君の笑顔
棗とばったり出くわしたのは、棗と再会して2週間経った日の学食だった。
「涼!」
そう言って棗が手を振ってきた。
俺はその時、他の友人たちと食事をしていたわけだが、友人に挨拶するとつい棗のそばに行ってしまう。
「棗、私達もう行くね」
気を使ったのか棗の友人らしい2人が席を外した。
「あの人って棗ちゃんの彼氏?ちょっとかっこいいかも」
「多分違う。ほら、彼氏の友達が知り合いだったって言ってたから多分その人」
そんな会話をしながら、2人は遠ざかっていった。
俺は棗に謝った。
「なんか悪い…。友達に気を使わせたみたいで」
「気にしないで。私、食べるの遅いからいつもあの二人待たせちゃってるから、むしろ涼が来てくれてよかった。…八雲は今日は一緒じゃないの?」
「あ、あいつレポート終わってないやつの手伝いで図書館にいる」
「八雲、頭良いし、面倒見も良いもんね」
そういった後、棗はカレーを頬張りニコッと笑った。中学の頃と変わらない、でも少し大人っぽくなったことを感じさせる笑顔だった。
「名前…」
「ん?」
「名前、八雲って呼ぶようになったんだな」
俺は動揺を隠してそう言った。
「ああ、一応付き合ってるわけだし。でも八雲の方はまだ私のこと青木さんって呼ぶんだよ?普通彼女が名前呼びしたら合わせるものじゃない?」
「…どうだろう」
「私の方から棗って呼んでって言えば呼んでくれるかな?」
「そんなこと言う必要ないんじゃない?」
「え?」
俺の発言に怪訝そうな顔する棗。俺は言葉続けた。心の中の動揺をひた隠しにしながら。
「だって棗も八雲も多分、お互い付き合うの初めてだろ?特に八雲は女慣れしてないところあるし。奥手なんだろ。もちろん棗が呼べって言えば棗って呼ぶだろうけど。八雲だってそのうち、棗のこと自分から名前呼びするようになるんだから、急がずまってやれば?」
「そっか…そうかもね」
多少苦しい意見だったが、棗は納得してくれたようだ。
屈託のない棗を見て、俺は苦しくなる。付き合い始めたばかりとはいえ、もう棗は八雲のものなのに八雲が彼女を棗と呼ぶのを許せないなんて俺はなんて情けないんだろう。
「ていうか、涼と恋バナするの初めてだね!涼って彼女いるの?」
「居ないけど」
「中学の時、ちょっとモテてなかった?ずっと彼女いなかったの?」
「高校のときは彼女いたけど別れたんだよ。大学違うし」
「ああ、卒業するとどうしてもね」
棗と話しながら、当時の彼女を思い出した。そうだ。俺にだって雫という名前の可愛い彼女がいたことだってある。
それなのにどうして俺はこうも棗に執着してしまうんだろう。目の前にいるからだろうか。
棗の笑顔を見ながら、八雲に名前を呼ばれたら、棗は今以上に嬉しそうな顔で笑うんだろうなと思った。
もしかしたら、それは俺が見たことないようなとろけるような表情かもしれない。それを思うと俺はムカムカした。