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戦国時代の電気屋さん  作者: 朝風清涼
第5章 桶狭間

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今日から友ではありませんか

 お市様が用意していた柴田勝家宛の手紙、20世紀生まれの俺にとっては完全に暗号のような文字である、これをすらすらと読める古文の研究をしている学者さんをちょっと尊敬してしまう。


「では、失礼ながら私が代読いたします…」


 (かえで)さんが読んでくれたお市様の手紙の内容はこうであった。


 [急な手紙で大変申し訳なく思っております、しかし、この私の痛む心を御理解していただけるのは柴田殿(どの)しかおらぬと思い筆を執りました。

 先日、巽殿(どの)より私の遊び相手にと南蛮の仔犬を献上してもらいましたが、外では飼えぬ種類だそうで、今は私の部屋にて(かくま)っております、ここは城内…城の中で犬を飼うなど兄上が許してくれるわけがございません、きっとこの子は殺されてしまいます。

 他の者に譲る事も考えましたが、私の中で頼りに出来るお(かた)を思い浮かべると柴田殿(どの)しか浮かびませんでした。

 どうかこの(いち)と仔犬が哀れだと思っていただけるのなら、私の痛む心をお助けくださいませ。

 お優しい柴田殿(どの)なら、きっとこの子を立派に育ててくれると信じております。~(いち)~]


 という文面だ!。

 もし、これまで柴田勝家がお市様から手紙をもらった事が無いとすれば、これは間違いなく弾道ミサイル級の威力がある!。


「お市様、このような事までしていただき、何とお礼を申し上げればいいか…巽は何も言葉が浮かびません…」


「くす♪くす♪…そんな、お礼などいりませぬ、この冬は巽から頂いたポカポカカイロで随分助かりましたから♪…それに、(かえで)から教わりました「おなごはあまり下腹部を冷すとよくない」と♪…のぉ、(かえで)?」


「お、お市様…その様な事は男性の前で口にしない(ほう)が…」


「そうなのですか?…気を付けますね……さぁ、こちらの準備は整いました♪…でも、まだ柴田が屋敷に戻るには少し(とき)がありますね……どうしましょうか?…」


「あの、お市様?」


「どうかしましたか?おねさん?」


「あの、お市様は普段、どうお過ごしされているのですか?」


「そうですね~…和歌を詠んだり、絵を描いたり…ふぅ~…毎日が退屈です…でも、この数日間はとっても楽しかったですよ♪…ただ、また明日からは退屈な日々が待っていますね…」


 お姫様ってそんな毎日なのだろうか?…この時代だと嫁入りまでずっとこんな日々が繰り返し続き、いきなり婚姻が決まれば住み慣れた国を離れ他国に行かなければならない…お姫様って聞こえはいいが、現実はとても可哀想に思える。


「そうですか~、うち…いえ、まだ私らは色々自由があって幸せなのかも知れません…あ!…お市様、出かけるまで[げーむ]で遊びませんか?」


「げーむ?…それは何ですか?」


「お、おねちゃん?…もしかして、いつも持ち歩いているんですか?…」


「うん♪暇つぶし用にね♪」


 おねちゃんは袖の中からMyポータブルゲームを取り出し、その本体をお市様に披露した。

 当然ながら初めて見る道具にお市様は理解不能のような表情になっている。


「それがげーむとやらですか?…巽の時代の物だとは分かりますが、それでどう遊ぶのでしょうか?」


「あははは~♪…では失礼して~♪」


 ゲーム機を手にしながらおねちゃんは有ろう事かお市様の側に歩み寄る!。


「お、おね殿(どの)、無礼ではありませんか!」


「よいのじゃ、(かえで)♪…ここはわらわだけじゃ、無礼講でよい♪…それより、そのげーむとやらが、わらわの退屈をしのいでくれる(ほう)が気になります!」


「はぁ…畏まりました…おね殿(どの)、くれぐれも無礼なきよう…」


「あははは♪おっけい!」


 トンでもない事に、おねちゃんは織田家の者しか上がれない[一の段]に平然と微笑みながら上がると、令和で覚えた言葉を出しながら、超お気軽にお市様の横に座った!。

 その瞬間、俺と(かえで)さんの身体が凍ってしまったのは言うまでも無い!。


(終った…もう柴田勝家攻略どころではない…きっと今夜には俺達の首が川に晒される…木下家は取り壊しで、藤吉郎様と小一郎様は切腹……おねちゃん…なんたる事を…)


「ほう、これがげーむとやらですか?……それにしても……」


(げっ!やはり、身分の違う者が横に座るなど言語道断だった~~!さよなら、浩一…瞳ちゃん…)


「それにしても、おねさんの髪からはとてもいい香りがしますね?…その化粧品からですか?」


「あははは~♪あのね、これはたっちゃんの時代のチャンプ~と、リンスゥ~の匂いですよ~♪」


「お、おねちゃん!その喋り方はあまりに無礼では?」


 こんな所に最強の伏兵が潜んでいたとは夢にも思わなかった!時すでに遅し、(かえで)さんも成すすべが無く、ただ口をあけたままおねちゃんを見詰めていた…。


「よいのです、巽♪…それに、わらわとそなたらは、もう友ではありませんか♪あ、よい事を思い付きました!これからわらわが一人の時は[(さま)]を付ける必要はありません♪」


「お、お市様、それはなりませぬ!」


(かえで)、いいのです♪わらわも遠慮のう友と話しがしたいのです、これはわらわの願いです!いいですか?」


「は…はぁ…」


 これで織田家の人々は俺達の味方になってくれて心強いが、俺としてはかなり複雑な心境だ…それは、新たな敵の呼び水を作ってしまいそうな不安が押し寄せていたからだ…。


(だが、今はここまで進んだ事を素直に喜ぶとしよう…)


「のう、巽!わらわにもチャンプーとリンスゥ~を献上してくれませんか?…おなごはいつでも花のように振る舞いたいものじゃ…そんな花の香りをいつも漂わせる事が出来るのはおなごの夢♪…どうじゃ?わらわの頼み、聞いてはくれぬか?」


「ははっ、喜んで承ります!」

(これで俺達の命が拾えるなら安いもんだ!)


「あははは~♪良かったね~、いっちゃん❤」


(おい!木下おね!今、なんつった!!)


「はい、おねちゃん❤」


(え?…お、お市様?…)


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