酔わない酒
「あ、あの欄丸様も飲んでみます?缶コーヒー…」
「わ、私の分も有るのですか?…し、しかし…殿ですら口にしていない南蛮物を私が先になど……」
やはりこの時代は自分の名声や命よりも、主君に忠義を貫く事が武士の美学とされている、ましてや小姓の欄丸様がただの電気屋である俺の誘い受けるとは到底有り得ないとは思うが…。
「欄丸殿…貴殿も承知でありましょう?巽殿が未来からやって来た事は…この事実は拙者の家族と殿、そして欄丸殿しか知らない事実でござる…言わば我らは同士でござる!いや、拙者は巽殿を友と思うておりまする!それに、お歳の近い欄丸殿と巽殿なら良い友にもなれると、この猿は願っておりまする!」
「木下殿……」
「さ、欄丸様!どうぞ♪」
「え、あ!し、しかし……」
「欄丸殿、友の誘いを断っては武士の名折れでございまする!」
「は、はぁ……かたじけない…」
欄丸様は俺の差し出した藤吉郎様と同じ<カフェオレ>を受け取ると、まだ信長様に対し遠慮しながらも缶を口に付けた!。
(やはり藤吉郎様は<人たらし>だな♪)
「…ん!……あ!…あぁ、何という甘さでしょうか!何やら目の奥から頭の上にまで軽くなるような気分になりまする!」
「お気に召していただき何よりです♪欄丸様…」
「こ、これを全部…私が飲んでもよろしいのですか?」
「えぇ、どうぞ♪」
俺達は<森欄丸>を交え朝のコーヒータイムを堪能しながら、彼から信長様の嗜好を色々聞いていた。
「そうであったか…殿はあまり甘い物は好かれておらぬのか…では、この<こーひ>とやらは、お口に合わぬやもしれん…」
「いえ、藤吉郎様、このコーヒーには色々味の濃さがございまして、一番甘いコーヒーが今藤吉郎様と欄丸様が飲んで頂いている<カフェオレ>でございます、簡単に順を言いますと[甘い・少し甘い・甘くてちょっと苦い・ほんのり苦い・苦い]と多様な味を楽しめるのがコーヒーでございます…」
「おぉ、それなら殿のお口に合う<こーひ>が見付かるやも知れん♪だが、巽殿?そんなに種類を持って来ておるのか?」
「えぇ、とりあえずは一通り…はは♪私、コーヒー好きなもので…」
「あ、あの!木下殿、巽殿!じ、実は…お、お2人にだけ話しておきたい事があります…」
欄丸様は嬉しそうな顔から一変し、やや暗い表情になりながら缶コーヒーを床に置き、少し顔を俯かせながら口を開いた。
「実は……殿は酒好きですが、あまりお強くはありません…しかし、家臣の皆様は酒豪ぞろい…そんな家臣の皆様の前で頭首が先に酔うわけにもいかず、いつも無理に酒を飲まれておるのです…」
「な、なんと!と、殿が!!そうでしたか……お、お労わしや…」
「そんな殿の為、途中で私はひっそりと酒から水へ中身を変え殿に酌をしているのですが、何せただの水なので…いい気分だとは到底思えません…それでも殿は皆様の前で陽気に振る舞われているのです…それを見ている私は…辛い…」
「くっ、と…殿は…わ、我らの為に気遣い…そ、その様な振る舞いを……うぅっ、殿!…何とお優しい!うっ、殿!…殿!!…うぅ、あ、有り難き幸せーー!!」
どうやら藤吉郎様は<感激ゾーン>に突入したようで、とりあえず<ゾーン>から戻って来るまでは俺が欄丸様の話を纏める事にした。
「それで欄丸様は私に、水の代わりになりこれは<酒>だと人を騙せる飲み物として、このコーヒーを使いたいと言いたいのですね?」
「ま、正にその通りです…家臣の皆様は<こーひ>の存在を知りません!南蛮の酒と言えば誰も疑いはせぬはず!」
「分かりました、私もこのコーヒーを信長様に献上し、好みのコーヒーを決めていただくつもりでしたので、喜んで欄丸様の案に乗らせていただきます♪」
「た、巽殿…感謝いたします!!」
「とりあえず宴会はこのコーヒーで暫く誤魔化してもらって……その次にはとっておきの<酒>を信長様に献上する事にしましょう♪」
「た、巽殿!い、今の私の話を聞いていなかったのですか?殿は酒を…」
「えぇ、聞いていましたよ♪だから、今度は信長様に酒は酒でも<絶対酔わない酒>を未来から持ちいたしましょう!」
「よ、酔わない酒?…そんな物があるわけ…」
「あるんです、私の時代には♪」
「た、巽殿…」
「ま、私に任せておいて下さい、藤吉郎様?そろそろ落ち着きましたか?」
「ぐすっ、う…うむ…で、では欄丸殿…殿の元へあないしてくれまするか?」
「畏まりました…」
信長様が酒に弱いとは知らなかったが、こうして<森欄丸>様と交流を持てた事は俺にとって非常に有りがたい♪今後は何かと信長様の情報も流してくれるだろうし♪。
「この台所から信長様の居られる本丸へ向かうのは初めてです…」
「そうですか、では巽殿もこの城内をしっかりと覚えておいてください!」
「はい!」
ここに来たのは2度目だが、やはりお城は伊達じゃない!立派なお庭を左手に眺めながら廊下を歩き、途中の階段を少しづつ上がりながら俺達は本丸へと向かった。
<おはようございます欄丸殿!>
<おはようございます森様❤>
<あ、も…森様…お、おはようございます❤>
廊下ですれ違う御家来衆や腰元の人達から挨拶をされる欄丸様、特に女性達の彼を見る視線は俺も羨ましいと妬んでしまうほど熱かった…。
(どの時代でも女性は女性なんだな…やっぱりイケメンがお好きなのね…今度お城の広い広場で[入場料一人1両]をもらい、俺主催の<森欄丸リサイタル・熱い情熱を君へ!>なんてやれば儲かるんじゃないか?)
などと、アホなビジネスプランを構想しているうちに俺達は広間へと到着した。
「では、殿をお呼びして参りますので、しばしお待ちを…」
こうしてまた俺と藤吉郎様はこの広い床板の広間に2人だけとなった。




