乾電池式ネッククーラー
俺の時代の暑さに比べればこの時代はまだマシな方だが、梅雨の時期の蒸し暑さは令和も戦国時代も対して変わりはなかった、そこで俺は信長様の御機嫌取りの為に暑さ対策のアイテムを持って来ていたのだ。
「まだわしに何かを献上してくれるのか?」
「はい、きっとコーヒーよりもお気に召すと存じます!」
俺はリュックから箱を取り出し、その中から<ネッククーラー>を取り出した。
「何じゃ?その大きな馬の蹄のような形の物は?」
「はい、これを信長様の首にかけて涼んでいただきたく!」
俺はビニール袋から本体を取り出し乾電池をセットしていく。
「巽!!このわしの首に馬の蹄をかけるつもりか!!この織田信長の首に!!」
「と、殿!!お待ちくだされ、その蹄は巽殿が殿の為に未来から持って来た道具!今しばらく巽殿を信じてくださいませ!!」
「猿、まぁよい!貴様の顔に免じ巽の好きなようにさせてみるわ!」
「ありがとうございます、藤吉郎様……さ、準備は出来ました!」
乾電池をセットし、素早く<取り説>に目を通した俺はネッククーラーのスイッチをONにした。
♪ウィィィィ~~~~~~~
「巽!その蹄が鳴き出しおったぞ!!」
送風口から冷たい風が出ているのを確認し、恐る恐るネッククーラーを信長様に差し出した。
「ふん!こんな蹄を首にかけた姿なぞ、家臣共には見せられぬわ!!……ん?…こ、これは!!」
どうやら信長様も送風口から出ている冷たい風を感じたようで、一瞬でネッククーラーを自分の首にかけてしまった♪。
「お、おぉ!!なんじゃこれは!首から上だけが冬のように冷たいではないか!!汗がすぐ引いていくぞ!」
「あ、あの?…ところで殿?…扇子は?…」
欄丸様は扇子を開きずっと信長様の声を待っていたのだが…。
「扇子?もうその様な物はいらん!この<ねっくくーらー>で十分涼が取れるわ♪わははは♪」
「信長様に気に入っていただき、嬉しく思います!」
「いやいや、巽よ!疑って悪かった!これでこの夏は快適に過ごせるぞ!」
「後ほど欄丸様にこの品の扱い方を伝えておきます」
「おぉ、大儀であった♪巽よ!この<ねっくくーらー>と<ぺんらいと>を合わせ、わしが1万5千両で買ってやる!」
「あ、有り難き幸せ!!…そ、そこで私から信長様にお願いしたき事がございます!」
「なんだ?1万5千両では足りぬと申すか?…なら2万両ではどうだ?」
どうやら今日の信長様はかなりご機嫌になってくれたようだ♪これなら俺からの願いも聞き入れてくれるかも知れないと全身でその雰囲気を感じていた。
「いえ、その金を…どうか戦で親を亡くした子供達や身体の不自由な貧しき民に分け与えていただきたく!」
「は?どう言う事じゃ?」
「と、殿!この猿からもお願いいたしまする!巽殿の願いを…どうかお聞き入れください!」
(藤吉郎様…)
藤吉郎様は俺以上に額を床板に当て信長様に願い出てくれた。
「戦で役にも立たぬワッパと身体不自由な者を施しても、何ら織田家の為にはならぬわ!その様な者らは捨ておけ!」
「いえ、信長様……後、数年後…信長様は<一向一揆>に悩まされます…それもかなりの月日を費やす事になります…」
「真か?」
「はい、その<一向一揆>を抑える為、莫大な金を信長様は失います…ならば、その前に少しでも民に施しをされておれば、民の心は信長様に心酔いたします…」
「殿!殿のお慈悲でいずれこの尾張の為に命をかける屈強な兵がこぞって集う事にもなります!」
「殿、この森欄丸も巽殿の御意見に賛同いたしまする、これは益々殿のご威光が世に広がる絶好の好機だとも思います!」
「欄丸…貴様、巽のコーヒーで乗せられおったか!」
信長様はきつい口調になられたものの、明らかにその表情はご機嫌な様子だと伺えられる、当然ながら理由の一つとして、ネッククーラーの快適さが大きい!この蒸し暑さで俺達の額からは汗が滴っているのだが、信長様の顔には一切汗が流れてはいなかったからだ。
「殿、農民武士のせがれに生まれた拙者から見ても、民の忠義ほど恐ろしい物はございません!一度反旗の心が芽生えれば、それは親戚縁者まで広がる事は目に見えて明らか!しかし、その逆に忠義の心が広がればそれも縁者に繋がっていきまする!今の尾張にとってどれが良策かは殿もお見通しのはず!」
「控えよ猿!!貴様はまだ評定参列も許されぬ身分で、ようもわしに具申しおったな!!」
「も、申し訳ございませーーーん!!」
「…だが、今は許す!!評定の席では無いのでな…」
「あ、有り難き幸せーー!!」
「ところで巽よ!貴様はそれでよいのか?…この世は欲がなければ出世も出来ぬ時代じゃ、貴様なら未来の道具を使い一国はたやすく取れそうだと思うが、そのような欲は無いのか?」
「ははっ、無能な商人の私には一国を治める力量等ございません……ただ、470年先で商いの苦楽を共にした妻子ある幼馴染の友人が居りまする、その友人に恩義を返したいだけでございます!」
「友の為なら出世などいらぬと?……そうか、巽は良い友を持っているのじゃな…わしとはもう会う事は無いと思うが、駿府の<竹千代>が幼馴染と呼べる友だった…」
竹千代…戦国物には無くてならない存在!最後の天下人であり江戸300年の礎を築いた超大物!あの<徳川家康>の幼名である!。
「松平様ですか……いえ、いずれ信長様は松平様と必ず再会いたします!」
「ほう、竹千代の名も知っておるとは、あやつも歴史に名を残しておるようじゃの…まぁ何故わしが竹千代と会うのかまでは聞かぬ、貴様が言う歴史が狂うては困るでな!」
「は、ははっ!!」
「だがの、巽!この様な道具を献上してくれた貴様には悪いが、その申し出受ける事は叶わぬ!!」
「え?」
「と、殿!!い、今…な、何と…」




