橘楓(たちばな かえで)
「あ、姉上…お客人が来られておりますので、少し穏便に…」
「そうだよ<おね>、まずはその方が何故当家に訪問されたのかを聞くのが先決だよ…開けた戸をまたすぐに閉めるのは無礼な事ですよ…」
「母上の言う通りですよ、姉上!」
「う、うん…だって若いおなごだったし……」
この騒動に全員の眠気が吹っ飛んだのは言うまでもなく、改めて<おねちゃん>は玄関口の戸を開けお客人と話を始めた。
「あ、あはは~…先ほどは失礼をいたしました~…それで、当家の<猿顔>で<おなごにだらしなく>更に<小柄なお調子者>の<表六玉亭主>にこんな朝から何か御用ですか?」
(藤吉郎様…ひどい言われようだな…やはり女性絡みだからか?…)
<は?何の事でございますか?>
「え?うちの亭主に会いに来たんじゃないの?……あ、小一郎ちゃんか♪今日は小一郎ちゃんと何か約束でもしてたのかな~?」
<‥??…小一郎ちゃん?……い、いえ…私がお会いしたい御仁は<巽淳一>様ですが……>
「た……巽?……た!たっちゃんなのーー!!!」
(え?俺?)
<はい…私、橘楓と申します…大恩ある森可成様の命により…今日から巽様を護衛する任を承りました…>
「お、おなごの…あ、あんたが?……」
<‥何か不都合でも?…>
「これこれ<おね>や、お客様をずっと外に立たせてはいけませんよ、早く中に入ってもらいなされ」
間違いなくこの事態を冷静に受け止めているのはおばちゃんだけだ、俺を含めその他の者はまだこの事態を飲み込めてはいなかった!。
「お、お母さんがそう言うなら………さ、入りなよ!!」
訪問した女性が俺に会いに来た事を知った<おねちゃん>は<藤吉郎ボール>を蹴り上げる前よりも険しい表情に変貌していた!。
(そ、そんなに不機嫌になる理由でもあるのかな?)
<‥失礼いたします…>
「な、なんと、このような若いおなごが!!」
「あ、兄上…私よりもかなり年下に見受けられまするが…」
「あらあら、何たる可愛い娘っ子じゃ♪」
(う、嘘!こ、この子が……俺の……盾……なの?…)
家の中に入って来た女性は身長150cmちょっとだろうか、小顔で綺麗に整えられた眉、涼しげな瞳に筋の通った小さな鼻、そんな彼女は長い黒髪をポニーテールにし淡い桜色の着物姿で立っていた。
(何だか時代物のゲームに出て来るヒロインみたいだな…コスプレサミットにでも参加したらオタク達から撮影責めになるかも…けど…あの手にしている杖は…恐らく…)
彼女が右手に握っている杖…素材は樫の木だろうが、時代劇でも必ず登場する<仕込み刀>であるのは剣術素人の俺でも想像が付いた。
(ほ、本当にこの子が俺の護衛を?……俺、女の子に守ってもらうの?…き、昨日頭に浮かんだ<張飛><関羽><超雲>が霧のように消えて行く……そ、それに…あの<おねちゃん>の不機嫌になった顔も怖い…)
「巽様ですか?…私…本日より巽様の護衛をさせていただきます<橘楓>と申します……」
「あ、そ…そう…ですか…よ、よろしくお願い…します…」
まぁ女の子でも俺の命を守ってくれるのだから、俺は感謝のつもりで彼女へ向け<土下座>をした。
「男子が…そうやすやすと…土下座をするのは…恥ずべき事…」
「え?…あ…す、すみません…橘様……」
「本日より…私は巽様の従者…<様>を付ける必要はありません……」
(なんだ?この子も不機嫌なのか?…森様が言ってたのと全然違うような…喜んで来てくれるんじゃなかったの?)
「なんだい!なんだい!たっちゃんがあんたに礼を尽くしてるのに、その無愛想な態度は!!」
「私の役目は…身辺警護……その他の馴れ合いは…必要ありません……」
この愛想の無い喋り方…平成の時代に社会的ブームまでなったあのアニメに登場する汎用人型決戦兵器である<零号機>に搭乗していた少女の口調にそっくりだと俺は思った。
「まぁ~まぁ~おね、これから巽殿の警護をしてくれるのじゃ、もっと温かく迎えてやろうでは…」
「表六玉は黙ってな!!あんたはおなごの前ではいつもそうだけどね、うちは同じおなごなんだ!あの子の実力を知るまでは、この先、家の敷居は跨がせないよ!!」
「私と……手合わせするつもりですか?……」
「それ以外に聞こえたのなら、あんたの耳がおかしいんじゃないのかい?」
「…分かりました…」
正直、こんなに迫力ある<おねちゃん>を見たのは初めてだ!今の彼女の姿は完全にイケイケパリピの雰囲気が消えている。
「と、藤吉郎様……わ、私の為に大変な事になりましたけど……何とか<おねちゃん>と止めてくださいよ…」
「兄上、私からもお願い申す!」
「お主ら、わしが<おね>に殺されてもいいのか?」
「はぁ~藤吉郎様……あ!お、おばちゃん!…おばちゃんがあの2人を止める事は出来ませんか?」
「ほっ、ほっ、ほ♪男子は戦場で命を賭け、おなごは家を守る為に命を賭けるもの、好きにさせたらええ、どうせ命まで取る事はなかろう♪」
「お、おばちゃんまで~~…」
「さて、本物の刀であんたを傷付けたとなれば森様の顔も立たない、ここは竹刀で勝負するってのはどうだい?」
「私はどちらでも構いません……素手でも…大丈夫……」
「くっ、どこまでも人を不愉快にするおなごだね!今すぐあんたの評判を崩してやるから、庭に出な!」
居間から竹刀を二本手にした<おねちゃん>は素足のまま庭へ出ると、その後ろを<楓さん>が着いていく…そんな彼女らを俺達は縁側に座り見守っていた。
「ふん!どれだけあんたが森様に買われているかは知らないけどね、うちも剣術の心得は持ってるんだよ!そんじょそこらの侍なら簡単に倒せるほどのね!」
(え?そうなの?)
「いいかい!約束しな!あんたがうちから一本取られたらすぐ実家に帰んな!そしてうちがたっちゃんの警護役になったと森様に伝えるんだよ!!」
(あ、あの…それはそれでかなり色々と危険なんですけど…)
「…約束の必要ありません……あなたは、負けます……何故なら…弱い犬ほど、よく吼える……」
「くぉんのガキィ~~~~~!!」




