藤吉郎と再会
家の外から藤吉郎様の声が聞こえ、リップの魅力でご機嫌になった<おねちゃん>はヒョイヒョイと可愛くスキップをしながら、藤吉郎様に自分の姿を見てもらおうと勝手口へと向かった。
「あははは~♪今日もここに来てるよ~~ん!!」
藤吉郎様は<おねちゃん>の声を聞くと、すぐに家の中へと入って来た!…のだが…。
「!!!……お!…おぉっ!!!…な、何と!!」
「ふふ~~ん♪気が付いたかい?…今日のうちは今朝までのうちとは……」
「た、巽殿----!!…」
「え?」
「た、巽殿!!…巽殿ではないか~~!!」
藤吉郎様はご機嫌で出迎えた<おねちゃん>よりも、先に目が入った俺に目掛けバタバタと慌てながら囲炉裏まで駆け寄って来た!!。
(藤吉郎様!!それ、綺麗にお化粧した女性の前では絶対やってはいけないやつーーーー!!!!)
「おぉ、巽殿!!これは夢ではあるまいな!も、もっとお主の顔をよ~く見せてくれ!!」
嬉しさを爆発させた藤吉郎様は、囲炉裏前で正座をし自分の両手を俺の頬に添えた!。
(その仕草と言葉!<おねちゃん>にもやってあげてーーーー!!)
「と、藤吉郎様…ほ、本物の<巽淳一>ですので……」
「ま、真なのだな?幽霊とかではないだろうな?」
いや!俺じゃなく(数分後、マジで藤吉郎様の方が幽霊になってしまうかも?)と思うほど、藤吉郎様の背中を見詰める<おねちゃん>からは素人の俺でも感じるくらい<怒りのおなごオーラ>がメラメラと漂っていた!。
「いやぁ~今日の茶は特に美味しいですなぁ~♪」
(げっ、小一郎様が藤吉郎夫婦を無視して逃げた!!)
「巽殿、わしはこの時が来るのを信じ、指折り数えて待っておった!うむ、正しく巽殿の顔じゃ♪おぉ、おぉ♪元気そうな良い顔をしておる~♪」
(た、頼むからそれ以上<顔>の事は喋らないでーーー!!)
「と、藤吉郎様…う、うし……うし……」
「ん?牛がどうかしたか?あぁ、こうしてこの時代に戻って来た褒美が欲しいのだな♪しかし、牛が所望とは…確かこの辺りで牛を飼ってるのは…茂作と……甚平……だが、譲ってくれるかどうか…」
「い、いえ!…う、後ろ!後ろ!!」
「どうした巽殿?だんだん顔色が悪くなってきておるではないか!せっかくのいい顔が台無しじゃぞ♪わははは♪わしは人の顔色を見るのが得意でな!瞬時にその者の考えも読めるのじゃ!」
(だったら嫁の顔色も見ろよ!!)
「さ…さて、兄上!……せ、拙者は少し水汲みに行って参りますので、しばし御免!」
(やっぱり小一郎様は逃げたーーー!!!)
小一郎様は素早くMy電卓を手にし、恐らく自分が勉強しているであろう座卓へ大事そうにその電卓を避難させると、そのまま<おねちゃん>とも目を合わさず家の外へと出て行った!。
(お、俺も逃げ出したい!!誰かこの場を治める人は…そうだ、おばちゃん!いや…まだおばちゃんは治療中だ!くそ、な、何かこのピンチを抜け出す方法は無いのか?相手はいきなりラリアットをかましてくるお方だぞ!!)
「にしても、わしは巽殿の顔を拝めてほんに嬉しいぞ♪台所奉行になったものの、殿から「<ぺんらいと>はどうなったか?」と言われる度にビクビクしておったのだ!」
「わ、私は…今、ビクビクしております……」
「なぜじゃ?友と再会したのにビクビクする事は無いであろうに……」
「い、いえ…藤吉郎様ではなく……な、何度も言うように……う、後ろ…」
<おい!表六玉!!>
藤吉郎様の後ろで応援団の団長のように腕組をしながらきつい目線で見下ろしている<おねちゃん>は、かぐや姫どころか般若のように俺は見えていた!。
「お、おぉ!おね♪今帰ったぞ!今日もここに居ったのだな♪いやぁ~、巽殿が戻っておってつい嬉しくてな♪これで木下家も助かる!良かった、良かった!」
「なぁ?うちを見て何も感じないのかい?」
何やら藤吉郎様も<おねちゃん>のただならぬ雰囲気に気が付いたのか、すぐ床から立ち上がり後ろに居た<おねちゃん>の姿を眺める!。
「ん?…おねを見て?……お、おぉっ!何やら口の血色が良いように見える!」
「ふふん♪表六玉でも、やっとうちの変わりように気が付いたみたいだね♪」
「おぉ、これはやはり昨夜に食した<里芋の煮付け>が良かったのだろうな♪元気そうな唇の色をしておる♪おなごは元気が何よりだからな、今日の<おね>はとても元気そうじゃ!うんうん♪」
(そ、そろそろ…俺も…逃げる準備をした方が良さそうだ……)
「う、うちは!……うちは!………うちはいつでも元気だっちゅうのーーーーー!!!」
「うぎゃっ!!」
♪ドタン!!!
一瞬で<おねちゃん>は藤吉郎様の右腕を掴むと、これはこれは見事な<一本背負い>を決めた!。
「と、藤吉郎様!大丈夫ですか?」
「い、いつつ……今日の<おね>は一段と機嫌が悪いの~~…せっかく巽殿が戻って来ためでたい日なのに……巽殿?…<おね>はずっと巽殿にもこのような態度を?……」
「い、いえ……藤吉郎様が帰って来るまでは…それはもうご機嫌でしたが……あ、あの?…今日の<おねちゃん>は……未来の紅を付けておられます……」
「な、なんと!!…し、しくったのぉ~~…」
俺はそっと藤吉郎様の耳元で囁き事実を伝えたが、あの状態になった<おねちゃん>の機嫌を元に戻すのはかなり骨が折れそうだと感じている。
(この事態…将来何十万人の兵士を率いる天下人の采配と器量が今から分かる!相手は<おねちゃん>一人だしな、きっとあの<豊臣秀吉>ならいとも簡単に切り抜けるはず…)
「おね!お客人の巽殿の前で一家の主を投げ飛ばすとは!」
「だから何だって言うんだい!!」
(さぁ、藤吉郎様!ここで一発<おねちゃん>に<太閤秀吉>の度量を見せてやってください!)
「お、おね!…おねよ!!………ど、どうか許してください……気が付かなくてごめんなさい…」
「はぁ?…と、藤吉郎様?……」
<おねちゃん>の見事な<一本背負い>と、将来の天下人様による見事な<土下座>を目の当たりにした俺は、ただ口をポカンと開け眺めるしかなかった…。
「ふん!どうせうちよりも城中の美しい腰元達に見惚れていたんだろう?」
「それは断じてあり得ん!…いや、ありません……」
この姿…持って来た携帯で写真を撮り(関白まで出世した豊臣秀吉にいずれ見せてやりたい!)と、つい俺は思ってしまった。
「どうだか、台所奉行って事は厨番の事だろ?しょっちゅうおなごも出入りする場所だ!中にはあんた好みのおなごも居るだろうしね!」
「そ、その様な事は誓って無い!…いえ、あ、ありません…」
「まぁ今日の所はたっちゃんの顔に免じてここまでにしといてあげるけど、もっと人の見る目を養いな!何が「わしは人の顔色を見るのが得意じゃ」だ!笑わすんじゃないよ!」
「ご、ごもっともでございます……」
やはり未来の安全の為、彼女には胡麻を擂りまくり俺の保険になってもらおうと改めて心に誓った!。
「ほれ、これがたっちゃんが未来から持って来てくれた<リップ>という紅だ♪」
「ほう、何やら小さい<ぺんらいと>にも似ておるが……」
まだ藤吉郎様は従順に板の間で正座をしながら<おねちゃん>から差し出されたリップを眺めている。
「でね、まずこの長い方の筒を外して……次に下の筒を回すと……」
「お、おぉ!白い筒から小指のような物が出てきおった!!何たる鮮やかな色じゃ!!」
「へへん♪で、この出て来た指先を……うちの唇に………」
「おぉ~~、何たる事じゃ!<おね>唇がキラキラと輝いておる!わしが元気そうに見えたのはこの紅のお陰じゃったのか~!な、なぁ<おね>!…ち、ちくとわしの唇にもその<リップ>とやらを塗ってくれまいか!わしも元気そうに見られたいのでな♪」
(げっ、関白様ってオネェ趣味があったのか?)
「スカタン、これはおなごの化粧道具だと言っただろ!何処の侍が唇に紅を塗って町を歩く馬鹿が居るんだい?」
「そ、それもそうじゃの……いや、つい未来の道具だと聞いて舞い上がってしもうた……そうか、どうりでいつもより<おね>はベッピンだと思った!」
「ふん!今さら褒めても遅いよ!!」
「そ、それはすまぬ事をしてしもうた…しかし、その<リップ>とやら…殿の奥方であらせられる<胡蝶>様…いや、うら若き妹君の<お市>様に献上すれば殿もさぞ…」
「ダメだよ!これはたっちゃんがうちの為に未来から持って来てくれたんだから!!」
ツン!と唇を尖らせ<おねちゃん>は素早く袖の中へリップを隠してしまった。




