策士
熱田神宮に到着した信長様と俺達は、清々しい朝の空気を感じながら参道を歩いていた。
(ん?…待てよ…確か俺が学んだ歴史では織田信長は、5人の小姓を連れて熱田神宮に向かったと記憶に残っているが、今ここに居るのは俺、小一郎様、浩一と、ここで合流する欄丸様のみ…一人足りない…それに、俺達の世界の歴史文献では確か欄丸様はこの場にすら居なかったはずだ…しかし、欄丸様は信長様に着いて来ている…)
やはり浩一の仮説通り、俺の期待は甘かった…この時点で既に別の歴史路線が動き始めている!…果たして俺達の存在がどうこの国の未来に影響していくかは、もはや完全に未知となっていた…。
(やはりこの世界の歴史は、俺達が学んだ歴史とは別物だと考える方がいいだろう…時流に合わせ俺達なりに最善を尽くす…今はそれしかないのだから…)
「おはようございます、殿!…皆様!」
「おぉ、欄丸!しかと手筈は済んでおるか!」
「は!整っております、楓姉さんが尽力していただいたお陰です!」
(えっ!!)
「楓!苦しゅうない、そちも姿を出すがよい!」
[はっ…]
石灯籠の陰から黒の忍び装束を纏った楓さんが、ややぎこちなく俺達の前に現れた!。
そう、彼女が五人目だったのだ!。
それに彼女は剣客ではあるが、忍びの心得も取得している、それを信長様は利用したのだろうか…。
「か、楓さん…どうして…そ、その姿は?…」
「あ、主…わ、私…」
可愛い女の子は何を着ても可愛く見えるのか、それとも俺がアニオタで少しコスサミに興味があるのも影響しているのか、忍び装束のまま両手を前に重ね、やや恥かしそうに顔を右下に背けている彼女を見た俺は、ちょっと胸がときめいてしまった…。
(いや…き、きっと…あのキスが原因なのかも……)
戦前にこんな事を思い出すのは不謹慎かも知れないが、つい彼女の横顔を見詰めながらも淡い桜色の唇に視線をフォーカスしてしまう俺…。
「巽、此度件は、わし自ら楓を呼び頼んだ事じゃ!…家臣の士気を上げる秘策の為にな!…」
「巽殿、殿は私一人じゃ荷が重かろうと、与力として楓姉さんに頼まれたのです、最初は巽殿と約束があると断られたのですが、どうしても私一人では間に合いそうに無く…」
(なるほど…そうだよな…欄丸様一人で[鳩ポッポ]を捕まえるには時間が足りないよな…)
「安心せい、巽!…楓の役目はこの熱田神宮までじゃ!…いずれ貴様の妻となるおなごを戦場まで同行はさせぬわ!…わははは~!」
い、今…俺の空耳だと思うが、信長様から非常に俺にとって最悪な事態を招くような言葉が出たような気がする…まだ桶狭間の戦いの前なのに、この戦いが終ってもまだまだ俺には棘の道が待っているのが決定したように聞こえたのだが…。
「それは、おめでとうございます!楓姉さん♪…欄丸も嬉しゅうございます!」
「え?…ぁ…いえ、あの…欄丸?…な、何を言っているのです!…わ、私と…あ、主は…」
さすがに俺とキスをした事実がある以上、楓さんは頬を赤くしたまま言葉を失っていた、逆にそれが男衆の目には恥ずかしながらも喜んでいるようにしか見えなかったから困ったものである!。
(まずい!…これが藤吉郎様やおねちゃんに知れたら……はっ!…ま、まさか…いずれおねちゃんは藤吉郎様と離縁し、俺の側室になる!とか言い出さないだろうな!…やばい、やばいぞ…歴史がえらい事になるどころか、俺があの二人と生活するなんて、もう命が無いに等しい!…)
「わははは!…よし、決めたぞ!…楓に巽の子が出来た暁には、わしが好い名を授けてやろうぞ♪」
(の、信長様ーー!!…な、何言ってるんですかーーーーー!!)
「淳一、俺さ、信長様になら、喜んで媒酌人を譲ってもいいぜ♪」
「あーーのーーなーー!」
「な…なんと、殿からもったいなきお言葉……楓は嬉しゅうございます…ポッ❤」
(おーーい!…橘楓さーーーん!!なんで、あんたまで~~!)
自分の恋の計画に信長様や欄丸様を利用したとすれば、楓さんは山本勘介や黒田官兵衛、竹中半兵衛と真田幸村に匹敵するほどの策士なのかも知れない!。
それに、信長様が俺達を認めれば、もう誰も異を唱える者は居なくなる…それを見越して計画をしたのであれば、この楓さんは、おねちゃん以上の大人物だ!。
「おぉ、これはめでたいです!この戦が終れば、兄上と姉上にも御報告を♪」
「ちょっ、ちょっと小一郎様!」
俺は慌てて小一郎様を御神木の近くまで連れて行き、何とかこの一件を藤吉郎様夫妻に口止めするよう頼む事にした!。
「あ、あの小一郎様、出来れば先ほどの楓さんの件は…藤吉郎様とおねちゃんにはまだ内緒にしておいてもらえませんか?」
「何故です?…このようなめでたい話なのにですか?」
「む、無論、ただで頼みはいたしません、今度令和の時代からこの時代を題材にしたシュミレーションゲームを持ってきます!ゲームの題名は信長様の名前を使用しているのですが、開墾や治水、年貢の事や領土侵略に合戦、家臣の忠誠度や一揆まで、はたまた商人との交易など事細かくこの時代を再現したゲームです!」
「な、何と!…まさにこの時代その物ではありませんか!…そ、そのようなゲームが…」
「そうです、それを自分の判断で家臣を使い自由に国造りを始めていくゲームなのです♪…どうです?…小一郎様好みではありませんか?」
「そ、それは面白そうでござりますな、私の鍛錬にもなりそうです!…分かりました、この一件は私の胸に仕舞って置きましょう♪」
「商談、成立ですね♪」
これでなんとか藤吉郎様とおねちゃんには知られずに済みそうだ…しかし、また当面おねちゃんと楓さんの女性問題で俺の胃が痛くなるのは間違いない…。
どうして俺の守護星さんは、もっと青春時代の時にモテ期の輝きを俺に注いでくれなかったのか…。
(やはり俺って、何から何まで悩まさせられる星の元に居るんだろうな…)
「と、殿!」
「何じゃ、欄丸!」
「あ、あれを!…わ、我らの軍勢が次々とここに!」
欄丸様の声で俺達はこの神宮から遥か先に目を向けると、織田軍の軍旗をなびかせた軍団がこちらに向かっていた!。
「来おったか!…楓、欄丸!…手はず通りに始めよ!」
「ははっ!」(欄丸&楓)
確か織田軍の総勢は二千だったか…それでも尾張の街道を進む武士達の軍列は目を見張るほど勇ましく見えた!。
きっと藤吉郎様もあの軍団の中に居るはずだ…。
(あ、あれが…織田軍!)




