鼓舞
「森可成隊、ただいま到着!」
「池田恒興隊、ただいま到着いたしました!」
堂々と正殿の前で立つ信長様に次々と到着してくる重臣達が報告している姿を、俺達3人トリオは信長様より10メートル以上離れた所から並んで見学していた。
「淳一、まるで映画の撮影風景のようだな…」
「それならかなり気が楽だよ…これは、ガチの戦なんだから…」
各軍団が信長様の立つ正殿の前に整列していく!その光景は、浩一が言った通り映画のワンシーンを観ているような錯覚をしてしまうほど圧巻だった…。
「わ、私が合戦に参加出来るなんて…か、感無量です……」
「小一郎様…」
全軍整列が終り、この熱田神宮に静粛な空気が流れた…俺達に聞こえるのは風に揺れる織田軍の軍旗の音だけだ!。
「巽!アレを持て!」
「ははっ!」
信長様の言いつけ通り、俺は登山用のリュックから拡声器を取り出し、控えながらその拡声器を信長様に手渡した。
「んッ!!…あ、あ…わしの声が後ろの者まで聞こえておるか!…聞こえていたなら軍旗を振れ!」
甲冑姿で拡声器を持つ信長様…どう見ても映画の撮影中にしか見えない…しかし、これから本当に血が流れる戦が始まるのだ!。
「うむ、聞こえておるようじゃな!皆の者、よう集まった、大儀である!…これより、我らは今川義元を成敗する為、この熱田神宮にて必勝祈願をいたす!」
「ははっ!」(軍団一同)
こうして俺達織田軍一同は信長様に合わせ正殿に向けて頭を深々と下げ必勝の祈願をするのと同時に、無数の白鳩が正殿の裏から大空に向かい飛び立った!。
「おぉっ!見よ、皆の者!…神が我等の願いを聞き入れてくれたぞ!」
(いい仕事ですよ、楓さん…欄丸様…信長様がお二人を信頼されているのがよく分かります…)
「おぉ~~…」(織田軍一同)
「神が我が軍に味方した証ぞ!…これで今川義元など恐れるに足らぬ!…よいか、今、ここに居る猛者達は、すでに一番手柄である!」
「おぉ~~…い、一番手柄…」(織田軍一同)
「よいか!他の武将に目もくれるな、狙うはただ1つ、今川義元の首じゃ!…織田家はこの戦に参加した全ての者を、未来永劫に称えると、わしはこの熱田神宮の神に誓う!」
「おぉっーーーーーーー!!おぉっーーーーーーー!!…」(織田軍一同)
(す、すげ!一気に盛り上がった…)
これが歴史に名を残す男の姿なのだと、俺は鳥肌が立つほど心底感じていた…時間にしてわずか5分も経っていない…なのに、今の織田軍は完全に一つとなり熱い士気が高まったのだ!。
(やはり…すげ~な…織田信長…)
「皆の者、出陣じゃ!!」
「おぉっーーーーーーー!!」(織田軍一同)
「…これも、あなたの策ですかな?…巽殿…」
いきなり誰かが俺に声をかけてきた!。
その声の方向に顔を向けると、そこには森様が立っていた!。
「も、森様…い、いえ…私は信長様に拡声器を渡しただけでございます…それ以外の事は何も…」
「そうか、しかし…貴殿も織田家の家臣なら、信長様ではなく殿とお呼びしたほうがよろしかろう!」
「も、申し訳ございません、以後…気をつけます…」
「それとじゃ、柴田殿から伝言があってな、此度の戦は、諸事情で柴田殿は参戦出来ぬらしく「巽から貰った[ワンワンシャンプー]がもう半分しかないので、また仕入れておいてくれ…」との事じゃ…まぁ何の事じゃか拙者には分からぬが、しかと伝えたぞ!」
「は?……は、はい!承りました…」
「巽殿……気をつけろよ……いくら陣幕内に居るとはいえ、気を緩めるな…今川の間者がどこで狙っておるか分からぬ…流れ矢などで命を落とすでないぞ…お、おほん!…実は…こ、これも柴田殿からの伝言じゃ…ま、拙者も柴田殿と同じ気持ちじゃ…父として、欄丸の友人を亡くしたくはないのでな…」
「は、はい!…森様…ありがとうございます!」
(柴田様♪…)
お市様のお陰もあるが、俺にとっての一番手柄はトイプードルの[小雪]だ♪…あの小さな体で、勇猛果敢な柴田勝家を骨抜きにしてくれたのだから♪…今度はジャーキーとカミカミガムを買ってきてあげようと、俺は熱田神宮の神様に誓った❤。
「あ、巽殿、ここに居ましたか!」
「どうしましたか?欄丸様?…今、欄丸様のお父上と…」
「えぇ、私も先ほど父にお会いいたしました…それよりも、楓姉さんが正殿の裏でお待ちですよ♪」
「えっ!…で、でも…わ、私はこれから信長…いえ、殿と一緒に…」
「構わぬ!…巽、楓に会ってやれ!」
「と、殿!…」
いつしか兵士達を鼓舞し終えた信長様が俺の後ろにやって来ていた!。
「貴様から殿と呼ばれるのはこそばゆいわ!…いつも通りでよい!…わしが許す、楓に会ってやれ!…後からでも貴様の愛馬ならすぐ我らに追いつけよう…」
「の、信長様…」
「行け!おなごを待たすとは武士にあらず!…さっさと行かぬか!」
「は、はい!」
俺は急いで楓さんの待つ正殿の裏へと走り出した、何故だろう?…この裏で彼女が待っていてくれると思うだけで、胸が温かく締め付けられそうになっていく!。
(ど、何処だ?…どこに楓さんは…)
正殿を囲む塀を左に曲がると、大きな松ノ木の下で楓さんは静かに俺を待っていた…。
(か、楓さん…)
俺が来た事に気が付いた彼女は少しだけ申し訳無さそうにしながらも、俺を見詰めそっと微笑んでくれた。
「楓…さん…」
「主…」
まるで磁石のように俺と彼女は引き寄せ合っていく…まだ俺の言葉を裏切ってしまった気持ちがあるのか、彼女が歩む一歩一歩はかなり躊躇しているようだった。
「も、申し訳ありません…主の言葉に背いてしまって…」
「そんな事を気にしなくていいよ…楓さんと欄丸様のお陰で、織田軍は一丸となったんだから♪むしろ、感謝してるよ♪」
「ぁ…あぁ…主……う、嬉しい!」
「えっ!」
楓さんはいきなり俺に飛びつくと、しっかりと両手で俺を抱き締めた!。
あまりに急な出来事で俺は何も出来なくなり、ただ辺りを見渡すしかなかった…。
「か、楓さん……だ、誰かが来たら……」
「あぁ、だ…大丈夫です…ちゃんと欄丸が人払いをしてくれましたから……」
「え?…」
俺をハグする彼女の髪からは、令和の時代で買った爽やかなリンスの香りが流れてくる…。
俺はそっと視線を下げると、そこには頬を赤らめながら瞼を閉じている一人の恋する女の子が居た…。
「主……楓は………」
「…な、なんでしょうか?…」




