柴田勝家の屋敷へ
何故かお市様とおねちゃんは意気投合してしまい、お互いを[ちゃん]で呼び合い始めた、仲が良くなる事はいい事だが、やはり大きく身分が違うのだ!あまりおねちゃんには目立つ行動を控えて欲しいのだが…。
「まぁ、まぁ♪、なんとこのげーむとやらは面白いのでしょうか♪」
「あははは~♪いっちゃん、筋がいいねぇ~!…もうステージ6までいってるじゃん♪」
(…タメ口かよ…一度この怖い物知らずのおねちゃんの心臓をMRIで見てみたい…)
二人がゲームに夢中になっている間、俺と楓さんは箱の中から小雪を出し、この子を自由に遊ばせてあげた、お市様が味方になってくれたのだから、この先も小雪と会える日が頻繁にあるはずなので、俺達の心の悲しみはかなり緩和されていた。
「楓さん?…この策、上手くいきますよね?」
「お市様が思案した策です、間違いなく成就いたします♪」
[姫様、先ほど柴田様が御帰宅されたと使いの者から報告が入りました…]
部屋の襖の外からあの中年侍女の声が聞こえた、いよいよこれから鬼柴田の心を落とす作戦が始まる!。
「分かりました、ご苦労様です!」
手にしていたゲーム機をおねちゃんに返したお市様、それを受け取り一の段から下りたおねちゃんは、俺達の横に座り、お市様を見上げた。
「さ、皆さん、聞いての通りです!これより行動を開始いたします♪…わらわも急ぎ準備いたしますので、城門の前にて小雪と待っていてください♪」
(何だか、妙に楽しそうだな…)
彼女はどれほど織田家と俺達がピンチになっているのか本当に理解しているのだろうか?と、不安になりながらも3人+一匹は指示通り城門前でお市様が現れるのを待っていた。
「あの、巽様、まだ帰られぬのですか?」
すでに顔見知りとなっていた門番が俺達に声をかけてきた、ここは何とか怪しまれない言葉を返すほうがいいだろう。
「えぇ、まだもう一人城から出てくるのを待っているので…はは…」
「そうですか~、いやぁ~…ようやく温かい季節になり、こうして門番の役目もやりやすくなりました♪」
「日々門番のお勤め、ご苦労様です…はい、いつもの!」
俺は袖の中から飴を二つ取り出し門番に渡した、今日はオレンジといちご味だ!。
「おぉ、いつもかたじけない♪いやぁ~、巽様からいただく飴は、どの店の飴よりも甘くて美味ですからな♪」
「喜んでいただき、私も嬉しいですよ…」
門番が嬉しそうに飴を舐めていると、よく時代劇の浪人が顔を隠す為に被っている深編笠を着けた侍が門番の背後から現れた!。
「お待たせいたした、さ、参ろう!」
(え?…お市様?…)
何とか男性の声色を使い、足早に門番の横を通り過ぎたお市様は俺達の先頭を歩き始める!当然ながら、あのお侍はお市様だとおねちゃんも楓さんも気が付いていた。
「じゃ、これで私達は帰ります!」
「畏まりました、巽様、飴をありがとうございました!道中お気をつけて!」
城外に出たお市様に、おねちゃんは早速笠の下からお市様の顔を覗きこんだ!本当にこの人は怖い物知らずである、まぁ将来はあの[太閤]の妻になられるお方なのだから、そのくらいの強心臓がなければ成り立たないのかも知れない…。
「あははは~♪やっぱりいっちゃんだぁ~♪お侍姿、似合ってるねぇ~!」
未来の北政所様に失礼だが、強心臓というよりは、彼女の頭脳に[馬]と[鹿]が楽しそうにダンスをしているのか?と、つい思ってしまう…。
「おね殿、お市様に対し無礼ではありませんか、控えてください!」
「いいのですよ、楓、ふふ♪…どうですか?おねちゃん、わらわは、たまにこうして侍になり城下町を見て歩くのです♪これが一番の気分転換なのです!」
「あははは~♪…じゃ、今度うちの家に遊びにおいでよ♪…うちとげーむ勝負しよ!」
「おぉ、それは楽しみです♪」
(小学生の会話か!)
「では、ここから私が柴田様のお屋敷まで案内いたします…」
「お願いします、楓さん!」
もしかして俺だけが緊張しているのかも知れない…両手に抱える小雪の入った箱がコトコトと揺れ、その振動が俺の心臓とシンクロしているようだ…。
これからあの鬼柴田と目を合わしながら話をする、銀行に借金返済の猶予を頼みに行くよりも全身に緊張感が走っている俺…。
(うぅ、緊張で吐き気が…)
「でね、その[ぶらじゃ]っていうのが、おなごのお乳を隠してくれて~、凄く可愛いのぉ~❤、未来のおなごの必需品なんだよ~♪あははは~、うちも今着けてるのぉ~♪」
(いつの間に下着の話になってるんだよ!人の気も知らないで…この人は…)
「そのような可愛らしいおなごの襦袢があるのですか、わらわも気になりまする…」
「あははは~♪今度、うちが着けてるのを見せてあげるねぇ~♪」
(見せるな、そんなもん!てか、「うふん、どうじゃ巽?…わらわの下着姿は❤…」って、つい男の煩悩でお色気ムンムンなお市様の姿を想像してしまったじゃないか!)
すでに楓さんはおねちゃんにつっこむ気力を失ったようで、何も言わずに歩き続けている。
だが、あのおねちゃんとお市様の会話で俺の緊張感は不思議と和らいでいた、もしこれがおねちゃんの計算だったら、彼女も人心を掴むかなりの策士だと言える!。
(うん、それは絶対有り得ないな…)
一つ目、二つ目の角を曲がり、やや開けた通りに出た辺りで、楓さんは右側の大きな武家屋敷を指差した。
「お市様、あそこが柴田様のお屋敷でございます!」
勝家の屋敷を見た瞬間、またしても俺の胃が吐き気を訴え始めていく!。




