心臓に悪い…
藤吉郎様の口からおねちゃんの名前が出た瞬間、俺の額は汗が止まらなくなり、心臓の鼓動は加速装置を発動している!…もし藤吉郎様がおねちゃんの気持ちを知ったとなれば、離縁になる可能性は大だ!…となると、歴史書には[北政所]の名前は完全に消滅してしまう!。
「あ、あの…おねちゃんの…事…ですか?…」
「そうじゃ……旦那のわしから見ても…おねの様子は変じゃと分かる…」
♪ドキ、ドキ、ドキ、ドキ!
「のう?巽殿!そなたは、おねの事をどう思っておる?」
(ゲッ!やはりこうなるのかーーー!!)
「そ、それは…明るくていい方だと…」
「そうではない…おねの気持ちをどう思っておるのか、そなたに聞いておるのじゃ!」
(そ、そんなの「はい!…おねちゃんに告られました❤」なんて言える訳ない!)
「ど、どう…なんですかね……は、はは…」
「わしはの…もう薄々感ずいておったのじゃ……」
(終わった…俺の人生も…歴史の史実も…)
小学校時代、夏の暑い全校朝礼の時、よく貧血状態で倒れる子を見た事があったが、今の俺がその状態に近かった!。
「か、感ずいていた?…」
「そ、そうじゃ……おねは、あぁ見えて負けず嫌いでの……きっと楓ちゃんに再戦を挑むに決まっておる!…あやつの楓ちゃんを見る強い眼差しがそう語っておるのじゃ!わしの目は誤魔化されん!」
俺は今!貧血ではなく、安堵の気持ちで倒れそうになっていた…、。
「は…はは…さ、再戦を…」
やはり藤吉郎様自慢のとんちんかんな[人を見る目]のスキルがまたしても俺を救ってくれた……しかし、このやり取りだけで俺の疲労はピークに達しているのは言うまでも無い!。
「そうじゃ…しかし、愛想は悪いが、真に顔も体型も麗しい娘の楓ちゃんは、一子相伝の剣術を心得ておる…どう見てもおねに勝ち目はなかろう……」
(今、さり気なく自分のスケベ心を出したような…絶対におねちゃんの前では言えないセリフと共に!)
「で、私が楓さんにおねちゃんから勝負を挑まれても断るよう釘を刺しておくのですね?」
「うむ、それを申せるのは巽殿だけじゃからな…お、おほん!…そ、それとじゃ…そ、そなたは…楓ちゃんをどう思っておる?」
「ど、どうって…私にとって勿体無いほどの守護神様ですが…」
「ええぃ、そうではない!…お、おなごとしてどう思うかじゃ!…そなたとは歳も近いであろう?」
「お、おなごとしてですか?…き、綺麗な方だとは思いますが…あの大和飛燕流を間近で見たら、鬼神にしか見えなかったですよ…私なんか近寄るのも正直怖いです…」
「おぉ♪…そうか、ほほほ♪…そうか、そうか♪…ひ弱な巽殿ではそうであろう!…なるほど、そなたは楓ちゃんにおなごとしての興味は無いのか~♪…ひひひ~」
俺が楓さんに興味が無いと知った藤吉郎様は右手の平を口に当て、誰が見てもキモイ笑い方で嬉しそうに何かを想像しているようだ。
(未来の英雄色を好むってか?でも、あの楓さんに?……下手にちょっかいだしたら腕が飛ぶどころじゃないと思うし…それがおねちゃんにばれた瞬間、彼女から俺への御褒美タイムが確定してしまう!)
「でだ、巽殿?この先、どうするつもりじゃ?」
「えっ?な、何がです?」
「うむ、楓ちゃんの事じゃ…ずっとわしは気になっておってな…」
「いっっ!」
(まさか楓さんを[愛人にしたいからアタックするのを手伝え]みたいな事とか?…それとも、まさか楓さんと夫婦になりたいから、おねちゃんと離縁する為に協力しろとか言わないよね?)
「巽殿……そっと静かにわしの後方に目をやってみろ……」
「え?」
俺は目の前に居る藤吉郎様から視線を更に家の庭へと向ける、すると俺達の動向をずっと縁側で見詰めている楓さんが視界に飛び込んだ。
「分かったか?…楓殿は森様の命に従いそなたの警護をしておる、しかしの…楓ちゃんはそなたが未来人だとは知らぬ…どうするつもりじゃ?」
「え、そ…それは…あ!!」
「そうじゃ!…お主はまた殿の命で[れいわ]の時代に戻らなければならぬ!…となると、楓ちゃんに何と説明をするつもりでいる?」
(しまった、おねちゃんの事ばかりに気を取られ、今後の楓さん対策を全然考えていなかった!)
「す、少し冷静になって考えて見ます……」
「うむ、だが刻はそう待ってはくれぬぞ!…まぁ、出来れば巽殿が居ない間はわしの警護を楓ちゃんにして欲しいのじゃが……ぃ、いや!…わしが自ら巽殿を守ってやりたいが、お役があるのでな…」
(この人、いい事言っても絶対最後に[オチ]を付けないと耐えられない性格なのか?…浪速のお笑い精神の原点は豊臣秀吉だったのか…)
「ちょっと一人で考えます…」
俺は馬小屋から離れ、藤吉郎様の家から5分ほど歩いた所にある大きな楠木の根元で座り込んだ…当然ながら5メートルほど後ろには[仕込み杖]を握った楓さんが俺を見守っている…。
(国のお偉いさん待遇ってこんな感じなのか?…正直、テレビで観ていた時は「偉そうに人をぞろぞろ引き連れやがって…」と思っていたけど…実際、当人はかなり窮屈なのかもな…今の俺のように…)
「あ、あのさ…楓さん!…そんな陽の当たる暑い場所にで立たずに、この木陰の方が涼しいですよ!」
「………お構いなく……私は…主の影となり守るのが役目……ここでいいです…」
「そんなに紫外線を浴びていては、女の子の肌によくないですよ…」
「しがいせん?……意味不明……それに…何度も言いますが……敬語は必要ありません……」
「でもね…あんな大和飛燕流を見たら、どうしても楓さんに敬語を使ってしまいますよ…俺なんか剣術も武術もからっきしダメだし…遥かに楓さんの方が俺より凄い人ですから…」
「だから…こうして…私が主を…守っています…弱き者を助けるのも剣士の務め…」
(さり気なく傷付く事を言うよな…実際そうなんだけど、ハッキリ言われると男として情けない…)
藤吉郎様はこんな彼女のどこに興味が出たのか全く理解出来ない…まぁ120%見た目で判断したのだろうが…。
「でも、そこは暑いから!…な、なら…あ、主の命でその木陰に立ち俺を警護してくれ!」
(偉そうに言ってしまった!…あの子、キレていきなり俺に斬りかからないよな?)




