻るから巽殿を頼む!」


「おっかあ一人でこの御仁の着物を脱がすのかい?…あらま……ポッ❤」


「え?…あの?もし?もし?」


「おい母ちゃん!何嬉しがっておる!もうそんな歳ではなかろうに!逆に巽殿が困るわ!!」


「おい、藤吉郎や!おっかあだって、まだ一花も二花も咲かせる魅了はあるぞな!」


「ええい、もう!後は頼んだぞ、母ちゃん!!」


 藤吉郎様は早く清洲城に戻りたいようで、ダッシュで隣の民家に駆け出して行った。


「相変わらず落ち着かんやつじゃて…冗談も理解出来ぬとは……さ、巽様…お着替えをいたしましょ…」


「え!いや、その……わ、私は………あの…」


「ほっ、ほっ、ほ!あれは藤吉郎をからこうておっただけでございます♪こんなおばちゃんになると、もう色恋など過去の遺物でしかございませんので、安心してくださいませ…」


「は…はぁ……そうですか…で、でも初対面の人の前で…脱ぐのは…ちょっと…」


「おやおや、そこに小一郎も居りますのに、別にあなた様を襲ったりなんてしませんよ♪」


「い、いえ…そ、そうじゃなくて……お、恐れ多いというか……」


 なんにせよ、いずれこの日本で唯一!天下人を上から目線で叱責出来るお方なのだ!そんな神の様なお方に俺のトランクス姿を見せるのは、もの凄く!非常に!トンでもなく!恐縮してしまう!。


「何を言うておられる!ただの農婦に恐れるなんて、男子たるもの何事にも動じない肝っ玉を持たなくては戦場(いくさば)ですぐ命を落としまする!しっかりと目線を前に向け、強き虎の如く目の輝きを放ち生きるのが男子ですよ!違いますか?巽様…」


(お、おぉ!!天下人すら恐れるほどのお方から「巽様」なんて呼ばれた~~!!何これ?俺、一瞬天下を取った気分になった♪超爽快だぁ~~!!)


「は!…ははぁ~~~!!…有り難き幸せでございますぅ~~……」


 時代劇で学んだお偉い方への<感謝のポーズ>簡単に言えば<土下座!!>を俺はついしてしまった!見た目は彼女が言うようにただの農婦だし、お世辞にも綺麗な身なりではないとはいえ、彼女から漂う真夏日のような威厳とその言葉の重みは正に天下人の母親そのものだった!。


「あはは、母上!巽殿は面白い御仁ですね、我ら下級の武家に土下座をされるなんて!」


「おや?小一郎、もう薪割りは終わったのかい?…ほれほれ!巽様、そんなに恐縮せずに頭をお挙げくださいな…」


「は、ははぁ~~~~!!」


「おやおや、まるで母上を大名様だと思われてるのではありませんか?」


「何をつまらん事を言うておる、私ら下級の者にとって大名様は雲の上のお方じゃ!そんなお方と比べられては大名様に申し訳が立たん!」


「まさにそうですなぁ~~…私も早く兄上の足軽になってお役に立ちたいものです!」


(いえ!いえ!いずれあなた方は雲の上どころか、天界の域まで辿り着きますから!!)


「それで小一郎や、この次も何かをしてくれるのかい?」


「えぇ、薪割りは終わりましたので格子の修繕をしたいのですが、腰帯を使って材木の寸法を見極めようとはしているのですが…それがなかなか上手く合わなくて……」


「まぁ、格子なぞ寸法が合わずともいいではないか、そんな几帳面にやらなくてもいいよ、小一郎…」


「しかし、母上…あまりに見た目が悪くては……」


「あの?小一郎様のお考えが正しいと思います!誰かが訪れた時、不恰好な格子を見れば笑いの種にされるやも知れません!」


「正に巽殿の言う通りだが、寸法が分からぬではどうしようもない…」


(まぁそれもそうだけど…ん?……あっ!俺、アレを持ってたな!!)


 俺は電工ベルトのポケットからメジャーを取り出し小一郎様に手渡した!。


「何ですか?この小箱のような丸い物は?」


「これは<メジャー>という寸法を測る道具です!今から使い方を教えますので覚えてください!あ、すみませんが着物の着替えはその後という事で!」


 こうして俺はメジャーの使い方を小一郎様に伝えた!やはり彼は頭脳明晰なのか、俺に聞き返す事も無く一度の説明で全てを把握した!。


「なるほど!これは多いに役に立ちまするな♪それにしても、この<めじゃー>という道具ですが、寸法を測るヒラヒラした部分…これは硬い紙ですか?…いや、紙ではありませんね…全く見た事のない材料で作られてるとしか思えません…」


「えぇ、小一郎様には打ち明けますが、これはアルミニウムという金属素材で出来ております…」


「こ、これが金属?…どうしてこんなに柔らかいのだ?…金属とは硬い物だとばかり思っておった!」


「私が住んでいる未来では柔らかい金属もありますし、それに胃の検査で飲む……」

(いや、バリウムの話は止めておこう!絶対理解不能になるから!)


「いやはや…兄上の言っていた事は本当でございましたね……巽殿、これまでの私の無礼を許していただきたい、どうかこの通り…」


 小一郎様は俺に向かって深々と頭を下げた!将来<関白>の次に偉い<大納言>様が一介の電気屋であるこの俺に謝罪したのだ♪。


(おぉ、もう止めてくれ!俺、絶対自分は凄い人だと勘違いしてしまうから!!)


「トンでもありません!さ、頭をお挙げ下さい!あ、それと!これも私が清洲城から戻って来るまで貸しておきます!」


 気を良くした単純な俺は、更にマジックペンを小一郎様に手渡す!。


「何ですか?この細い鉄の棒の様な物は?別の<ぺんらいと>ですか?…」


「これはマジックペンです、まぁ簡単に言えばその鉄の筒に墨のような液が入ってまして…水とかの液体以外なら何処にでも文字が書ける筆のような物です…水に濡れても字は消えないですよ♪」


「ほ、本当ですか?…(すずり)も墨も筆も無いのに?…これだけで文字が?……」


「百聞は一見にしかず、えっと……あ、手ごろな石がありますね、これに小一郎様の名前をマジックペンで書いてみましょう♪まずは先のキャップを外して……」


 頭のいい人は何にでも興味を持ってしまうのだろうか?小一郎様はまるで手品を見るように俺が手にしている石に顔を近付けている!。


「いいですか?では書きます、木・下・小一郎………と……」


「お、おぉ!!ま、正しく私の名前です!!そ、それもこんな石に!!墨ではこんな事は絶対に有り得ませんよ!」


「驚くのはまだ早いですよ♪あ、あそこに桶がありますね、小一郎様!この名前が書かれた石を水に浸けてみてもらえますか?」


「か、畏まりました!!」


(おぉ!未来の大納言様が俺に敬語を♪やはり気分がいい!!)


 どうせ夢だと思っている俺は歴史が変わるとか、その影響で生まれてくるべき人が生まれなくなるとか考えず、もう好き放題にやってやる!の気分になっていく♪。


(でも、一応小一郎様にも釘を打っておくか…)


「巽殿!!巽殿!!」


 小一郎様は名前入りの石を桶に浸けた後、慌てて俺の元へと戻って来た!。


「巽殿!!何故水に浸けても文字が滲まないのですか?」


「まぁ、そのマジックペンの中の墨がそうさせているのです…」

(どうせ油性ペンだからと言って説明しても無理だろうし…)


「す、凄い!!…あぁ♪この<まじっくぺん>の利用方法が次々と浮かびまする♪」


「それは良かったです!あ、でもこれは藤吉郎様以外、決して他言無用でお願いしますね!」


「も、勿論です!約束します!」


<おい!おい!なんじゃ、なんじゃ!まだ着替えておらぬのか!>


 暫く俺と小一郎様はマジックペンの話に盛り上がっていると、後ろから藤吉郎様の声が聞こえ俺達はその方向へと振り向いた。


「あ、兄上、お帰りなさい!」


「ん?なんじゃ?その濡れた石は?………おっ!ど、どうして石が濡れておるのに小一郎の名前が消えておらぬだ?いや、その前にどうやって石にお主の名前を書いた?」


「それは巽殿からお借りした水以外ならどんな所にも字が書ける<まじっくぺん>のお陰です!それに寸法も間違わずに測れる<めじゃー>とやらも借りました♪これで格子の修繕もはかどります!」


「うぅ~~~ん…<まじっくぺん>に<めじゃー>…おぉ♪そんな優れ物があるなら、殿に献上すれば御褒美が倍増に………」


「あーーーーー!!!藤吉郎様!これは小一郎様が私に着物を貸してくれたお礼です!なので、どうかこれだけは…」


「そうかぁ~~…惜しいのぉ~~……その二つの道具も絶対殿はお喜びになるのに…まぁ、今回は小一郎のお陰で清洲に戻れるのだから、諦めるとしよう……どれ、わしも巽殿の着替えを手伝ってやるから、早よう支度して殿に会いに行こうではないか!!」


「は、はい!!」


 こうして俺は今から未来の<関白・豊臣秀吉>と母<大政所>様にお着替えをしてもらうという恐れ多き贅沢な経験をしてしまう事になったのだ!。


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