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戦国時代の電気屋さん  作者: 朝風清涼
第5章 桶狭間

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頼むぞ浩一!

 降り出した雨の中、信長様は小一郎様の元に赴きパソコンの画面を覗き込んでいる、すでに小一郎様が操るパソコンには、令和の時代でインストールしておいた[桶狭間一帯の地図]を、更に京都の町のように碁盤状に線引きをし、各部隊の位置を細かく把握するMGRS(Military Grid Reference System)の方式を利用し、座標も各部隊が移動するたびに表示するよう小一郎様がバージョンアップさせていた。


「ほう、まるで京の町のような図じゃの…で、この赤い三角が義元の陣か?…」


「はい、そうでございます、殿(との)…今は山頂にある義元の陣に動きはありません!この雨を利用し、我が軍は徐々に桶狭間山へ進軍している所でございます!」


「この青三角の事じゃな!」


「御意…」


 信長様がすぐ横に居れば小一郎様も各部隊に指示を伝えやすいだろう…そして俺は、絶好のタイミングで浩一にGOサインを出す為、気圧計の数値をずっと見詰めていた。

 気圧計の表示はまだ低い、もうしばらくはこの雨が続きそうだ!…それまでに油断している今川軍へと各部隊が近付き奇襲をかけなければ万事休すとなる…。


(まだ雲が厚い…山頂からは我が軍の動きは見えていないはず…それまでに所定の位置まで移動を済ませてくれよ…)


 甲冑を叩く無数の雨が(とき)の経つのを遅らせているような錯覚を与えてくる…この陣幕内は雨音以外、小一郎様のキーボードを叩く音しか聞こえなかった…。


(藤吉郎様もこの雨の中、濡れながら進軍しているはず…どうか、御無事で…)


 降りしきる雨の匂いを感じながら、俺はじっと気圧計を見詰め、小一郎様の報告を待ち続ける…恐らく彼の声が響くと同時に、信長様より攻撃命令が発せられるはず…そう、人が傷付き命を落とす時間の始まりだ…。


(無理な希望だとは分かっているけど、早々に今川義元が負けを認め投降してくれれば犠牲者の数も少なくて済むが、そんな事は夢物語だよな…)


殿(との)!…各隊、予定の場所に到着した模様!」


「あい分かった!…巽!」


「はっ!」


 俺は気圧計を握り締めたまま、浩一の元へと歩き始める、いよいよ今川義元の命のカウントダウンが始まろうとしていた。


「…浩一、ドローンのスタンバイは完了してるか?」


「いつでも飛ばせるぜ!」


「…分かった……ここから桶狭間山の位置はあの高い杉の木の先にある…それを目指して飛ばしてくれ、その後は小一郎様と連携し今川本陣と義元を見付けて欲しい!」


「お安い御用だ♪」


 浩一は陣幕の外に隠していたドローンを幕内へ持ち込み、本体の電源を入れた。

 ドローンマスターの浩一の事だ、すでに準備は完璧に終えているはず!。


「藤本殿(どの)、ドローンのプロポとパソコンのオンライン接続完了しております!」


 小一郎様のパソコンがドローンのカメラと連携し画面が変わる…信長様は子供がお気に入りのおもちゃを見つけた時のような視線で画面を見詰め始めた!。


「ありがとうございます、小一郎様!…さて、信長様!…始めますか!…私が合図を出した時に各隊へ号令を出して下さい!」


「う、うむ…藤本、はよう[どろーん]とやらを飛ばしてみせよ!」


「畏まりました、では!」


 ♪シュイィィィィィィィーーーーーーーーーーーン!


 ゆっくりとファルコンが宙に浮き始める、これだけでも俺と浩一の操縦テクが違う事を思い知らされる、俺の場合はユラユラと揺れながら浮き上がるのだが、浩一が操縦すると風船のように真っ直ぐ綺麗に浮かび上がり、常に機体は安定しているのだ。


「よし、全て異常なしだ…小一郎様、そちらの画面にファルコンからの映像が届いていますか?」


「大丈夫です、上空からの映像がはっきり映っております!」


「な、なんと!…これがあの[どろーん]から届いておる空からの風景か!…み、見事じゃ!」


 こう言っては信長様に失礼かも知れないが、画面を嬉しそうに覗き込む彼の姿は、初めてエッチなビデオを観賞した思春期の少年のように見えていた。


「さて、そろそろ義元の居場所を探りに行きますか♪…淳一、方向は間違っていないよな?」


「あぁ、ちゃんとファルコンは方位磁石が示している方向に向いている!」


「了解した、信長様、小一郎様、これからしばらくの間、画面を見るのは止めておいた(ほう)がいいですよ、画面の動きで酔うかも知れませんので!」


「何を言う藤本、このような面白き事、眼を背ける事など出来ぬわ♪」


「せ、拙者は……藤本殿(どの)の合図が出るまで…暫く遠慮しておきまする…」


「分かりました、では…始めます!」


 モーターを唸らせファルコンは一気に上空へと舞い上がる!浩一が選んだ高性能ドローンだ、どんな状況でも対応出来る機能は揃っている、それに完璧な操縦技術…もはやこれで義元の逃げ場は絶たれたのと同じ…。


「淳一、まず限界高度まで上げてからファルコンを桶狭間山に飛ばす!…雨雲が去るのは後どのくらいだ?」


「気圧計が上がり始めている、後30分前後だろう!」


「分かった!信長様、ファルコンが桶狭間山の上空に到着次第、総攻撃の御命令を!」


「あい分かった!頼むぞ、藤本!」


「御意!」


 俺は浩一の横に付き、プロポのモニターを一緒に見詰める…煙のような雲の中を進むファルコン、高速で通り過ぎていく木々、今から織田軍の運命はこのファルコンの性能と浩一の腕にかかっている。


「さてさて、時間的には桶狭間山の山頂辺りだと思うので……ちょっち高度を下げてみますか…」


 雨雲を掻き分けるようにファルコンはゆっくりと高度を下げていく…。

 俺自身、今川の本陣を見つけるまでには少々時間がかかると思っていたのだが、山頂すぐ手前にある岩壁に囲まれた本陣をファルコンはすぐに見つける事が出来た!。


「ビンゴ!…信長様、今川本陣を発見!…本陣は岩壁に囲まれた所!…小一郎様、すぐにファルコンから送られてきた座標で目標の場所を洗い出し、各部隊に連絡してください!」


「畏まりました!」


 俺の出る幕は無さそうだ、浩一はじっと上空から今川本陣を監視中、小一郎様はすでに全軍へ義元の居場所を伝え終えた…後は、チェックメイトの号令を発するだけである!。


「巽よ、そちのトランシーバーを貸せ!」


「はっ!」


「皆の者、よく聞け!…信長である!…これより狙うは義元の首ただ1つ!…祝いの宴はすでに整っておる!…今宵は大いに飲もうぞ!…全軍、ただちに今川本陣へ斬り込め!」


 信長様の号令と共に、桶狭間山の方向から勇ましい男たちの声がここまで響き渡った!。


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