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戦国時代の電気屋さん  作者: 朝風清涼
第6章 
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わしか?わしはな…

「ちょ、ちょっとそんなに剥きにならないでください!!あ、い…今の征夷大将軍のお名前は知っておりますです!…た、確か足利義昭様!!」


「おお、正にその通りじゃ!だが、まだわしはお主を信用してはおらん!!正直に申せ!お主はどこの国から参ったのだ?それとも、そんな派手な格好をしていても近江の浅井、越前朝倉の間者ではあるまいな?」


(落ち着け、これは夢だ!きっと本当の俺は病院のベッドで生死を彷徨っているに違いない…そして、こんな事故にあった俺の代わりに、浩一が銀行と話し合ってくれてるはずだ!…と、ちょっと淡い期待している!)


 さぁ、このピンチ!どう切り抜けるかで俺のベッドからの目覚めが違うだろう!刀で斬られ絶叫と共に目覚めるか、それとも彼を信用させ俺が心地よく目覚める為、相棒として共に楽しくベタに戦国時代の冒険活劇をするかだが…。


(答えは後者しかないだろ!どうせ夢なんだから!それなら、何でも有りにしてやるよ!!)


「お!お待ち下さいお侍様!!じ、実は私!この時代から470年ほど先の未来から来た者です!屋根から落ち、気が付くとこの時代に現れていたのです!!」


「まだわしを計りおるか!!470年も先から人が現れるはずがなかろう!!やはりお主は斬る!!」


「ま、待ってください!!どうすれば信じていただけますか?」


「なら、お主が470年先の未来とやらから来た証拠を見せてみろ!!」


「しょ、証拠って………飛行機や車なんてここには無いし…!!!…こんな山中じゃ携帯も圏外確実のはず…ん?…お、お侍様!その胸にしまっている紙は書状ですか?」


「そ、そうだが…何処の馬の骨とも分からんやつには絶対見せるわけにはいかん!!」


「で、もう読まれたのですか?」


「うっ、そ…それが…一刻ほど前、使いの者に受け取ったはいいが…月の出ておらんこの暗闇では何と書いているのか字が読めん…早く夜が明ければいいと思ってはおるのだが…」


「読ませてさしあげましょうか?」


「お主、気が変になっておるのか?今宵は月も出ておらんのだぞ!そんな中で、どうこの書状を読むと言うのだ!」


「簡単ですよ♪ちょうど私が470年先の未来から来た証拠もお見せできますしね!」


(ラッキー♪電工ベルトをしたままタイムスリップして助かったぜ!!)


 俺は電工ベルトからペンライトを取り出しお侍に見せ付けた!。


「なんじゃ?その鉄の棒は?」


「これはペンライトといいます、さ、書状を広げてみてください!」


「先程も言ったであろう!これは誰にも見せられんと!!」


「なら、私はこうして向こうを向いております、そしてお侍様が私が見ていない事を確認してから合図を告げて下さい!きっと書状が見えるようになりますから!!」


「誠か!それが狂言であれば即刻お主を斬り捨てるがそれでもよいのだな?」


「えぇ、その時は容赦なく私を切り捨ててください!」


「その心意気やよし!!では、向こうを向け!!」


 どうせ夢だ、その夢に出て来る人に未来の道具を見せた所で歴史が変わるわけもないだろうし、心なしか余裕になった俺は少しマジシャンの気分を味わおうと胸を躍らせている♪。


「よし、それでよいぞ!!では、わしに書状を読ませてみい!!」


「では、いきますよ!3・2・1!!」


 俺はペンライトのスイッチをONにした!!。


 ♪ピカッッ!!!


「な!!!!なんじゃと!!!しょ、書状だけがまるで昼間のようじゃ!!…うん、うん、読める!読めるぞ!!」


「これが暗闇でも明かりを照らせるペンライトです!!」


(ふぅ~、マジ助かった♪)


「な、なんと……火も使わずこうも簡単に灯りを作り出すとは……」


「私が未来人だと分かってくれましたか?決して私がキツネやタヌキだと思わないでくださいね!あ、物の怪とかでもありませんから!」


「そんな事は分かっておる!ほぉ~~~、これがペンライトなるものか…殿に見せればなんと喜ばれるか知れたもんじゃない!殿は珍しい物や異国の物を好んでおられるからな…」


「へぇ~、そんな安物のペンライトが……」


「お、お主!ち、ちくとそのペンライトなるもの、わしにも触らせてくれぬか?」


「えぇ、いいですよ!」


 まるで知恵の輪を解くようにお侍はペンライトを眺めながら感心していた。


「で、これをどうすればさっきのように昼間に変えられるのじゃ?」


「あ、それはその突起物を前に押し出せばライトが光ります!」


「なるほどの、どれどれ……………うおっ!!!……まるでお天道様のように眩しい!!」


「そりゃ、自分の顔に光りを当てれば誰でも眩しいですよ!」


 ガキの頃、懐中電灯で悪戯し自分の顔にライトを照らして仰け反っていたが、まさかいい年をしたお侍が同じリアクションをした事でつい笑いが込み上げてしまう。


「どうですか?これで私が未来からやって来た事は理解してくれましたか?」


「う、うむ!こんな珍しい物を見せられては信じるしかあるまい……何卒先程の無礼を許していただきたい!」


 お侍はしっかりペンライトを握り締め深々と頭を下げてくれたのはいいが、きっとそのままあのペンライトを自分の物にしたいというオーラがありありと窺えた。


「こうしてお侍様と出会えた事もお釈迦様のお導きでしょう、そのペンライトはあなたに差し上げます」


(どうせ夢だし、仮に現実に戻っても腐るほど倉庫に在庫が眠ってるし…1本くらいあげてもいい…介抱してくれた礼もしたいし…)


「な、なんと!これを拙者に!!…い、いや、気持ちは嬉しいが、こんな高価そうな品、わしにはもったいない!…おぉ、そうじゃ!これを殿に献上する事にしよう♪うん♪うん♪これは良い考えじゃ、さぞかし殿はお喜びになるに違いない!」


「あ、あの?さっきから<殿><殿>と言われておりますが、どなたの事です?」


「ん?この国に来て殿のお名前を知らんとは!やはり未来では殿の名前は残っておらぬのだな…わしが命をかけてお仕えいたす殿のお名前は<織田上総介信長>様である!!」


「いっっ!!!お、織田信長!!」


「ん?お主、殿の名前を存じておるのか?……!!…おぉ!さすが殿の御威光は470年後の未来までも続いておるのだな!!それは凄い!!」


「い、いえ…あの…」


(ちょっと待て!たとえ夢とはいえ、当時の人に未来の歴史を語るのは非常にまずいのではないか?ここはとりあえず適当に誤魔化しておくか…)


「い、いえ…ここに来るまでに村の人々の話を聞いただけでございます…」


(これで信じてくれたらいいが…)


「そうであったか、出来れば殿の未来を聞きたかったが、やはり470年の歳月では殿の名前も残ってはおらなかったか…残念じゃ…」


(ゲッ!この人超単純!!でも助かった♪)


「は…はは」


「そう言えば、まだお主の名を聞いておらなんだ、お主は?」


「巽淳一と申します…う、生まれは…この時代で言うと摂津の国でございます…」


「ほう、未来の摂津の国じゃな?…で、その未来の国とはどうなっておるのじゃ?こんな道具を作ってしまうのだ、さぞもの凄い国になっておるのであろうな?」


(やはり来たか!!)


「それが、ある禁令事項がありまして…このように道具を渡したりする事は出来るのですが、未来の話を口に出してしまうと私自身が消えてしまうのです…どうか、この事は御容赦を……」


 自分でも(よくまぁこんな嘘をベラベラと並べられるもんだ!)と感心してしまう!恐らく借金返済で銀行に言い訳ばかりしていたスキルがそうさせたのだろう。


「なるほどの、せっかく未来の巽殿と知り合えたのに、すぐ消えられてはわしも困る!この事はしかとわしの胸に刻んでおくぞ!」


「ありがとうございます、それで…あの、あなた様は?」


「お、おぉ!わしか、申し遅れたが、わしは<木下藤吉郎>でござる!」


「いっっっ!!ひ、秀吉!!」


「は?違う、藤吉郎じゃ!!お主、ちと耳が悪いのか?」


 木下藤吉郎!明智光秀に倒れた織田信長の意思を継ぎ、後に天下を治め<関白・豊臣秀吉>になる男!。


(マ、マジかよ!一介の電気屋の俺が未来の天下人と会話を!!ゆ、夢だとしてもこれはこれで爽快な気分になるじゃないか!)


「い、いや…その…あはは……」


「変なヤツじゃの…まぁよい、お主も殿に合わせてやりたいので、今から清洲の城まで付き合ってもらうぞ!よいな!」


「で、でも…藤吉郎様…書状の用件は?」


「おう、あれか!あれはもうよいのだ!所謂、取り越し苦労で終わったのでな♪なので、今から清洲に戻るぞ!巽殿、着いて参れ!」


「は、はぁ……」


 何だかリアルな夢だと感じながらも、俺は未来の天下人と共に織田信長の居城<清洲城>へと向かうのであった。


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