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戦国時代の電気屋さん  作者: 朝風清涼
第2章 これが戦国時代なの?

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いざ!清洲城へ

「巽殿が~♪わしにお土産♪お土産~♪なんじゃろな~♪…楽しみじゃな~♪」


「歌うんじゃないよ!あんたは歌が下手なんだから!」


 確かに<おねちゃん>の御指摘通り、藤吉郎様には歌のレッスンが必要なほど聞くに堪えられないレベルの歌声だった…。


(今度はハンディカラオケでも持ってきてやるか…山の中で練習すれば誰にも迷惑がかからないだろうし…いや、森の動物達に被害が出るか……ぷっ、熊も逃げ出すかもな!)


「はい、藤吉郎様にはこれを……」


「…???…なんじゃ?この<墨>と同じ大きさの細長い物は?これを(すずり)に擦るのか?」


「あははは♪うちのリップよりも小さい~~!しょぼい~~♪」


「た、巽殿……こう言ってはなんだが…わ、わしはもっと「ドヒャーーッ!!」となる物を期待しておったのだが…まさか<赤い容器の墨>とは………とほほ…」


 今の藤吉郎様のお心を令和風で例えると、どうしても欲しい携帯ゲームの<SSRカード>を狙ってガチャの課金をしまくり、すでに来月分の小遣いまでも使い込んでしまい、挙句の果てに最後の1回抽選までも<ハズレ>だったような心境なのだろう。


「いえ、私は藤吉郎様のお土産はこれしかないと決めておりました!藤吉郎様?<台所番>の方達で一番御苦労されている事はなんですか?」


「ま、まずは献立じゃな……それに、野菜切りや…味付け…まぁその中でも<火(おこ)し>が手間取るの…」


「その<火熾し>を瞬時にしてくれるのが、その手にされている<ライター>という便利な物です!」


「は?このような小さき<墨>で?…火を?…」


「百聞は一見にしかず!私が火を点けてみましょう!」


 間違いなく相手が信長だったら「わしを舐めておるのか!」と刀を抜かれていただろうが、完全に俺を信頼してくれている藤吉郎様は何も言わずに<ライター>を手渡してくれた。


「いいですか?よく見ておいて下さい、まずこの水車のような丸い部分に親指の指腹を乗せて……」


 ♪シュッッッ!!…ポッ!!


「うお!墨から火が現れおった!!」


「わぁ~お!こりゃたまげたね~~♪」


「こ、これが<らいたー>なる火を点ける道具ですか!!」


「いやはや、それがあればおばちゃんの家事も楽になるんだけどねぇ~~…」


「ちゃんと、おばちゃんと<おねちゃん>の家の分も持って来てますから、後で差し上げます♪」


「あははは♪やたーーー!!」


 こうして俺は一人一人に<ライター講習会>を始め、木下ファミリー全員に100円ライターの使い方を伝授した。


「いやはや、やはり巽殿の道具は素晴らしき物であったな♪疑って悪かった…うひひ♪これで明日からの火熾しは楽になるわ!」


「しかし藤吉郎様、あまり人前では使用されませぬように…大騒ぎになるやも知れませんので…」


「分かっておる♪しかし、この<らいたー>も殿にお見せすれば大層お喜びになるのだが…やはり…」


「えぇ、まだお見せする事は控えておいた方が良いでしょう、いずれ時が来てからお出しになる方が藤吉郎様の信頼が益々上がると思いますので…」


「そうか、それもそうじゃの♪」


 俺からのお土産にテンションが上がってしまった木下ファミリーは中々睡魔が訪れず、結局全員が床に就いたのは深夜0時を回った頃だった…。



 [翌朝]



「ではの、おね、母ちゃん、小一郎!行って参る!」


「はい、兄上も御武運を!巽殿も気を付けて!」


「この<らいたー>で美味しい夕飯を用意しとくで、無事に帰って来るんだよ!」


「小一郎様、おばちゃん…行ってきます!!」


 俺は浩一の大事にしているリュックを背負い、改めて藤吉郎様と清洲城に向け歩き始めた!すでに信長からの主命も達成しており、一度面談も終わっていたからか、先日のような緊張感は無くなっていた。


<あ、たっちゃん!…たっちゃん!!>


 家の中から飛び出した<おねちゃん>が何やら小さい包みを持って駆け出して来た。


「なんでしょうか?」


「ほれ、これを持っていきな♪おにぎり!道中お腹が減っては商いの戦は出来ないだろ♪」


<おい、巽殿!わしは<朝げ>の確認をしなければならぬので、先に行っておるぞ!>


「はい、すぐに私も追いかけます!!」


「あ、あははは♪ただの塩おにぎりと漬物だけどね♪」


 しっかりと竹の皮と蔦の紐で包まれた<おねちゃん>特製のおにぎりを俺は受け取った。


「ありがとうございます、美味しくいただきますね!」


「う、うん……そ、それとね、たっちゃん………」


(な、何だかまたヤバそうな雰囲気が<おねちゃん>から出てるんですけど!…もう小一郎様もおばちゃんも家の中に入って行ったし…藤吉郎様はすでに50m先を歩いてる!)


「な、なんで…しょうか?…」


「う…うち……い、いつでも…いいからね❤」


「い!な、何の事でしょうか?」


「お、おなごの口から何度も言わせないで……ご、御褒美の事だよ…もう、たっちゃんのうつけ!」


「は……はは……そ、それはまた追々にって事で!……で、では行って参ります!!」


「た、たっちゃん………もう!………い、行ってらっしゃい…」


 俺は<おねちゃん>の瞳から溢れる色目を断ち切るかのように、竹の皮で包まれたおにぎりを両手に抱え藤吉郎様の元に駆け出した!そうでもしなければ絶対<おねちゃん>の色気に負けてしまうからだ!。


(ごめんなさい<おねちゃん>!俺の野望はこれから始まるんだ!ここで大きなミスをするわけにはいかないんだ!許して下さい…)


「はぁ、はぁ、お待たせしました…はぁ、はぁ、藤吉郎様…」


「おぉ、おねとの話は済んだのか?」


「はぁ~、はぁ~、こ…これを…道中に藤吉郎様と食べて欲しいと…」


「おにぎりか、しかし…それは巽殿一人で食べてくれ、わしは(くりや)で何かと味見をせねばならぬのでな…腹が膨らんで仕方ないのじゃ…」


「そうですか、では私が遠慮なく頂きます♪」


 互いの立場はどうあれ、俺は大学時代から全く貰った事がない女性からの<手作り弁当>に心が温かくなった…ついその影響で頭の中に<おねちゃん>の笑顔が浮かんだが、瞬時に背筋が冷たくなり、すぐ頭を左右に振り彼女の面影を消した。


「さぁて巽殿!殿の喜ぶ顔を拝みに行こうぞ!!」


「はい!」


 朝焼けに染まる田畑の遥か先に、ぼんやりと清洲城の天守閣が朝日に照らされていた。


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