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戦国時代の電気屋さん  作者: 朝風清涼
第5章 桶狭間

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お茶目なお市様

「まぁ、あの勝家が…犬好きなのですか?…」


 綺麗な女性はどんな表情になっても綺麗である、お市様も(かえで)さんの言葉にキョトンとした顔になってはいても、その可憐な表情に心が引き寄せられそうになってしまう!。

 が!しかし俺はすぐ隣に居るおねちゃんの視線が恐ろしく、俺の中の男の煩悩は完膚なきまでに彼女の殺気に満ちた視線によって抹殺されていた…。


「はい、忍びの心得のある私がこの目で見ましたので、間違いありません!」


「そうですか…それでこの仔犬を使い、勝家の心を……くす♪…とても面白そうですね♪…巽…これはそなたが考えたのですか?」


「お、恐れながら…そうでございます…」


 いつしかお市様は人に慣れた小雪と遊び始めていた、仔犬と戯れる綺麗なお姫様…最高に素敵な光景なのだが、やはりおねちゃんの視線が恐ろしい…それに、これ以上お市様のお姿を眺めていては、次に俺の視線に感づいた(かえで)さんもおねちゃんとタッグを組み、帰りの道中俺を攻撃してくるやも知れない…。


(ここは目線をお市様に向けないようにしなきゃ…俺の身が危険だ…)


「おねさん、この子の名はなんですか?…」


「は、こ、小雪と申します…」


「小雪、よい名を授けてもらったのですね♪……おぉ、何と人に慣れている子じゃ…よし、よし…いい子、いい子❤」


 美女と仔犬…この眩い光景を女性陣の目にはどう映っているのか聞いてみたいが、当然ながら俺にそんな勇気も根性もあるわけがない…。


「のう?巽、(かえで)、おねさん、この一件、わらわに任せてはくれぬか?」


「は?」(巽)

「は?」(おね)

「は?」((かえで)


「くす♪くす♪…だって、こんな楽しそうな余興♪…わらわにとって久しぶりですから♪…そなたらに悪いようにはいたしません…くすくす♪…よろしいですね?…」


(いや、余興じゃなくて…俺達や尾張の命運がかかっているんですけど…)


 しかし、お市様が言った以上、俺達が逆らえるはずもなく、ここは彼女に任すしか方法は無かった…。

 だが、とりあえずは俺の策は成功したと思うようにしよう…。


「さぁ、これから忙しくなりますわよ♪…もう毎日が退屈でしたから、わらわは張り切りますわ♪…くすくす♪…こんなに胸がワクワクしたのはいつ以来でしょう~♪」


(お市様って、こんな面も持ってたの?…)


 俺だけじゃなく、おねちゃんも(かえで)さんも、お市様の変わり様に身体が固まっていたのは言うまでも無い、特に幼馴染みだった(かえで)さんは口を半開きにしていた!。


「いいですか、皆さん!…後日、わらわの使いの者が訪れた際には、速やかにこの清洲城に来てくださいね♪…わらわがとっておきの策を伝えますゆえ♪あぁ、楽しくて今夜は眠れそうにありませんわ~…」


 俺達がこんな彼女の姿を見たと[お市ファン]の男共に知れ渡れば、益々敵が増えそうだ…しかし、あの柴田勝家が恋焦がれるお市様が俺達側に付いてくれたのは大きな進歩だと言える♪。



 [三日経った日の正午]



 お市様の使い者と共に、また俺達3人組(プラス)一匹は清洲城へと赴き彼女の部屋へと通されていた。

 普段なら俺達が彼女の登場を待つのだが、この日が待ちどうしかったのか、すでにお市様は織田家の人しか座れない[一の段]に座り、俺達を見下ろしている。


「遠路ご苦労様でした、巽、(かえで)、おねさん、そして小雪♪」


 今日のお市様はいつもと違っていた!美しい着物姿ではなく、まるで旅支度をしたお侍のような出で立ちをし、髪は以前の(かえで)さんと同じくポニーテールで決めていた。

 あの美貌でポニーテール!それに侍衣装…コスサミに参加すれば人だかりは確実だ!芸能事務所のスカウトも黙ってはいないだろう…。


(にしても、これからお市様は出掛けるのだろうか…)


「あの、お市様…」


「なんじゃ?(かえで)?」


「これからお出掛けされるのですか?…」


「おぉ、この姿か?…ふふ♪…それは後で打ち明けます♪」


 まるでいたずら小僧のような笑みを浮かべるお市様に少々不安を感じながらも、俺は今日の目的を彼女に伺うことにした。


「では…お市様、本日はどの様な御用件でしょうか?」


「はい、でもその前に…おねさん?……もう心の整理は出来ていますか?…」


「え?……」


「小雪とお別れをする覚悟の事です…」


 さすが織田信長様の妹君(いもうとぎみ)、うだうだと回りくどい言い方ではなく、単刀直入におねちゃんの覚悟を確かめるつもりだ。


「う……うち……」


 しっかりと小雪が入った箱を両手で抱えながら、おねちゃんは静かにその箱を見詰めている…。


(おねちゃん…)


「…お市様…今は織田家の一大事…うち、いえ…私の想いなど比べ物になりません…」


「分かりました、では…皆様に私の策をお伝えいたします…心して聞いてください!…くす♪くす♪」


 何故彼女が笑ったのか、その理由は話しが進むにつれ理解する事が出来たのだが、なるほど信長様が若かりし頃[うつけ]と陰口を叩かれていたように、中々お市様も破天荒な発想をする人だった!。


「どうでしょうか?…わらわの計略♪…」


「さすがは信長様の妹君(いもうとぎみ)、巽は感服いたしました!…ただ…」


「ただ?…のぉ巽?…他にまだ付け加える方がよいのか?…」


「いえ、その……先ほど柴田様にお渡しするお市様の手紙を拝見したのですが…」


「何か文面が間違っていますか?…」


「…いえ……私の時代とは字体が異なり……すみません…なんて書いてあるのか…読めません…」


 だってしょうがないだろ!…あの蛇が通った跡のようなクニャクニャ文字なんて[百人一首オタ]か[古典好き]の人くらいしかあの字なんて現代人には読めません!。


「は?…読めぬのですか?…そんなにわらわの字は読みづらいのかの…」


「い!いえ、そうではなく、私の時代では文字が進化しているので、それに慣れてしまっているだけでございます!」


「では、(あるじ)、私が代読いたしますので、お聞き下さい…」


「よ、よろしくお願いします…」


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