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戦国時代の電気屋さん  作者: 朝風清涼
第2章 これが戦国時代なの?

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もう一つの決意

 俺が幼い子供と話している姿に痺れを切らした藤吉郎様は、とうとう我慢出来ずに俺の元へとやって来た。


「なんじゃ?お願いって?…わしらは早く城へと参らねばならんのだぞ!」


「今、藤吉郎様はいくら手銭を持っていますか?」


「は?……ご、5両なら…あるが……ま、まさかお主!…この小汚いワッパに?…」


「確か、私の90両を預かってくれていますよね?帰ったらお返ししますので、私に5両貸してください!お願いします!」


「し、しかし…この様なワッパ、ここら辺にはいくらでもおるぞ…いちいち施しをしていたら、わしらの方がオマンマを食えなくなる!」


「藤吉郎様、私の時代では弱き者を助けるという(まつりごと)があります、それは国が行っています…親の居ない子供、後ろの彼女のように身体が不自由になった者、手銭が無く食べ物すら買えない者…そんな弱き人々に国は温かい慈悲を与えているのです!」


「そ、そのような事を国がしておるのか!!だが、(いくさ)にも役に立たぬ者を助けてどうする!」


 これまでリュックを背負っただけの俺と普通に会話をしていた少年は、いきなり刀を持った侍が現れたからか、顔を強張らせ両腕を小刻みに震えながらも、目の不自由な後ろの妹を守ろうとしていた。


「…藤吉郎様、お聞きします…一揆はどうして起こるのでしょうか?…」


「そ、それは年貢の問題や宗派の事とかではないのか?」


「まぁそうですが、その様な事態を防ぐのも大名の役目だとは思いませんか?…藤吉郎様、よくよく考えてみてください!もし信長様が弱き民に手を差し伸べたら、民はそんな信長様をどう思われましょうか?」


「…それは……!!!!…と、殿に心酔し、一揆も起こらず、いや!命をかけて殿をお守りする精鋭部隊になるやもしれん!!」


「はい!もし、一家に一人だけ不自由している弱き人が居ても、その周りに居る人達は健常な人…どうですか?…頭の切れる藤吉郎様なら、もうお解かりでしょ?」


「お、おぉ!…おぉ!…そうなれば、もっと民から寵愛される殿になるぞ♪」


「その通りでございます!…」


「た、巽殿!わ、わしは今、目から鱗が落ちたような気分じゃ!…ち、ちくと待て!!」


 藤吉郎様は懐をゴソゴソさせ、俺に藍色の巾着袋を手渡してくれた。


「藤吉郎様、これは?」


「これごとそのワッパらに渡してやってくれ!恐らく6両近くあるはずじゃ!」


「藤吉郎様!帰りましたらすぐお返しいたします!」


「いや、半分だけ返してもらう事にする!わしも巽殿の(まつりごと)に興味を持った!」


「と…藤吉郎様、ありがとうございます!」


 巾着袋を受け取った俺はそのまま少年に手渡した。


「さ、これを持っていきなさい…あ、それに…これも食べなさい…」


 俺は巾着袋だけではなく、<おねちゃん>特製のおにぎりも幼い兄妹(きょうだい)に与えた。


「こ、こんなの…おじさんとお侍さんから頂くわけにはいきません…」


「いいから、このお金で美味しい物をみんなで食べて、早くお母さんにも元気になってもらってね…いいかい?あまり大勢の人の前でお金を出すんじゃないよ、危ないからね…」


「お、おじさん……さ、(さち)!い、今…おじさんとお侍さんが俺達に…お金を施してくれた…そ、それに…こ、米のおにぎりも!!」


「ほ、ほんと?兄ちゃん?」


 少年はそっと妹に巾着袋を触らせると、その袋を触る彼女の姿を嬉しそうに見詰めていた。


「お、お兄ちゃん…今、(さち)らは…菩薩様に会っているんだね……」


 目の見えない少女は俺の声が聞こえる方向にそっと左手を差し出し、俺はその小さな手を両手で包み込んだ。


「あ、温かい手……お兄ちゃん…菩薩様の手…とても温かいよ…ありがとうございます…菩薩様…」


「うん…ぐすっ…うん!……」


 次第に俺の視界がゆらゆらと波打っていく……。


(なんだよ…なんで涙が出て来るんだよ!…くそっ!)


「ぐすっ、いいかい?…どんなに辛い事があっても、お兄ちゃんやお母さんと生きるんだよ!きっといつか、信長様と私の横に居る木下藤吉郎様が、みんな笑って暮らせる世を作ってくれるから!」


「はい、菩薩様♪」


「お、おほん…さ、巽殿…殿がお待ちかねじゃ……そろそろ……参ろう…」


「ぐすっ…は、はい!」


「あ、あの!木下様!!」


「なんじゃ?ワッパ?」


「お、俺!大きくなったら木下様の家来になりたいです!!いいですか?」


「おぉ!楽しみに待っておるぞ♪しっかり精進し強き男になって出向いて参れ!!」


「はい!!」


 こうして俺と藤吉郎様は子供達と別れ清洲城へと向かい始めた、それでも俺の脳裏にはあの幼い兄妹(きょうだい)の面影が消える事は無く、俺自身この時代でもう一つやるべき事を見付けた気がしていた。


「藤吉郎様って、本当は子供にもお優しいのですね、感激しました!」


「う、ま…まぁ…わしには子がおらぬでな……」


 誕生日会・クリスマスにお正月と、何不自由なく両親に育ててもらった俺にとって、この時代の子供達を見ると申し訳ないと思えるほど、これまでの自分の生活環境は恵まれていた…。


(俺があの子達と同じ年齢だった頃、生きる為に<物乞い>をするなんて想像すらしていなかった…一日3食あって当たり前、季節ごとのイベントを楽しむのも恒例、夕飯の献立にも我侭を言っていた自分が恥かしく思える…)


 実際、俺の時代の<令和>でも保護者が給食費を払えず、クラスメイトと共に給食時間を過ごせない生徒も居ると、以前空調工事で訪問した学校の先生が悲しそうに言っていたのを思い出した。


(それでもまだ俺の時代には貧困家庭や子供達への救済制度がある、しかし…この時代は…)


 俺は目の前に見える清洲城の天守閣を見詰めながら、背負っているリュックのショルダーベルトを両手で握りしめた!。


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