世界を歌う。僕を唄う。
僕は歌というものを知らなかった、いや目を逸らしていた。
ここは『死の先』だ。
1面の銀世界は美しいけど酷く殺風景でもあった。奥には少女がいた。
その銀髪は何故か吹き付けるそよ風によって微かになびき、それとは全く不釣り合いな真っ黒なスーツを身につけていた。
彼女は歌を歌っていた。誰かを殺しえる歌を歌っていた。これ以上ないほどに綺麗な声で、世界の全てを呪うような怨嗟の歌を、その華奢な肉体をもって。
その下手くそな不協和音を美しいと形容したが、清々しいの方が近いだろうか。こんな歌を好む僕はどう考えても頭がおかしい。
僕は追憶する。
誰も愛せなかったこと。
君から逃げたこと。
君の心を壊したこと。
そのくせ誰かを憎んだこと。
それら全てをくだらない言い訳に変換したこと。
そのままくたばったこと。
薄っぺらな人間の人生を追憶する。
ああ......この世界は綺麗だ。少女の怨嗟はこれ以上なく美しいと今は思う。これが『歌』だ。これは、歌だ。
歌から逃げた僕はそれを初めて耳にしてわんわん泣いた。僕はそれでいいんだ。どれだけ世界が汚いモノに溢れていても、この歌が僕を愛してくれる。
「約束、私と......」
思い出せない言葉。その続きを思い出そうとも紡ごうとも思わない。戻りたくなるから。
「生きてたくない」
それだけの為に、僕は歌を生み出していた。




