元祖傾奇者!
あの派手な男が前田利家、将来藤吉郎様から[傾奇御免状]を頂く甥っ子さんと同じくらい目立っている!。
もしかして、天下御免の傾奇者と言われたあの甥っ子さんはこの人を真似たのかも知れないと思ってしまうほどだ。
「あ、申し遅れました、私…木下藤吉郎様にお世話になっております巽淳一と申します…」
「おう、よろしくな!…しかしよ、まだ信じられないな…あの無表情で無愛想な楓が、お前さんの前じゃ仔猫のように可愛くなりやがって!…人を斬っても顔色すら変えなかったあいつが…お前さん、何か秘術でも会得してるのか?」
「そ、そんなのありません…と、ところで…前田様は…どの辺りから見ておられたのですか?…」
「ん?…あの[鬼神]がお前さんに抱き付いたところからかな♪…いや~♪あいつ、本当に純なおなごのようだったな~♪」
「えっ!!そ、そこから…」
確か楓さんは欄丸様に頼み人払いをしてもらったと言っていたけど…この人、どうやって欄丸様の目を掻い潜ったのだろうか?…。
それに、どこで楓さんの存在に気が付いたのかも謎である。
「おう♪…しかしな、どう見てもお前さんは他の武将より見劣りしてるんだが…あいつの好みがよく分からん…出来れば兄役の俺としては、欄丸がお似合いだと思ってたんだが…」
「は…はぁ…」
「ま、いずれにせよ、あの楓がおなごの心を持ったのだ♪…これは喜ばしい事だぜ!…ようやく俺の肩の荷が下りるってもんだ♪あははは~~!」
(いやいや、あの前田利家が俺と楓さんの関係に絡んだ事で、当人は楽になったかも知れないが、俺としては更に肩の荷が増えたんですけど…)
「とりあえず巽!しっかりと楓の心を包んでやれや!…ただ、浮気したら痛いと思う間もなく斬られると思うがな♪…あははは~!あいつ怒れば何するか分からんしぃ~♪」
(…でしょうね…)
「と、ところで…どうやって前田様はここに?」
「え?…俺があんな畏まって隊の整列なんて参加出来るかよ!…だからその前にそこの岩の陰に隠れて休んでたんだよ、そしたらいつの間にか楓が現れてよ、よそよそしながらあの木の下でお前さんを待ち始めていたってわけさ♪…あんな可愛い姿のあいつを見たのも初めてだったなぁ~♪」
(なるほど、そういう事ね…所謂さぼりか…)
これも異世界の前田利家だからなのかは分からないが、俺のイメージだともっと気難しい人かと想像していた…しかし、楓さんが絡んでいたからか、とても気さくで話し易い人だった。
いずれこの人も豊臣家の重臣となるはずだが、今の風貌では全くそれが考えられないほどド派手な人だった。
(確か豊臣秀吉も派手好きだったらしい…それにお互い意気投合したのかな?…ま、現在の藤吉郎様では想像も出来ないけど…)
「さて、そろそろ今川と一戦交えにいきますかね!…巽、楓を頼むな♪…あれでも俺は妹のように面倒見てきたから、あいつを一人のおなごとして見てやってくれ…」
「は…はい!」
「じゃぁな、死んで楓を泣かすんじゃねぇぞ!」
長い朱槍を肩に乗せ、堂々とこの場を去る彼は、戦に赴く恐怖心など微塵も出さず、正に[槍の又左]その者だった…俺を含め、460年後の男達を彼らが見たらどう思うのだろう…。
(俺も頑張らないとな……まずはチキン野郎から脱却しなきゃ…)
気合を入れたものの、これから前途多難な女性問題が待ち構えていると思うと背中が冷たくなるが、今は無事に明日を迎えられるよう気持ちを切り替えるしかない!。
これから数時間後、この異世界の歴史の神から審判が下りるのだから…。
(織田軍壊滅で俺達は討ち死に…もしくは捕縛され死罪となるか…それとも…清洲城で祝宴となるか…もはや、やれる事を全力でするしかない!)
「…頼むぞ、松風…お前の勇気を俺に少しだけ貸してくれ…」
俺は行軍中の列の横を松風と共に駆け抜けていく!。
織田信長に勝利をもたらす為に!。
「遅れて申し訳ございません、信長様!」
「うむ、しかと楓に見送ってもらったか?」
「はい!」
「なら、早く[とらんしーばー]を用意いたせ!」
「はっ!」
俺が懐からトランシーバーを取り出しているうちに、信長様はすでに右手でトランシーバーを持ち、放っておいた物見からの報告を聞いていた。
[ザ、ザザ…こちら物見の茂介…先ほど、今川軍勢が沓掛城を落とし、更に進軍中!]
「あい分かった!…そのまま今川の動きの報告を絶やすでないぞ!」
[ははっ!]
「ふふ、わはははは!…巽よ、この[とらんしーばー]なかなかよいではないか!…今川の動きが手に取るよう分かりよるわ♪」
「有り難きお褒めのお言葉…」
「して、巽!未来から来た貴様なら、わしがこれから何処に向かうか、すでに読んでおろう?」
「はい、織田軍が布陣する場所…それは、善照寺砦!」
「ほう、いかにも!その通りじゃ、さすがは巽じゃの!」
完全に今回の戦いが勝利で終ると信じている信長様は、鼻歌混じりで愛馬の背に乗りトランシーバーを眺めていた…そんな姿を見ている俺は、どうか織田軍が俺達の知る歴史の通りに勝利する事を、この世界の歴史を司る神に祈っていた。
「信長様、それはあくまで擬態ですね?」
「ほう、藤本もわしの考えが読めるようじゃの!まぁ見ておれ、藤本よ、貴様も存分に励むがよいぞ!」
「ははっ!」
これから俺達が向かう善照寺砦こそがこの戦いにおいて大きなキーとなる!。
信長様の思惑通りになれば完全に織田軍有利…後は、今川軍がどう動いてくれるかだ…。
(山頂から望む景色を眺め、人生最後の天下取りを夢見てくれ!今川義元!)




