海にて
「これからどうする?」
雫にそう言われて俺は少し戸惑ってしまった。
実を言うと俺はこうして雫と出かけることをデートとは認識していたものの映画を見て、こうやって喫茶店でひとしきり話したあとは解散するつもりだった。
だが、こうやって雫がこの後のことを提案してくれたのに「いや、これからまっすぐ帰るよ」なんてとても言えない。
「雫は行きたいところあるの?」
「…海とか?」
「海か」
ここから近くの海でも電車に乗って30分はかかる。でも最近気温暖かくなってきたし、海に行くというのは悪くない提案だ。
「それいいな!」
電車の中で俺は雫と高校時代の話をした。
学校で起こった事件、二人で遊びに行ったときのこと。
高校時代、雫とは色んな場所に遊びに行った。初詣、花見祭り、水族館、夏祭り、ボウリング、カラオケ、動物園。
とはいっても高校生だからただ一緒に学校から帰るだけとか近所の公園で缶ジュース片手に話すなんてデートが一番多かった。でも実はそういう何気ない時間が離れた今、一番尊く思う。
映画館に行ったことも何回かあったが、海に行くのは初めてだなと思った。
海についた。
俺たちの住んでるところから30分の海は少し殺風景だが、そこそこ綺麗な海ではある。
雫ははしゃいだ様子で靴と靴下を脱いだ。
「入るの?まだ5月だぜ?」
「冷たいだろうけど、せっかく来たんだし、いいじゃん。あっちに水道もあるから、入ったあと砂利拭えるし、私タオル持ってるよ」
「そうか」
「涼にもタオル使わせてあげるから入りなよ」
「そうだな!」
正直あまり気乗りしなかったが、せっかくだし入ることにした。
「冷てぇ!」
思った通り冷たくて俺は騒いだ。
雫は楽しそうに笑った。雫は小さなことでも笑ってくれる。元々笑い上戸なのもあるが、高校時代、雫は俺を好いていてくれていたのだ。だから、小さなことでも笑ってくれたのだ。俺に気を遣っていたのもあるだろうし、もちろん心から楽しんでくれているのもあるだろう。
「こう波を足で感じながら海を見てると波がさーって引くときに自分が結構なスピードで後ろに滑ってる感じしない?」
「感じる感じる!」
俺は頷いた。
俺は波のその感触が好きだった。
「俺はこの感触結構好きなんだよな」
「私も!」
見つめて笑いあう。
特に話が面白くもない俺の言うことでこんなに笑ってくれる人は雫だけだ。
ずっとこうしていられればいいのに、と思った。
でも本格的に足元が冷たくなってきて俺たちは海を出て、水道水で足を洗い靴下と靴を履いた。
釣りをする為のコンクリートに俺たちは座った。
足はまだ少し冷たい感じがしたが、夕暮れにもなってもまだ気温は温かい。
午後からのデートだったとはいえ、もうこんなに時間が経ったんだと思った。
何故だろう、雫といると時間が過ぎ去るのが早い。