こんな時代だから…
意気揚々と城下町までやって来た俺は、人の目もさほど気にせず町の通りを藤吉郎様と歩いていた。
(へぇ、野菜に魚…果物に…餅…あれは汁物か?…それともお粥のようなものか?)
前回は緊張のあまり町の様子まで気を回す余裕がなかった俺は、今回のんびりと城下町の風景を楽しんでいる。
(まるで地方の朝市みたいだな…ま、俺の時代よりはかなり地味な物ばかりだけど…)
どの時代でも生活用品が集まる所に人がやって来る、女は勿論、男性や子供までこの通りは朝からかなりの賑わいだ。
(そっか、この時代は学校なんてなかったんだよな…子供が遊んでいて当然か…曜日なんて気にする時代じゃないんだし…ある意味羨ましいな…)
それにしても不思議だ、食材も豊富で少しの金さえあれば何でも買える時代の子供達に比べると、栄養価も少ない食事をしているこの時代の子供達の方が元気で明るく見えていた…。
(ゲームや遊戯施設も無いのに、何をしてこの時代の子供達は遊んでいるのだろうか?)
「あの?藤吉郎様?」
「なんじゃ?」
「この時代の子供達はどのような遊びをしているのですか?」
「そうじゃの、武家の子は囲碁や将棋、相撲、茶や剣術を習っておるな…おなごはお手玉や双六とか紙人形かの…わしのような下級の家では何と言っても<石投げ>じゃったの!あれはよい戦の鍛錬になった!」
「い、石投げ?」
「そうじゃ、子供同士で二手に分かれ領土を築いてな、互いに石を投げ合うのじゃ!それで石が当たった者は討ち死にとし、徐々に領土を奪っていく遊びじゃ♪あれは楽しいぞぉ~~♪」
「い、石をぶつけるのですか!!怪我したらどうするんです!!」
「どうしてじゃ?石投げの傷は男子の武功じゃぞ!傷が多ければ多いほどその者は勇敢だという証ではないか!わははは♪」
(か、顔に当たったらどうすんだよ!)
この時代の子供達はどえらい遊びをしていた事に俺は恐怖した!下手したら命すら危ないのに、それをさせる親も親だと思うが…。
「わ、私の時代ではそんな遊びをして怪我でもしたら親が怒鳴り込んできますよ!」
「なんたる情けない親じゃ、子供が戦場で活躍してほしくはないのか?…戦で手柄を立てれば親も安泰だというに…」
(やはりここは間違いなく戦国時代だ……強さで人の優劣が決まるんだ……)
「わ、私の時代では武功よりも勉学こそが強さの証になっていまして…」
「ほう、だから巽殿もひ弱なのじゃな…この時代は軍師に取り立てられるほど勉学が出来れば出世もなるだろうが、生憎そのような賢者を見付けるのも大変だからの…それに、まずは字が読めねば話にもならんし、この周りにいる者らも半分以上は字が読めぬ…」
「だから、武功こそが出世の手段ですか…」
「その通りじゃ…ただの、小一郎は勉学に邁進して欲しいのじゃ、そして養った知識をあの子供達に学ばせてやりたい…そうなれば殿の周りには軍師だらけになるし、その家族も安泰♪きっと織田軍は強い軍団になると思うのじゃ!」
「そして、いずれ戦の無い平和な世になると、小一郎様から学んだ子供達はこの国の重臣として民の為に全力を尽くしてもらう…と、そう藤吉郎様はお考えなのですね?」
「うっ…そ、そうじゃ…と、殿の素晴らしいところは身分関係無く取りたててくれる所だからの…」
どうやら図星だったのか、少し照れ臭い考えを俺に見抜かれた藤吉郎様は耳を赤くし空を見上げた。
「は、早く殿の元へ参るぞ!!」
「くす♪…はい!藤吉郎様♪」
教科書での知識しかないが、この時代の出生率と成長率は医学の発達した俺の時代に比べかなり低かったそうだ…。
(この時代の子供達は産まれた時から生きる為の戦が始まっているのか…そう考えると俺の御先祖様はしっかりと太古から生きてくれていたんだな……今度、墓参りでも行くか……ん?…あの子供らは?…)
道の端を2人の子供が歩いているのだが、恐らくお兄ちゃんだろうか、両目の部分に手ぬぐいを巻き右手に握る長い棒を地面に当てながら歩いている女の子の手引きをしていた。
(年の頃なら男の子は10歳くらいか……妹は…8歳くらいに見えるが……)
時代劇でもよく観るボロボロの着物を着た貧しい子供の姿を再現したかのような幼い兄妹に、俺は目が離せなくなっていた。
(妹さんは…目が…不自由なのか…だから、手ぬぐいを…くっ…)
「藤吉郎様、少しだけ待っていてください!」
「よ、よいが、どこに行くんじゃ?」
何故か子供の小さな手が俺の心臓を掴んだような感覚に襲われ、ほぼ無意識に俺はあの子達の元へと駆けだしていた!。
「ね、ねぇ?君達?…何処に行くのかな?」
「…!!!…お、おじさん…誰?」
(お、おじさんて…俺、まだ28歳なんだけど…)
いきなりでかいリュックを背負った男から声をかけられ驚いたのか、男の子は咄嗟に後ろの妹の前に立ち塞がった。
「心配ないよ、お、おじさんは悪いやつじゃないから……これから何処に行くの?」
「………あ、余り物とか………腐って売れない野菜を貰いに、この<市>に来た……」
「お父さんとお母さんのお手伝い?」
「父ちゃんは戦で死んだ……母ちゃんは病気でずっと寝てる……」
「そう、それでお母さんに何か食べさせたくて、妹さんと一緒にこの城下町に来たんだね……お野菜、貰えた?」
「それが…今は不作で……どこからも…貰えなくて…渡されるのはもう食べられない物ばかりで…」
「……そう……」
俺は後ろでお兄ちゃんの着物の生地を握り、小さく震えながら怯えている幼い妹を見詰めていた…。
「どうしたのじゃ?巽殿?……ん?…なんじゃ?このワッパ共は?…巽殿はこんなワッパと話しておったのか?」
「………と、藤吉郎様、お願いがあります!!…」




