大和飛燕流(やまとひえんりゅう)
「おいおい♪…なかなか肝の座っている姉ちゃんじゃねぇか!…ここで仲間に見られながらわしらと楽しみたいってか?…それとも、まだ自分の肌をあの男に見せてその気にさせたいってか!!」
「ひひひ、もうあの男がお前の顔を見たくないと思うほど、俺達が可愛がってやるからよ♪」
「そうか……本当に…私を…満足させる事が出来るのだな?」
(こ、こいつら…マジで楓さんの殺気を感じてないのか?……スケベモードになった男は、ここまで馬鹿になるのか?…同じ男として恥ずかしい……ここは俺もこいつらを見て学ばないとな…)
「おぉ、お姉ちゃんが大人しくしてれば、最高に満足させてやるよ♪」
「大人しく?……それは……出来ぬ相談だ……」
「おいおい!頭が優しく言ってるんだぞ、ほら!…さっさと腰帯を解いて素直にそこの草の上に寝な♪…何なら俺が手伝ってやるからよ!」
「ふ♪…」
♪シュッッッ!!!
(いっ!…か、楓さん!!)
いつ抜刀したのかも見えない速さで、楓さんの肩を掴もうとしたスケベ子分Aの手首が宙を舞った!。
「う、うぎゃぁぁぁぁーーーー!!…お、俺の左手がーーーー!!!」
「こ!この女!!…わしの仲間に何しやがる!!…ぶっ殺されてえのか!!!」
見るからに美人の女の子が一瞬で抜刀し子分の手首を斬ったのだ、俺も含めこれに驚かない男は誰も居ない!…それでも彼女は冷静な顔でリーダー格の男を冷ややかに見詰めていた。
「……天が泣き……地が泣き……民もこの時代に泣いている……そんな哀れな世を断ち切るは…我が刃……大和飛燕流のみ……今、地獄の閻魔帳に…そなたらの名が載った……」
(楓さんカッコイイ……俺、超かっこ悪い……)
「ちょいと楓!…あんただけ格好つけるんじゃないよ!…その仕込み刀の鞘、うちに貸しな!」
「手出し無用……私一人で…大丈夫…おね殿は…下がっていて……」
「いいや!…うちの[乙女心]を傷付けたあいつと!…それにあいつだけは、ぶっ叩かなきゃ気が済まないんだよ!」
(なるほど、おねちゃんに[年増]と言った子分Bとお頭の事ね……)
「相手は真剣を持っています……おね殿の腕では敵いません……それに…あなたを守る為…私に余計な動きが生じます…しかし、おね殿のお気持ち…同じおなごとして許せません…あの2人には、一番苦しい死に方を与え地獄に送ります…」
「あ、あんた…そんなに喋れるんだ…てか、さりげなくうちを馬鹿にしただろ!」
これまで(単語を繋げて喋るしか出来ないのか?)と思っていたが、まさかこの子が三行分も喋れる口を持っていたのには俺とおねちゃんもちょっと感心した。
「おい小娘!…さっきから何いきがってるんだ?…わしらは数々と修羅場を潜り抜けてきた猛者なんだよ!…お前が偶然に手首を斬ったやつは、その中で一番弱いやつだ!…それに、何が大和……何とか流だ!…舐めてんじゃねぇぞ!」
(あ、このリーダー…かなり頭が弱い人か…勢いと力量だけでリーダーしてる人ね……)
「ふ…弱い犬ほど…よく吼える……さ、主、おね殿を…」
「あ、わ…分かりました…い、いえ…分かった!」
俺はおねちゃんの右腕を掴み安全な場所へと移動しようとしたが、彼女はその手を強引に振り払おうとした!。
「離してよたっちゃん!…う、うちだってやれるところを楓に見せてやりたいんだ!…こ、このままじゃ…うち…自分が…な、情けないよ…」
「おねちゃん……なら、私はもっと情けないです…男なのに…おねちゃんをかばう事もせず、真剣を持った男達を怖がって立ち向かう事も出来ず…今は女の子の背中に守られている…これほど男として情け無い事はありませんよ…今日ほど、無力な自分を怨んだ事はありません…」
「たっちゃん……」
「悔しい気持ちはありますが、ここは楓さんに任せ安全な場所に……」
「…う…うん…」
「感謝いたします、主…」
「それと…楓さん!…相手を殺してはいけませんよ!!…こ、これは主からの命です!!…いや、命だ!」
「それは聞けません……これからの世の為…この者らは斬る必要があります……」
「いけません!…私やおねちゃんの為に人が死んだなんて…ずっとそれが生涯心の重荷となっていく事に私は耐えられません!」
「何を甘い事を……その様なお考えでは……いずれ、あなたが死にます……」
「私は死にません!…何故なら、私には橘楓という守護神様が守っていてくれるからです!!」
「………主……分かりました…………早く、おね殿と後ろにお下がりを……」
俺は悔しさを露にしているおねちゃんの右腕を引き、楓さんから10メートルほど離れると、雑草が生い茂る草むらまで避難した。
「たっちゃん……うち……本当に…悔しいよ……あ、あの子に…助けてもらうなんて……」
「私も…悔しいですし、情けないです…でも、今は…楓さんにお願いするしか…」
あのサーモンピンクのリップで綺麗に輝いていたおねちゃんの下唇が、キュッと噛み締められている…そんな彼女の唇の横を一筋の涙が流れていた…。
「おいおい、姉ちゃん!…えらく威勢のいい事を言ってるが、わしらに囲まれて不利だと理解しているのか?」
「不利?…愚問…こちらにとっては好都合……主の命により命は取らぬが、二度と悪事を働けぬよう…天誅を与える……」
「舐められたもんだな!…あぁん?…わしらをただの野党だと思ってるのか?…お前に腕を落とされた野郎以外は、全員剣術の目録を持ってる猛者達だぁ~!だから、食い物も、酒も、女も簡単に手に入る!」
「なるほど……貴様らは…流派の面汚しでもあるのか……ならば!…」
悪役さん達に囲まれている楓さんは、恐怖心すら出さず落ち着いた姿で静かに刀を鞘の中に納めた!。
「なぁんだぁ~?…諦めてわしらに弄んで欲しいってか?…お前から頼まれなくても徹底的にそうしてやるつもりだがなぁ~!!」
(か、楓さん…)
「刃を納めなくては…我が[大和飛燕流]は…確実に…貴様らを殺してしまう……そして、お前は…一番最後……閻魔様に代わり私が天誅を下す!!」




