猿は嫌いだがお前は気に入った!
「さ、お立ちなさい、勝家…」
お市様はまだひれ伏している勝家に優しく右手を差し伸べた…。
「な、なんたる恐れ多き事!…じ、自分で立てまする…」
「いいのです、わらわも少し言い過ぎました、さ、わらわの手を掴みなさい…」
「は…ははっ!」
先ほどのドラマ作家は却下だ!この人、俺の時代に生まれていたら、超高級クラブの売れっ子ホステスさんになっていたはず!それに、間違いなく無意識の行動だと思うが、男の心を揺さ振る慈愛のスキルは、まさに神対応級のものを持っているようだ!。
(まるで美女と野獣みたいだけど、あの勝家が赤面しながら手を出している!…てか、野獣じゃなくて照れ屋の赤鬼みたいだな…)
しっかりとお市様の手を掴んだ勝家はあの鬼の形相から一変し、穏やかなおじさまのような表情になっていた、そんな彼の姿を見るだけで、どれほどお市様に恋焦がれているのか鈍感な俺でも分かるほどだ。
「お、おほん!…巽、と、藤吉郎の奥方…して、楓とやら…先ほどの拙者の無礼…平に許していただきたい…どうか、このとおり…」
あの鬼柴田が頭を下げた瞬間、俺は心の中で「よっしゃーーーー!!」と叫んでいた!。
きっとお市様の力添えが無かったらここまでは来れなかった!今度、浩一を迎えに戻った時には、お市様のお土産にゲーム機と洗髪道具、スチーム美顔セットもオマケで持って帰るとしよう♪。
「では、勝家…その箱の中におるわらわの友を見てはくれぬか?」
「は、ははっ!」
おねちゃんは唇に血を滲ませながら小雪の入った箱を勝家に差し出す、そんなおねちゃんの顔に気が付いたのか、勝家は袖から布地を取り出し彼女の唇に付いた血を拭いてあげたのだが、いかにも自分はおなごに優しい男だとお市様にアピールしたかったのがありありと見えていた。
「では、拝見いたす…」
勝家はゆっくりと箱の蓋を開き、中を覗き込んだ…。
「お、お市様?…こ、この白くて丸い生き物が…い、犬なのですか?」
「はい、南蛮よりやって来た[といぷーどる]という犬種だそうです♪」
「お…おぉ…といぷーどる…な、なんたる…ふわふわとした白い毛並み…こ、このような犬…初めて拝見いたしました…」
鬼柴田が小雪を見て菩薩柴田の顔に変わった!…やはり楓さんの報告どおりこの男は大のワンちゃん好きなのが伺える♪。
「いかがですか?勝家、小雪をわらわの代わりに育ててはくれまいか?…この子は誰かが付いていてあげないと生きてはゆけぬ…」
「小雪と申すのですか、さすがはお市様、よい名をお授けなりますな!」
「ま、まぁそうじゃ…おほん…」
ここは突っ込みどころだが、今はお市様に任せる方がいい。
「…勝家、文にも書いていましたが、この様な事はそなたにしか頼れぬ…わらわと小雪が不憫に思うのなら、どうか助けてはくれまいか…」
「な!なんたるもったいなきお言葉、この柴田勝家!身命を賭して小雪を立派に育てまする!」
「お、おぉ…やはりわらわの事を理解してくれるのは勝家だけじゃ♪…あぁ、勝家…今日の喜びは一生忘れませんよ❤…」
「は、ははぁ~~、ありがたきお言葉!」
神!まさに神対応!…この人、マジでホステスになったら二年でビルを建てるんじゃないのか?…と感心してしまうほど男心を心地よくさせてしまうようだ!。
「のう、勝家、たまにはわらわの部屋に小雪を連れて来てはくれまいか?」
「は、い、今何と?…」
「小雪はわらわの友、友と遊びたい時もあるのじゃ、どうじゃ?…そなたも遠慮のう小雪を連れて来てはくれまいか?」
「よ!喜んでお連れいたしまするーーーー!!」
マジでホステスになったお市様の居る店に行けば、ドンペリやルイ16世の一本や二本なんて簡単に注文してしまうだろう、それほど彼女は言葉巧みに男を喜ばす神スキルを持っていたのだ!。
(お市様の最後の言葉は、正に会心の一撃だったな…一体、織田家の人はどれだけ凄いの?…)
「うふふ♪良かったですね、小雪…今日から勝家がそなたの父じゃ♪…おぉ、そうじゃ、今からわらわも小雪の母のつもりになりましょう♪…友よりもそのほうがしっくりいたします♪」
「な、なんと!せ、拙者が小雪の父で…お、お市様が…母とは!…なんたるもったいなきお言葉!…」
(俺…絶対お市様の店で常連客になったら、気が付いた時には飲み代で100%破産してるな…)
これだけお市様から美味しいお膳を用意されたのだ、勝家が断る理由なんてどこにも見付かるはずもない!。
というか、完全にあの[鬼]と言われている柴田勝家がお市様の手の平で踊らされているのだから…。
「では勝家、小雪を頼みましたよ、南蛮の犬の飼い方は巽が熟知しておる、しかと指南を受けてくださいね♪…ふふ♪わらわは小雪が作ってくれた縁を大切にしたいと思っています…」
「は、ははっ!…畏まりました!」
「それではこれにて、楓、おねさん、わらわを城まで送ってくださいな…」
今俺は、本当にお市様が味方で良かったと心から感謝していた、後は俺自身が柴田勝家に認められるよう頑張るだけだ!。
「巽!…この小雪の育て方、しかとわしに伝授せよ!…間違った教えをすれば、貴様のその首が飛ぶと思え!」
「は、ははっ…」
(あれ?…俺の事を巽って呼んだ…)
「ふん!…わしは猿は好かんが、お前は気に入った…お市様が喜んでいただけるような育て方が出来るまで、わしの屋敷に通うことを許す!」
「あ、有り難き幸せでございます!」
「だが、勘違いするなよ!…貴様が何かしくじれば、いつでもこのわし自ら成敗してやる!」
「は…はい……」
何とか俺の計略…というよりは、お市様の美貌と神対応の成果で成功したと表現する方が正しい…それに、まだまだ気を抜ける状況ではない…。
お市様の後ろ盾はあるが、いつこの男が何かしらの理由を付け俺達に牙を向ける事も想定しなくてはならないだろう…。
(だが、それは今の柴田勝家からの連想だ、これから小雪と拘わる中で、この男の心が変化していく事だってある…俺に出来る事は、それしかないのだ…)




