ご機嫌な信長様
「殿の、おな~~~り~~~!!」
欄丸様の声が廊下に響くと、俺と藤吉郎様は深々と頭を下げ信長様の登場を待つこと30秒…前回と同様<一の段>に信長様は座られた。
「ふぅ~~…今日は朝から蒸しるのぉ~~…猿!巽!苦しゅうない、面を挙げよ!」
「は、ははぁ~~」
「は、ははぁ~~」
俺と藤吉郎様は頭を挙げると、初めて会った時よりも穏やかな表情の信長様が居た。
「ふ、久しいの、巽!で、例の<ぺんらいと>は用意出来たようじゃの?」
「は、はい!仰せの通り100本用意いたしました!」
「大儀であった!が、それを検める前に、先ほど欄丸から南蛮の飲み物を巽から馳走になったと聞いてな、それはどの様な物じゃ?」
「は!まずその飲み物専用の豆を火で炙りそれを細かく粉にし、その粉を紙に乗せ湯を注ぎ、紙から滲み出て来た汁が<コーヒー>という南蛮の飲み物です…」
「ほう、茶の葉でなく豆の粉に湯を注ぐのか?そこまで手間をかけねばならんのか?南蛮のコーヒーとやらは?たかが豆に!」
「と、殿!この猿も先ほど巽殿から馳走になりましたが、それはもう癖になりそうなほど美味でございます!」
「ふむ、欄丸もその様な事を申しておった…して、巽よ!無論、わしのコーヒーもあるのであろうな?」
「ははっ!信長様には色々な味をお試ししていただきたく、何本かのコーヒーを用意しております!」
「うむ!苦しゅうない、早よう用意いたせ!」
「はは!では、失礼いたしまして…」
俺は信長様の前に左からカフェオレ→ノーマル→微糖→シュガーなしミルク入り→ブラックの順番で缶コーヒーを並べた。
「ほう、この鉄の筒にコーヒーが入っておるのか?にしても、何たる鮮やかな色の筒じゃ!」
「ははっ!恐れながら私の時代ではこれを<缶>と言い、すでにその缶に煎り立てのコーヒーが納まっております!」
「巽の時代は便利な物ばかりじゃな!で、これらのコーヒーをわしが味見すればよいのだな?」
「ははっ、この中で信長様のお口に合う味をお決めください!まずはこちらから飲んでみてください」
「あい分かった!ほほ、これが南蛮の飲み物、コーヒーたる物か…」
俺は先に一番甘いカフェオレから勧めた、信長様は本気で俺の事を信頼してくれているのか、何ら躊躇もせずカフェオレを一口流し込む。
「んっ!これは、う、美味いが…ちとわしには甘すぎる!」
「では、その隣のコーヒーを!」
「うむ………ゴクリッ………ま、まだ甘いの……」
ここまでは欄丸様の情報通りの展開に進んでいる、俺の予想では信長様の好みは<微糖>だろうと読んでいる。
「では、こちらはどうでしょうか?」
「これじゃな?………ゴクッ……お、おぉ!!これは良い!…正にわし好みじゃ!!」
「有り難き幸せ!それでは念の為に残りのコーヒーも味見していただければ…」
「う、うむ!そうじゃの!!」
信長様はいよいよ<ノンシュガー>エリアに手を伸ばし<シュガーなしミルク入り>を口にする。
「んん…これは…濃厚ではあるが、何やら物足りん…おぉ僅かな甘さか!…」
「では、最後に一番黒い缶のコーヒーを…」
「どれ…………ゴクッ……ん!…苦い!…こ、これはまるで薬のようじゃ!これはわしには合わん!やはりこの三つめのコーヒーがわしには合っておる♪」
「あ、有り難き幸せ!!」
「殿!!」
「何じゃ?欄丸?」
「このコーヒーたる物、巽殿はいつでも殿に献上出来るとの事!これを次回からの酒宴で水の代わりにお飲みになられては?…他の家臣はコーヒーの存在を知りませんゆえ…」
「……欄丸、貴様…巽を使こうてこのわしを計りおったな?…」
「お、恐れ入ります…」
「わははは♪欄丸!巽!大儀である!このコーヒーとやら大いに気に入ったぞ♪では<ぺんらいと>を検るとするか!巽よ<ぺんらいと>を出すのじゃ!」
「ははっ!…それと、更に信長様にお伝えしたき事がございます!」
「何じゃ?何でも申せ!」
俺はリュックから厳重に梱包されたペンライトの箱を取り出し床に置いた。
「ほう、やはり高価な物なのだな?しっかり封をしておるわ!猿、この箱を開けろ!」
「ははっ!」
「して、巽!わしに伝えたき事はなんじゃ?」
「は、先ほどのコーヒーと些か関連しておる事ですが、私の時代には<酒>でありながら<酔わない酒>が存在しております!」
「なんじゃと?酒とは酔う物ではないのか?酔えん酒など酒では無かろう?」
「はい!しかし、私の時代でも下戸の者や酒の飲めぬおなごもおります!その様な者でも酒宴を楽しめるように作られた酒が<酔わない酒>なのです」
「そ、そんな酒が巽の時代にはあるのか!!」
「ございます!!」
「で、その<酔わない酒>の味はどうなのじゃ?」
「味は果物の…そう、蜜柑のような味から多種多様にございます!信長様のお口に合うあまり甘くない酒もあります!」
「そ、そうなのか?」
今、あの<第六天魔王>と恐れられていた織田信長の顔ではなく、クリスマス当日を迎えた子供のように胸を躍らせているあどけない表情の信長様が居た。
「はい、なのでまた私が未来に戻り<缶コーヒー>と共に<酔わない酒>も調達してまいりますので、酒宴の際は交互に楽しまれてはと思います!」
「巽!!…巽よ!!…貴様はどこまでわしを喜ばせれば気が済むのだ♪期待しておるぞ、巽!!」
「は、ははっ!有り難き幸せ!!」
「殿!確かに100本<ぺんらいと>がありました!」
「猿、それをわしの前に!」
「ははっ!」
信長様は箱の中身を覗き込み、綺麗に並べられたペンライトを確かめているが、この蒸し暑さに頬から汗が流れ始めていた。
「にしても、今日は特に蒸し暑い…欄丸!扇子でわしを扇いでくれ!」
「畏まりました!」
「お待ち下さい、信長様!もう一つ信長様に献上したき品がございます!」




