元カノ
棗と学食で話した日、俺は元カノの雫にラインをした。
『久しぶり。元気?』
そんなライン。今、棗を気にしているのに雫にラインをしている。これは逃避なんだろうなと思う。でも今は1秒でも棗のことを考えたくなかった。
雫は高1の秋に俺に告白してくれた。俺は雫のことは可愛いと思っていたし、話すのも楽しかったから了承した。
どんなふうに告白してくれたのかは記憶が曖昧なのだが、告白を了承したときの笑顔は覚えている。
雫の笑顔はどこか控えめでじっくりゆっくり広がっていくような笑顔だった。特別美少女ということはないけれど、笑顔が魅力的な娘だった。
付き合ってるときは、ちょっとした喧嘩をしたり、キスしたり、デートをしたり、エロいことだってした。
俺は恋愛ごとの殆どの初めてを雫と体験したし、雫もそうだと思う。
雫とは高3のとき、受験を理由に別れてしまったけど、別れてからも仲の良い友達だった。それなのに卒業してからは特に会うこともしなかった。
つまり雫と連絡を取るのは殆ど1年ぶりということになる。
5分もすると雫から返信が来た。
『お久しぶり!涼くん、どうしたの?連絡とるの卒業以来じゃない?』
『特に理由はないんだけど。今日、雫の話を大学でしたから懐かしいなと思って』
『大学で?なんで?あ、もしかして糸野くんと?確か同じ大学と同じ学部に進んだよね』
『そうそう』
正確には俺が雫の話をした相手は八雲の彼女の棗なわけだが、俺は説明する必要もないと思い、そう答えた。
俺たちの高校で同じ大学の経済学部に進んだのは俺と八雲だけだから、雫がそう思うのも無理はなかった。それにしても八雲の進学先なんてよく覚えているなとも思う。
雫と八雲は高校生のとき、お互いに認識はしていただろうが、そんなに接点もないはずなのに。
少し間を置いて雫からまたラインが来た。
『久しぶりに会わない?涼くん、実家住みでしょ?住んでるところも近いし。私、アクション映画で気になってるのがあるんだけど、友達で見たいっていう人がいなくて』
少し、長文のメッセージ。
「へ」
思わずラインを見つめながら、間抜けな声を出してしまう。
曲がりなりにも他に気になってる女子がいるのに元カノと会うってどうなんだろうか。
でも、俺が棗と付き合うってのはあり得ない。八雲のことも大切だし、棗に告白しても断られるのもそれによって困らしてしまうのも目に見えている。
『いいよ。なんて映画?』
気づけば俺はそう返信していた。