よっ!色男!
楓さんは潤んだ瞳で俺を見詰めていた、鈍感野郎の卒業学科試験はクリアした俺だ、彼女の気持ちは少なからず理解は出来ている…しかし、どうしてもおねちゃんの呪縛が背中から被さり、このナイーブな心にブレーキがかかってしまうのだ…。
「主…御武運を……楓はもう、おね殿には負けません!」
「えっ、でも…一度勝ったんじゃ……」
「け、剣術ではございません…そ、その…お、おなご同士の戦いです…楓は令和の時代に行ってから気が付きました…おね殿は、藤吉郎様よりも主を好いておるのだと…」
「いっっ!」
ま、まだ戦前だというのに、俺の心臓は凍てつき崩壊しそうになり始める!。
楓さんは、すでにおねちゃんの気持ちをあの令和ツアーで分かっていたのだ!。
「ど、どうしてそんな事が分かったの?…」
「……はっきりと、おね殿から言われました…主との買い物を邪魔するなと…あの時、主はおね殿と腕を組み買い物をされていましたよね?」
「あ、あれは…その…おねちゃんが無理やり……」
「楓は、買い物をする主達の姿を上の階から見ておりました…心臓がもやもやし、なんとも言えない悔しい気持ちになり……いつしか…楓の頬に涙が流れていました…」
「…楓さん…」
「そんな姿を姉様に見られてしまい……それが…おなごの恋というものだと…教えていただきました…」
そういえば、あの令和ツアーからおねちゃんと彼女の関係がギクシャクしていると思っていた…その原因が俺だったなんて…やはり俺は[超]が付くほど鈍感野郎だった…。
(結局…俺だけが楓さんの気持ちに気が付いていなかったのか…)
「ご、ごめん…俺、全然楓さんの気持ちに気が付かなくて…」
甲冑を着ているので彼女の温もりを感じる事は出来ないが、髪から漂う甘いリンスの香りがより俺の心に彼女を意地らしく思わせる。
「いえ…もう過ぎた事です……だって…今は…」
ハグしている楓さんの右手がそっと上がり、俺の頬に添えた…そんな彼女の潤んだ瞳に俺自身も引き寄せられていく…。
「こうして…主と………」
また彼女の唇が俺の唇に迫ってくる!正直、おねちゃんの存在は恐ろしい…でも、これほど純粋な気持ちを出してくれた楓さんに、俺はこれまで知る事が無かった男のやすらぎを感じていた…。
「楓…さん…」
「主…楓の心は……いつも主の側に…ございます……チュッ!」
2度も女性からキスをされた俺は、何とも男として情けない限りだった…本来は格好良く俺から楓さんを抱き締め唇を奪うのが正解なのだが、どうしてもおねちゃんのお怒り姿が脳裏から離れず、ついチキン野郎になってしまうのだ…。
「ぁ…楓さん…」
「あ…主…楓は…おね殿に主を渡したくはありません…あの方には藤吉郎様が居られます…でも…楓は…独り身…それに、まだ綺麗な身体でございます…」
「え、あ…あの…楓さん?…」
「あ…そ、そろそろ出立しなければなりませんね………」
「は?…」
10秒ほど俺とキスを交わした楓さんは、自分の身体を俺から離すと優しく微笑んだ。
(か、可愛い!…あの冷酷なサイボーグだった楓さんが…こんなに…)
「あ…主…い、いつか……楓を…貰ってくださいね…で、では…し、失礼いたします!」
「あ、ちょっと!」
顔を赤らめ、いそいそとこの場から楓さんは消えて行った…さっきの彼女の重大発言!男には[2種類の意味]が浮かぶ事を彼女は到底知る余地もないだろう…ちなみに俺もどっちなのか分からないが…。
(いずれにせよ…これで俺は、真剣におねちゃんと楓さんの事を考えなきゃならなくなったんだよな…どっちも怒らせたら怖い女性の事を……い、いかん!今は戦の事だけに集中しなければ!この件は落ち着いたら浩一と瞳ちゃんに相談しよう!)
俺は腕組をしながら松風の待つ場所に向かっていると、一人の武将が俺を呼び止めた!。
「よっ!そこの色男!…お前だよ、お前!」
「え?…わ、私ですか?」
「他に誰が居るってんだよ!」
声が聞こえる方向に視線を向けると、そこにはまだ俺よりも身長が高い武将が腕組をし、鳥居にもたれながら俺を見ていた…。
「わ、私に何か御用でしょうか?…」
「いやな、あの[鬼神]と言われている楓が惚れた男ってのはどんな奴なのか見てみたくてよ、俺も軍列から離れてここに居残りしてたわけよ♪」
「えっ…」
高身長もさることながら、この男は何とも派手な甲冑を身に纏っている…こんな姿で戦場に出れば格好の標的になると思うのだが、単なる目立ちたがりなのか、それともかなり腕に自信があるのだろうか?…いずれにせよ喧嘩を売られたら俺なんか一溜まりも無いほど強そうだ!。
「ほぉ~、どう観察しても武勇があるようには見えんな……小便小僧の初陣とたいして変わらん姿だが…一体楓はお前のどこに惚れたんだ?…」
(失礼な奴だなぁ~…でも、絶対向こうの方が強そうだし…愛想笑いでもしておくか…)
「さ、さぁ…どこなんでしょうね…は、はは…」
「まぁ…昔から楓は変な趣向があったのは確かだが、これほどとは…どんな猛者か期待していただけに、何だか減滅しちまったぜ!」
(本来怒っていい場面だとは思う…しかし、ここで揉め事を起こしてしまっては、全てが台無しになってしまう…と、思って我慢に徹しよう…貧乏人喧嘩せずだ…)
「あ、あの…ところで…どちら様でしょうか?…」
「お、おぉ…悪りぃな、俺は前田犬千代……まぁそんなのはどうでもいいや、俺は楓がガキの頃から見守っててな、兄のような存在だ!先代には色々世話やら借りがあってよ、あいつが大和飛燕流の伝承者になるまで面倒みてたんだよ♪」
(前田犬千代?……て、いずれあの加賀100万石の大名になるあの前田利家か!)




