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戦国時代の電気屋さん  作者: 朝風清涼
第5章 桶狭間

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鬼柴田

 これまで柴田勝家にはいい印象が全く無い、城内で出会う度に人が居ようが居まいがお構いナシに嫌味を言ってくるからだ、もし俺が信長様より信頼を受けていなかったら、更に露骨に嫌がらせをしてきただろう。

 いや、追い出しか殺されていてもおかしくは無かったかも知れない…。


(正直、勝家と面と向かうのは吐きそうなほど嫌だけど、これも尾張と俺達の未来の為…気を引き締めろ!淳一!)


 胃の辺りからムカムカした不快感を味わいながら、俺達一行は立派な門構えの屋敷に到着した。


「さ、巽!始めましょうか♪」


 そうだ、俺のバックにはお市様が控えてくれている、いきなり勝家が俺を見て刀を抜いたとしても、お市様が諌めてくれるはず!。


「は…はい…」


 何度か門を叩き人を呼ぶと、かなり年配の男が現れ俺は勝家に目通りを伝えてもらったが、予想通り勝家は俺とは会わぬと返事をよこしてきた!。

 だが、それは想定内!次に俺は「織田家から内密に柴田様への御用を承っただけだ…」と使用人の男に伝言を頼んだ。


 ♪ギ、ギィィィィ~~~~~~~


 重苦しい音と共に立派な門が開いていく…その開いていく門の隙間から、すでに柴田勝家の姿が見えている!俺は吐き気を抑えながら視線を下に向け頭を下げた。


「ふん!猿の子分の小猿が我が屋敷に来るだけで不愉快じゃ、それに…たかが足軽頭の分際で取り巻きを従えているのも気に入らぬわ!さっさと用件を伝えここから去れ!」


(やっぱ超嫌われてるじゃないか…これでお市様の策は成功するのだろうか…は、吐きそう…)


「じ、実は…柴田様に織田家より土産を持参いたしました……おねさん、お願いします…」


「…は、はい…」


 やはりおねちゃんも柴田勝家が目の前に居るからか、緊張した表情で小雪が入っている箱を差し出す。


「何故、このような農民の女からわしが受け取らねばならぬ!…それに、その後ろで立っている痩せ細った小汚い浪人、織田家の家老であるわしの前でも笠を取らぬとは無礼にも程があるわ!…所詮、猿は猿同士の群れを作るようじゃの!」


(あ~あ、言っちゃった…モロ地雷を踏んだな…)


 勝家がお市様に難癖を付けても彼女はただ黙って下を向いていた、おねちゃんはさすがに悔しかったのか、キュッと下唇を噛みじっと耐え忍んでいる。


「それに、この穴空き箱はなんじゃ!…こんなみすぼらしい箱を出しおって、礼節も分からん猿共じゃの!…さては貴様ら、織田家を語りわしを愚ろうするつもりなのであろう!…今ここで手打ちにしてくれようか!」


「お、お待ち下さい!柴田様!この箱はお市様よりお預かりした箱でございます!」


「な、なんじゃと!…お、お市様から!…な、何故もっとそれを早く言わぬ!」


「それに、お市様からこの書状も……」


 俺は懐からあの手紙を勝家の前に差し出すと、彼は慌ててその手紙を開き目を見開いて読み始めた!。


「…………な、なんたるおいたわしい……こ、この勝家を…これほど頼りにされておられたとは……な、なんともったいなきお言葉………」


 学校の下駄箱に初めてラブレターが入っていて、それを慌てて便所の個室に飛び込み、ドキドキしながら文面を確かめる思春期ボーイのように、勝家は目を輝かせお市様の手紙に目を通している。


「で、小猿!その箱の中に、南蛮の仔犬が入っておるのだな?」


「御意でございます…」


「………気に入らぬ!……お主と猿が拘わった犬など、何故わしが面倒みねばならぬのだ!…いくらお市様の頼みでも、猿の臭いが付いた犬など受け取れぬわ!…」


 まずい、俺の予想だとお市様の手紙に感動した勝家は、喜んで小雪を受け取ってくれるはずだったのだが、俺と藤吉郎様が絡んだだけでこうも拒否反応を出すとは、いきなり目の前が真っ暗になりそうだった。


「どうせ、その箱の中の犬も猿顔のブサイクな顔なのであろう!…多忙なわしには犬の世話など出来ぬとお市様に伝えろ!…」


 よほどおねちゃんは悔しいのか、噛んでいる下唇から血が滲みはじめる…そんな彼女の頬から一筋の涙が流れ出していた…。

 (かえで)さんはじっと静かに瞼を閉じてはいたが、愛刀(あいとう)を握る手がプルプルと震えている。


「ほら!もう用は済んだ!とっととお市様の元に戻り「ご家老の柴田様に断られました」と泣きつきお叱りを受けるがいい!それと、二度とこの屋敷の近辺を猿同士でうろつくな!」


「言いたい事はそれだけですか、勝家!」


「は?…今、わしの名を呼び捨てにしたのは誰じゃ!…」


(お、お市様!)


 俺達の一番後ろに控えていたお市様がゆっくりと勝家の前へと歩み寄っていく、下級武士に呼び捨てにされたのがよほどムカついたのか、勝家のこめかみに血管が浮き出していた。


「貴様か、そんなか細い体格でわしを呼び捨てにするとは、わしを織田家の家老と知っての事であろうな!」


「なら、そなたも知っておろう!」


 お市様は被っていた笠のアゴ紐を解き始め、勢いよくその笠を脱ぎ捨てた!。


「わらわは織田上総介(かずさのすけ)信長の妹、市である!勝家、よもやわらわの顔を見忘れたとは言わせませんよ!」


「お、お……お市様!…は……ははぁ~~~~~~~~!」


 勝家は二歩ほど後退りをすると、そのまま地面にひれ伏し完全に額を砂利だらけの地面に押し当てた!。

 そんな勝家の姿を見ると、つい御老公に従うす○さん、か○さんの気分に俺はなってしまった♪。


(まぁ、お市様から「懲らしめてやりなさい!」と言われても、絶対俺は鬼柴田に勝てるはずは無いけど…)


「勝家、巽はわらわの恩人、藤吉郎は織田家の大事な台所奉行、(かえで)は恩人である巽の警護役、おねさんは藤吉郎の妻であり、わらわに新しい友を紹介してくれた大切な友人である!…その者達を愚ろうする事は、わらわを愚ろうするのと同じだと心得よ!」


「め、面目次第もございません!」


 何とかお市様の策略どおり、柴田勝家を封じ込める事は出来た!。

 それにしても、どの時代でも勧善懲悪の物語はあるようで、時代が時代ならお市様はなかなかのドラマ作家になっていたかも知れない…。


「さ、勝家…改めてわらわの頼みを聞いてはくれぬか?…どうじゃ?…」


「は、ははっーー!」


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