デート
男は今日デートだった。
その女と会うのは初めてだ。
女とはアプリで知り合った。顔の好みや趣味を入力すればAIが自動でマッチングしてくれるので、外れがない。
そのため、今やカップルの2組に1人はアプリで出会う。
しかしデートになると、アプリの情報だけではない人間的な部分が出てくる。
ここを乗り越えれば、生涯にわたって添い遂げることができる。
そのため、初回のデートは最も重要であるといってもいい。
女は外で会うのは恥ずかしいから店で会おうと言っていた。
男は女の好きそうな店を予約し、今向かっているところだった。
「もうすぐ着きます。」
メッセージを送ると、すぐ女から返事が来た。
「間に合うかわからなくて早く来ちゃったから、もうお店で待ってるね♡」
男の顔に笑みが浮かぶ。
出だしは好調のようだ。
ビルのエレベーターに乗りボタンを押す。
扉が開き店員に名を告げ席へと向かう。
そこに女はいた。
薄いピンクのワンピースに白のやや低めのヒール、肩にかかる長さのやや明るい茶色の髪が白い肌によく映える。
「はじめまして…でいいのかな。待ちましたか?」
「いいえ、今来たばかりです。お会いできてうれしいです。…なんか、恥ずかしい。」
そう言うと、女は恥ずかしそうに目を伏せた。
男はおおいに酒を飲み、料理を食べ女と話した。
女もよく笑い、ころころと表情を変え男の話に聞き入った。
「すみません、ラストオーダーのお時間です。」
「楽しい時間はあっという間だね。」
「そうね、でも私はまだ一緒にいたいな。」
「僕もだよ。それじゃあ場所を変えようか。雰囲気のいいバーが近くにあるんだ。」
男は女の手を取りレジへ向かった。
「お会計は1万6480円です。」
その声が終わるよりも早く男は言った。
「それじゃ8240円だね。ここは僕がカードで払うからとりあえず現金でちょうだい。あ、もしちょうどなかったらとりあえず1万もらってあとで差額を返すか、ここで両替してもらうけどどっちがいい?」
その夜遅く、男は一人でバーにいた。
ケータイを開きアプリを起動するとそこに女の名はなかった。
男はウイスキーを飲み干しつぶやいた。
「全く最近の女はろくでもないな。年金暮らしなんてお互い様だろ。いい歳していつまでも初デートは男がおごる、なんて古い価値観持ってるんじゃないって…。」