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目覚めの朝 〜ヤンキーとの対面!?〜

夢の中で見た祖母と記憶が、要の心を少しだけ明るくさせた。

そんな夢を見させてくれたのは誰のお陰なのか…、え?嘘!?

なんかこの手ってゴつくない!??

昨夜の出来事などつゆ知らず、滾々と眠り続ける要は、高知県の山奥で暮らす祖母の夢を見ていた。


夢の中の祖母の家は大きな平屋で、天井に大きな梁が二本組まれた古い家屋だった。

この家がどれだけ古いか要には分からなかったが、畳のある床の間に置かれた装飾が多く重厚感ある仏壇の上には何人ものご先祖様の写真があった。


だが、要にとって祖母との記憶は多くあるとは言えなかった。

それは要が高知県にいたのが3歳から7歳の春までだったからだ。


しかし数少ない思い出の中でも、祖母はとても優しかった記憶がある。


祖父はさすが勲の父と言う様に寡黙な人で、大声で笑った所なんて見たことがなかった。


でも、祖父の横にはいつもニコニコと笑う祖母がいた。

要達が遊びに行くと、いつも嬉しそうに迎えてくれて要達が好きそうなお菓子を用意してくれた。

山奥に住んでいると、買物に行くだけでも一苦労なのにお菓子が出なかった日は1度も無かった。


また祖母とはよくおやつを一緒に作ったこともあった。



「要ちゃん、ジュース飲むかえ?」

「じゅーす?」

「そう、ミックスジュースで!」

「え!?のみたい!」



要はその時、ミックスジュースが家で作れるんだと初めて知った。

祖母は大きくて重たい厚みのあるガラスでできたミキサーを台所の下の戸棚から「よっこいしょ~」と言いながら出すと、リンゴやバナナを切って、別の戸棚から桃やミカン、パイナップルの缶詰を取り出してきた。



「バナナは香りが強いからちょっとだけね。ほら、要ちゃん残りのバナナ食べや。」


「ありがとう!」



3分の2も残ったバナナは子供ながらに多かったが、高知に戻り元気になった要はそれを美味しそうに頬張った。

そんな要の嬉しそうな顔を見て、祖母はまたニコニコと微笑みながら手慣れた様子で缶切りで缶詰を開けていた。



「おばあちゃん、それっ、かなめもやりたい!」


「蓋の切り口が尖って危ないき。これ触ったら指が切れてしまうで。」


「え、・・・おばあちゃんはだいじょーぶ?」


「、…アハハハハ!大丈夫、大丈夫。要ちゃんは優しいなぁ!」



祖母は声をあげて笑いながら、缶切りを今度はフォークに持ち替えて蓋をパカっと開けていく。



「わぁ~!わぁ~!」


「要ちゃん、ほたえたら危ないよぅ。」



祖母が次々に開けていく缶詰の中には、桜桃がつやつやと綺麗に輝いていた。

ミカンは缶詰一杯に入っていたし、パイナップルは丸い輪の形で連なっている。


それのどれもが要の瞳の中で宝石の様にキラキラと光輝いて見えた。

興奮して座っていた椅子の上に立ち上がる要を、祖母は少しだけ諫めたが手に持ったフォークで缶詰の果物たちをひょいひょいとミキサーのガラス容器に入れていく。


大好きな果物たちが容器の中へと集合していく様を、要はほっぺを赤くして見ていた。

祖母は最後に冷蔵庫から牛乳と、冷凍庫から何かを取り出していた。



「ぎゅーにゅー、いれるの?」


「そう。あと、これは隠し味。」


「あ!アイスだぁ!」


「冷たくて気持ちいいよ。」



氷代わりに入れられたバニラアイスクリームに要は更に興奮が上がっていく。

要の好きな物が沢山入った、要のためのジュースがもうじき出来上がるのだ。

もうずっと頬は緩みっぱなしだ。

祖母はテーブルにあったミキサーの蓋を手に取ると、パッキンがちゃんとはめ込まれるようにギュウギュウと強く押し込んでから、壁際にあるコンセントにミキサーのプラグを差し込んだ。



「じゃあ、要ちゃん。お願いします。」


「え?」


「ここのボタン押してごらん?」


「かなめが、おしていいの!?」



自分の方に顔を命一杯むけて目をキラキラさせる要に、祖母は嬉しそうに頷くと「はい、点火!!」と声を上げた。

それに続いて要が小さな指でミキサーのスイッチに手をやった。



「てんかぁ~!!わっ、わ、わわぁぁ~!!!」


「ふふふ、大きい音やねぇ~。」


「う、うるさい~…。」



大きなミキサーはその巨体に見合う程の大きな音を立てて、中に入った果物たちを混ぜ込んでいた。

祖母と作ったミックスジュースの味はとてつもなく美味しかった。

その日からよく祖母におねだりするようになったミックスジュース。

祖母は嫌な顔せずいつでも作ってくれたし、戸棚にはフルーツの缶詰が常備されるようになった。



要は祖母が大好きだった。

そして、祖母も要が大好きだった。


ただ、・・・あることで心配もしていた。



「おばあちゃん、おやまのとこであそびたい!」


「遠くに行ったらいかんよ。危ないきね。」


「ええ~?おうちのうらのとこ、すぐのとこやのに?」


「要ちゃんが、人神さまになったら大変やきね。」


「ひ、とがみ?」



今まで聞いたことのない言葉に、要は頭を傾げる。

見上げた祖母の顔は少しだけ強張っていた。



「要ちゃん。子供はみーんな、七つまでは神様の子ながよ。」


「かみさま?」


「・・・選ばれる事が、ほんまに幸せなことかは分からんきね。」


「?」



祖母の悲し気な声色で聞こえた言葉の意味を要は理解できなかった。

それでも要は心配そうに祖母の前掛けを小さな手でぎゅっと握りしめる。

祖母は、そのまだ幼いままの手を自分の皺だらけの手でぎゅっと握り締めると頬を緩めた。



「要ちゃん、お家の裏じゃなくて前に行こうか。」


「まえ?」


「昨日、雨が降ったろう?きっと今頃、前の道路に沢蟹が歩きゆうわ。」


「え、カニさん!?カニさんがココにいるの!?うみじゃないのに!?」


「そうよ~、山から歩いて出てくるがで。」


「みたい!みたい!」


「ふふふ。じゃあ、おばあちゃんと手をつないで見に行こうね。」


「あとでね、カニのえかいてママにみせる!」


「それはいいねぇ!じゃあ、大きいの見つけないかんねぇ。」



それが、祖母と遊んだ最後の記憶だ。

祖母はずっと自分に向けて笑い続けたくれた。

心配もしてくれていたが、それは手を握ってくれるような暖かな優しさだった。




――― おばあ、ちゃん…会いたいな。


 ――― 久しぶりに、みたな…、お祖母ちゃんの夢…


――― なんで、こんな、懐かしい…ゆめを・・・


――― ああ、そうか、木の香りがするからだ…― 森の木の、



「かお、り…」



深い眠りから目覚めた要の耳に、朝を告げる鳥のさえずりが聞こえてくる。

開き切らない眼で天井を見上げれば、自分が今まで寝ていた真っ白で無機質な病室とは違い、綺麗な木目が入った木板が見えた。

そのまま視線を横に向けると、壁も全部木や漆喰の壁で囲まれている。

そして要が左側を見てみると障子が4枚立て付けられていた。


今気づいたが、自分が寝ている布団も病院で使われていた物とは違いどこか家庭的なものだ。

自分が今わかることは、障子からの柔らかな光が見えるので今は夜ではないこと…、そしてここは間違いなく自分のいた病院ではないという事だった。



「どこ?ここ…」


「やっと、起きたか。」


「ふぁっ!?」



突然、聞こえてきた声に驚く要。

しかも、真横から!しかもこの声は男性のものだ!

とっさに布団を握りしめて声の方に振り向けば、まず目に入ってきたのは朝日に輝く金髪で。



「…ぇ?」


「おい、具合はどうだ?」



しかも、そいつは間違いなく男だった。

学ラン…制服着てるから学生なんだろうけど…男だと!!!?

自分の横で男が寝ている、だと!!!????



「お前、昨日マジで死にかけてたんだぞ。」



― なんでこの人、前がはだけてるの!?


―っていうか、なんで一緒に寝てるの!???



「…おい、聞いてんのかよ?」



―まって、まってまって、落ち着いて!落ち着こ!!おちぃt



額に汗かく要の目に見えたのは、布団を握り締めている自分の手とは逆の手。

なんかさっきから温かいと思えば、なんと自分の左手が目の間の男に握り締められていたのだ!



「おい、無視してんじゃねぇよ!」


「て、てが、あ、あと、ち、」



―ち、ちか、ィ…


「あ?」


「ち、痴漢んんんんっっ!!!!!!!!!!!!!!!」



病院暮らしが長かった要にとって…男性の肌は、昔見た父親との海水浴以来のことだった。

あと、男の子と手をつないだのも小学生以来だぞ☆



「あ゛あ゛っ!?誰が痴漢だっ!?この野郎っ、ふざけんなよ!?」


「ヒぃっっ!!!!」



――― 誰かぁっ!!!だれか、助けて下さぁぁあいっっ!!!!! ――――



要の劈く悲鳴で可愛らしい小鳥たちが朝日の中を逃げていく。

さっきまで毛繕いしてたのに…


要はむせび泣きながらこの時、気づいていなかった。

瀕死の筈の自分がなぜこんなに大声を出せたのか。


そして自分が今、どこにいるかも。


ましてや自分のことを遠くから見つめる存在がいることも…この時は気づいていなかったのだった。



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