新しい政(まつりごと)
「えっ!!わ、私が<夫役>の筆頭を!!」
「おぉ、そうじゃぞ小一郎!殿自らの御沙汰じゃ♪」
「いえ~~い♪良かったね、小一郎ちゃん♪」
いよいよ小一郎様が日の目に出る機会を得た事を早く伝えたく、俺と藤吉郎様はほぼ競歩並みの速さで<中村>まで戻って来ていた。
「あ、姉上…兄上…それに、巽殿………わ、私は、ただの足軽となり兄上のお役になればと思っていました…それが、このように重大なお役を頂けるとは……」
「これも、殿の家臣に対する温情なのじゃ♪」
「あ……あぁ……殿……」
小一郎様は自分の身体を清洲城の方向に向けると深々と頭を下げた。
「殿!有り難き幸せ!!この木下小一郎!病弱なれど、身命を賭けて励みまするーーー!!!」
「ぐすっ、良かったね…小一郎ちゃん…ようやくお役が回って来たね…」
「あ、姉上……ぐすっ……兄上……巽殿……心より感謝いたします!!」
「うむ、しっかり殿のご威光の為に励んでくれよ♪」
「私も嬉しいですよ、小一郎様♪」
「ははっ!!」
未来の<大納言>様が目に涙を浮かべ俺に感謝してくれた!これはこれで気分が良いのと、いずれ<死罪>という俺のBadエンディング予想も少し遠退いた気がした♪。
「しっかり精進し励むのですよ、小一郎…あなたの考えと指示一つで弱き民の人生が変わるのです、決して自分本位の判断ではなく、自分自身も弱き民の気持ちになる事を忘れなきように…」
「は、母上…ありがとうございます!そのお言葉、しっかりと胸に刻んでおきます!」
「さて、小一郎も腹を括ったわけじゃし、近日中にはわしの<屋敷>へ殿からの2万両が届く!だが、それをどう分配すればよいか…」
(また藤吉郎様は風呂敷を広げてるな…)
「そうだねぇ~、うちの屋敷に2万両の大金がやって来るなんて初めてだよね~♪」
(てか、<おねちゃん>もやはり夫婦なだけに藤吉郎様寄りなんですか?それとも、この時代の人達は自分の家を<屋敷>と呼ぶのが当たり前なの?)
「兄上、まずは村の長達に一軒ずつの家事情を調べてもらいましょう、そして協力してくれた家には一軒につき10文を殿からの謝礼として渡すのです、この噂が広がれば皆喜んで調査の協力をしてくれるはずです」
「なるほど!家の事情を話すだけで10文貰えるのだな?これは良い策じゃ♪」
やはり小一郎様は頭脳明晰だ!俺達と信長様の経緯を聞きながら、すでに自分の役目の構図を頭に描いていたようだ。
「はい、そして村の長が纏めた書状を奉行所に提出してもらい、各村を管理する役人達がその書状を元に分配金の手筈を整えるのです」
「おぉ、ではその役人らの管理を小一郎がするというわけじゃな♪これなら身体の弱い小一郎でも十分勤めが出来るの♪さすがは小一郎じゃ!!」
「あの、小一郎様?そこに私の案も付け加えてもらえますか?」
「どの様な案ですか?」
「各家ごとに番号を付けて欲しいのです、仮に藤吉郎様の家は<1番>小一郎様の家は<2番>というように…」
「家ごとに番号など必要なのですか?」
「はい、いずれ役に立ちます、今回はそのまま金を分配しますが、今後信長様がこの制度を正式に決められた場合、それを悪用しようとする輩も必ず出てくるはずです!」
「な、なんじゃとぉーー!!殿からのお慈悲を悪用する輩など許せん!!即刻打ち首じゃ!!」
「あ、兄上…落ち着いてくだされ…それで巽殿はどうお考えなのですか?」
「はい、私の考えは金銭の分配ではなく<商品券>なるものを使いたいと思っております!」
完璧に俺の時代の<商品券>政策をパクったわけだが、この時代はまだ辻斬りや強奪など日常茶飯事に起こっている、それを少しでも防止したいのだ。
「しょうひんけん…なるものですか?」
「はい、まず…………」
俺は商品券の利用方法とその為に不可欠な家の番号の重要性、偽装や偽り申告を防ぐ為の管理体制を小一郎様に伝えた。
「なるほど!<しょうひんけん>に各家の番号を!そしてその<けん>で物を売った商人が<けん>を奉行所に持参しそこで銭と交換するのですね!」
「はい、更にその商品券は半分切り取りが出来る仕組みにして欲しいのです、片方は奉行所が預かり、もう片方は使用した者が管理する、そして商品券の発行の際には間違いなくその家の者だと認めた証として、奉行所の印を切取り部分に押していただきたいのです!」
「あぁ!割り印を使い偽造防止をするのですね!となると、発行する役人は清廉潔白な者を選ばなければなりませんね…」
「はい、そして3ヶ月ごとに商品券の使用者は奉行所へ申告をし、奉行所はその申告に偽りが無いかを奉行所保管の半券を使い、購入内容を吟味するのです」
「その為に各村ごとの家の番号が必要なのですね!なるほど、分かりました!更に私なりにその案を細かくまとめてみましょう!」
「お願いします!」
「おやおや、こんな生き生きした小一郎を見るのも久しぶり………い…いたた…」
「は、母上!いかがいたしましたか?」
いきなりおばちゃんは右手で額を押さえキュッと瞼を閉じてしまった!。
「いや、昨日から針仕事が続いていてね…目の奥から頭にかけてズキズキしてるんだよ…」
「なら、少し横になられたほうがよろしいですね…」
「それが、横になってもズキズキするんだよ…」
(頭痛か……細かい針作業で目の疲れから来てるのか……あ、そういえば、浩一が常備薬を持たせてくれてたな!)
「<おねちゃん>すみませんが水を一杯用意してくれませんか?」
「う、うん…」
俺は急いでリュックから常備薬が入ったケースを取り出した!。




