行って来る!!
ガキの頃、母親と百貨店に来た時に感じたあの独特な化粧品売場の香りが俺の鼻を刺激する!初めて化粧品を買いに来た俺は、どの店を選べばいいか全く分からないままこのフロアを徘徊していた。
(うぅ、このエリアに男は俺だけ……何となく人の視線を敏感に感じてしまうのは戦国時代に植え付けられたトラウマなのか?)
ジワジワとこのエリアの重圧に耐えられなくなってきた俺は、すぐ目の前にあった某有名ブランドのブース前に立った!。
「いらっしゃいませ、何をお探しですか?お客様…」
さすが有名ブランド店の店員さん!綺麗に髪を後ろに纏め、小顔にバッチリ化粧をし、首元にはピンクのスカーフを巻いているが、さりげなく自社ブランドのロゴを見せている所が憎い演出だ!無論、制服も自社ブランドで間違いはないだろう!。
「あ、あの…プレゼントで…口紅を…探しているのですが…」
「彼女さんですか?それとも奥様?年齢によって色の好みがありますので♪でも、お客様の雰囲気ですと彼女さんでしょうか?」
「ま、まぁそうですね!」
(人妻なんですが…)
「よろしければ、どの様な雰囲気のお方か教えていただければ色のイメージが出来るのですが…よろしいですか?」
「はい、髪は黒で背中まで伸ばしていて…顔立ちは古風な日本女性的な美人顔……えぇっと……あ、かぐや姫みたいなイメージです!ただ…性格はパリピみたいな……」
「なるほど、パリピなかぐや姫ですね?……畏まりました、ではこのサーモンピンクのリップなんていかがでしょうか?長い黒髪にピンクのリップが映えると思いますし、彼女さんの性格にもマッチしているのではないかと?」
「あぁ、そうですね♪イメージにピッタリですよ!じゃ、そのリップをください!」
「ありがとうございます、プレゼント用なので包装紙におリボンをお付けいたしましょうか?」
「お願いします♪」
これで保険の御機嫌取りも大丈夫だろう!後は自分用の非常食アイテムだが、適当に缶詰とドリンク類、スナック菓子があれば何とか事足りるし、それに水だって今の時代に比べれば余裕で小川の水も飲める!。
(とりあえず念の為水筒も用意しておくか…)
こうして俺は一通りのアイテムを購入し浩一の待つ倉庫に戻った。
「すまん、浩一!少し時間がかかった!」
「こっちは全部終わってるぞ、後はお前がバンジーするだけだ♪命綱ナシの♪」
「い、嫌な事言うなよ…」
俺はモールで購入してきたアイテム達をビニール袋に入れ、その袋を厳重にガムテープで梱包し、いよいよ後はあの戦国時代へ戻るのみとなった!。
「で、浩一?俺は何処から飛び降りたらいいと思う?…やはり住之江区にある南港の連絡橋か?それとも淀川大橋?…でも、高さがかなりあるよな…ちょっと怖いな…」
「アホ、そんな車の往来が激しい橋でお前が飛び降りたら大騒ぎになるわ!ちゃんともう俺が準備してある!着いて来い!」
浩一は荷物を手にすると倉庫を出て行く、俺は何処に浩一が向かうのか理解出来ないままずっと後ろを追いかける。
「なぁ?浩一?倉庫の横側に移動してどうするつもりだ?」
「決まってんだろ、この倉庫の屋根からお前が飛び降りるんだよ!」
「えっ!!」
「心配すんな!万が一の為、下には潰していない段ボール箱を大量に積み上げておいた♪失敗しても軽い骨折か打撲で済むだろう♪」
「あ、あのな…」
「ん?じゃぁ淀川大橋からバンジーするか?」
「いや、ここの方が…いいです……」
「よし、なら今から脚立をかけてやるから、先に上ってくれ!俺もすぐに荷物を担いで続くから!」
「お……おう……」
仕事柄、屋根に上るのは慣れている!が、問題はその後だ……俺は自分の荷物を入れたバッグを肩にかけると脚立を上り屋根の上で浩一が登ってくるの待った。
(ここまでは難なく出来た……けど…成功すると分かっていても…やっぱ…ビビるよな……この次の行動が行動なだけに…)
屋根の上で俺は一人令和の夜風を感じていたのだが、浩一はまだ屋根に上っては来なかった…。
(おかしいな、あいつ何してんだろ?)
このキラキラネオンの夜景も暫く拝めないと思うと、少しノスタルジックな気分になりながら、俺は浩一の到着を待っていた。
「よっこらせ!…すまん、ちょっと道具を追加していてな!」
屋根に上ってきた浩一は背中に古びた登山用のリュックを背負っていた。
「浩一、それ…お前が大学時代に使っていた登山リュックだろ?」
俺と浩一は親友ではあったが大学は別々で彼は電気工学を専攻し、その時に入部した登山部で今の嫁さんと知り合ったのだ。
「あぁ、これは嫁さんとの思い出のリュックだからな、捨てるのが忍び難くて…でも、今の家じゃ狭くて保管出来なかったから、ここの倉庫を借りていたんだよ!」
「そうだったのか…」
「これなら全部の手荷物が入るだろ?それと、電工ベルトのポケットに工事部材も少し追加しておいた!後、俺がいつも使っている常備薬と救急セットもな!」
「すまないな、この借りはまた小判で返すよ!1千両くらいでいいか?」
「ははは♪宝くじよりも現実味があるな!楽しみにしておくよ♪」
「おう!」
「…暫く会えないな………いいか、絶対に死ぬなよ!!…何が何でも木下藤吉郎を太閤秀吉にさせてみろよ!…」
「分かってる、けど…ほんの4、5日でまた会うと思うけど…」
「は?」
「俺、一人病室で考えていたんだが、この時代の時間と戦国時代の時間にはかなりタイムラグがあって、この時代の30分は戦国時代の一日なんだ!だから、またすぐに会えるよ♪」
「なんだ…せっかく脚立を上りながら考えたセリフだったのに!でもな、死ぬなよ…淳一…」
「おう、色々ありがとな!浩一!!会社は任せる!!」
俺は浩一と奥さんの思い出の品でもあるリュックを背負うと屋根の端へと歩き出した。
(浩一、俺と豊臣秀吉が絶対お前の夢でもあるマイホームを建てさせてやるからな!待ってろよ!)
「じゃぁな!…浩一!!行って来る!!」
「あぁ、戦国時代を引っ掻き回してやれ!淳一!!」
「おうよ!!」
俺は躊躇する事無く倉庫の屋根から飛び降りた!そう、俺はこの瞬間から<戦国時代の電気屋>になったのである!。




