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戦国時代の電気屋さん  作者: 朝風清涼
第1章 えらくリアルな夢なんですけど(汗)
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もう倒産目前…

俺の名前は<巽淳一(28)>不慮の事故で先代社長が亡くなり、彼の奥さんから頼まれ経営のイロハも分からないまま小さな電気屋を引き継いだ俺は、3年も経たないうちに経営不振の地獄を与えられていた!何とかこの窮地を脱したいと考えていた俺に大きな運命の転機が訪れる事になる!。

 ♪パサッ!!…トサッ……


 月末が近付くと郵便ポストの音がやたらと不快感を与える!特に会社を経営している<社長>の立場である人間は特にだ!。


「はぁ~~……また税金の督促かよ…それにクレジットの請求書……封を開けるのも嫌になる…」


 俺は町の小さな電気屋を経営している<巽淳一(28)>何となく工業大学電気科を卒業し親戚の電気屋で就職したのだが、俺が25の時あっさりと社長が天国に行ってしまい、電気機器の知識なんて無い奥さんは亡き旦那の形見でもある店舗を俺に任せとっとと子供を連れて実家に帰ってしまった。


(大学を卒業してから俺の最低な人生が始まったって事だ…あの時「どうしても家業を手伝ってくれ!」と言われ就職を承諾した俺が馬鹿だった…)


 この会社には社長の俺以外、従業員が3人居るが一人は正社員で後の2人はバイトだ!正直な所、小さな町の電気屋では大型店舗の規模には勝てず人材を持て余しているのが実態だった。


(とりあえず、バイトの2人には暇を与え、浩一だけ残ってもらうようにして正解だったな…)


 唯一我が社で正社員の<藤本浩一>は俺が小学生の頃からの親友で、この店を引き継いだ時から苦楽を共にしている戦友でもある。


(あいつには家族があるし、何とか寸志程度の賞与だけは工面してやらないとな…)


 もうすぐ7月…しかし、当社の経営状態ではボーナスだって出せる余裕もない…それでも浩一は何も文句を言わず懸命に働いてくれるが、生活はかなりギリギリなのも理解している俺は、余計に心を痛ませていた。


「何か一発逆転のアイデアが欲しい……て、そう考えているうちは無理か…凡人の俺では…」


「おい、淳一!そろそろ山本さん宅にテレビアンテナの取り付けに行く時間だぞ!」


「分かった、電話を転送モードにしてすぐ行く!」


(どうせ客から仕事の電話が鳴る事なんてないだろうがな…)


 店舗のシャッターを閉め留守状態にし、俺は浩一が待っている軽トラの助手席に座る。


「浩一!テレビアンテナは倉庫にあるから、まずは倉庫に寄ってくれるか?」


「OK!」


 今日の仕事はこれ1件だけ、色々経費を引くと純利益は3000円ポッチ…それでも昔の(よしみ)で俺たちに仕事を与えてくれる常連さんには感謝してもしきれない!。


「淳一、お前、今月給与あるのか?」


「え?ま、まぁ何とかしてるよ…俺には家族が居ないから、それほど負担にはなってないよ…」


「なぁ、本当にキツイ時はハッキリ言ってくれよ、こっちはカミさんがパートで稼いでるし、もしお前に必要な金額があれば俺の給与から引いてくれてもいいからな!お前は俺の親友だろ!!遠慮すんな!」


「浩一…ありがとう、そう言ってくれるだけで頑張れるよ…」


 こうして俺と浩一は先代社長のたった一つの遺産でもある返品や売れ残りを保管している倉庫に到着した。


(出来ればいっその事リサイクルにでも売り払いたいが、どうせ二束三文だろうし、もしかするとレトロブームが到来し高価で買い取ってくれるかも知れない!なんて、はは!俺ってどこまでロマンチストなんだか…)


 扇風機・ハロゲンヒーターに、メーカーから「今年は猛暑らしいのでチャンスですよ!」と言われ大量に仕入れたエアコンと冷蔵庫…照明器具なんて箱ごとそのまま積み上げた状態だ…それも全部5年前からの在庫商品…。


(こんなのいくら安くすると言っても誰も飛びつくわけなんてないよな…はぁ、胃が痛い…)


「あった!あった!おい、淳一!アンテナ見つかったから行くぞ!」


「う、うん…」


 在庫の処分をどうするか悩みながらも、俺と浩一は現場に向かい有り難く頂いた仕事に集中した。


「おい、淳一、そこの屋根の端にワイヤーを固定してくれ!」


「了解!!」


 ♪ヴゥゥゥゥ~~~~……ヴゥゥゥゥ~~~~………ヴゥゥゥゥ~~~~


(何だよ、この忙しい時に…い、いや!もしかして仕事の連絡だったら有り難い♪)


「浩一、ちょっと電話が鳴ってるから待っててくれ!」


 作業着のポケットから携帯を取り出し画面を確認した瞬間、俺の淡い希望は見事に粉砕された!。


(うっ!○×銀行……マジかよ…)


「あ……も、もしもし…」


<あ、こちら○×銀行△△支店の渡辺と申します、巽様の携帯番号でお間違いないですか?>


「え?…そ、そうですが…」


<大変言いにくい用件なのですが、本日融資ローンの返済日になっておりまして…今朝確認しましたところ、預金残高不足になっておりまして、いつご入金出来るかの確認をしたく…>


「あ、そ…そうでしたね…い、今ちょうど仕事中でして…明日にもう一度連絡をいただければ助かるのですが…」


<大変申し訳ございませんが、本日中に入金していただけないと、御社の信用にもかかわりますので…何とか15時までにお願い出来ますか?>


「いや、そう言われましても……こちらの都合とかも色々ありまして……」

(ちっ!当にお前らの中では信用なんてないんだろ!)


 晴れの日(好調期)の時には(融資)を出してくれ、悪天候(経営不振)になると(融資)を出してくれない!それが銀行のビジネススタイル…もう嫌になるほど俺はそれを味わっている…。


「お!おい淳一!…ここ屋根!!!」


「ん?……え?」


 その瞬間、俺の体重が完全に無の状態になったような気がした!!。


 …………………………………………

 ……………………………………

 …………………………………

 ………………………………

 …………………………


<もし!もし!そこの御仁!!>


(夢?……いや…確か…俺、屋根から落ちたんだよな……浩一が救急車を呼んだのか?……て事は…この声は救急隊員?…)


 間違いなく俺は電話中屋根から落ちたのだが、身体からは全く痛みを感じる事は無かった!。


(痛みを感じないって事は…俺、かなり重症なのか?…それとも…瀕死の状態か?…)


<おい!気を確かに持て!!>


「う……うぅ~~ん……結構古風な喋り方の救急隊員さんですね……」


「たいいん?…なんじゃそれは?……まぁ、気が付いて何よりだわい!」


(え?…あ、辺りが真っ暗じゃないか!ひょっとして…頭を打って一時的に視力が落ちたのか?)


 いや、そうではなかった!俺はまだ仰向け状態のまま辺りを見渡すと、綺麗な星空と暗闇にぼんやり木々のシルエットが視界に入っていたのだ。


(視力は落ちていない…じゃ、何で夜なんだ?浩一が夜まで屋根から落ちた俺をそのままにするはずはない!…じゃ、ここは…何処なんだ?)


「さ、ほれ!これを飲め!!」


 何処の誰だか分からない男は、そっと俺の口元に竹筒を差し出した。


(竹の水筒?…こんなの救急隊員が持ってるわけないよな…じゃ、この人、竹農家の人か?)


「んぐっ!!んぐっ!!んぐっ!!…」

(なんだこのまろやかな水は!!うまい♪)


 かなり喉が渇いていた俺は竹筒を奪い取るようにして水を飲み干した。


「ふぅ~~……ありがとうございます!…お陰で生き返りました!」


「お、お主!日ノ本の者か?」


「えぇ、日本人ですが…」


「真か?…にしても、なんじゃその奇妙な出で立ちは?わしはてっきり異人だと思っておったぞ!」


「はぁ?」


 ようやく目が暗闇に慣れ始め、俺は竹筒を差し出してくれた男をよく見ると、男は真っ黒に統一された着物を身を包み、頭には曲げを乗せまるで<忍び>のような格好をしていた!。


(映画のロケ?それとも大河ドラマの撮影中?)


「凄いですね、何かのロケですか?さすが役者さんは撮影中<キャラ>になりきってますね…」


「お主、頭がどうかなっておるのか?<ろけ>?それはなんじゃ?も、もしやわしと<のろけ>たいと思っておるのではないか?…わ、わしは女子(おなご)にしか興味はござらん!!」


「い、いや…そうじゃなくて!!」

(ん?ちょっと待て!どうもさっきから言葉のキャッチボールが出来ていない!ま、まさかタイムスリップ?いやいや、そんなベタなコミックや小説じゃあるまいし、貧乏社長の俺がそんなアホらしい現象を体験するはずが無い!)


「あ、あの?ここは何処ですか?」


 とりあえず、俺は頭を空っぽにし目の前の男から情報を聞き取る事にした。


「ん?ここか?ここは尾張と美濃の境にある峠道じゃ!」


(いやいや、おかしいでしょ?俺が屋根から落ちた場所を計算しても約200キロは離れてんじゃん!)


「お、尾張と美濃?……さすが役になりきってますね…愛知と岐阜の間か……助けていただいてありがとうございます、それと、すみませんが近くの駅までどう行けばいいでしょうか?」


「えき?…えきとはなんじゃ?…!!…ま、まさか!!どこかで<疫病>がでておるのか?」


「いや、もうその流れはいいですから、早く駅までの道を教えてくれませんか?あ、それと、今の年号は令和ですよね?」


「ねんごう?れいわ?…はぁ?…」


 最初は助けてくれていい人だと思っていたが、さすがにここまでボケをかましてくると、温和の俺でもムカついてくる!。


「いや、だから、あなたの役者魂には感服しましたので、マジ役者じゃない普段のあなたに戻ってくれませんか?」


「何を言うておる!わしはわしじゃ!」


「あぁ~~~、もう~~~~!じゃ、はっきり言います!今は令和天皇の時代ですよね?」


「お主、やはり異人であろう!今の天子様は正親町天皇様じゃ!!れいわ天皇など聞いた事も無いわ!お主は何処の異国から来た?返答次第では斬る!!」


「う、嘘…」


 男は脇差しに手を添え俺を睨み付けた!いきなり変貌した鋭い眼光はボケをかましているとは到底思えないほど殺気に満ちている!。


(はは…これは屋根から落ちてまだ夢を見ているんだ…でなきゃ、こんな笑える中二病展開…あるわけないだろ…頼む!ローン返済の期日が今日なんだ!早く目が覚めて浩一に合わせてくれーーー!!でないともう融資も受けられないし、差し押さえも目の前に来てるんだよーー!!)


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