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君の髪

 家に帰ると棗からラインが来ていた。中学の時にラインのIDは聞いていたし、卒業後は連絡を取っていた。棗とは卒業後にグループで遊びに行くこともあった。でもそんなやり取りはなくなってしまってから随分経つ。

 ラインのメッセージはこうだった。

『今日はびっくりしたね 久しぶりに会えて嬉しかったよ!』

 それに可愛らしい犬のスタンプがついていた。

 こんな何気ないやり取りでも俺は嬉しくなってしまう。

 それから憂鬱な気分で 

『おう!八雲のことよろしくな』

 と思ってもいないことを書いたメッセージを送った。

 

 その夜夢を見た。

 すぐに夢だと気がついたのは、夢の中にいた棗が中学生時代の姿だったからだ。

 教室で昼休みらしい。

 夢のなかの俺は棗に言った。

「棗は髪色、元々明るいから、大学生なっても染めなくていいからいいよな」

 確かに中学時代棗にこんな質問をしたことはあった。

「大学生になったら髪を染めなきゃいけないわけ?」         

 棗の言葉を俺は否定した。

「そういうわけじゃないよ。でも俺は髪の毛、茶髪に染めたいし、特に女子は大学生になったら茶髪になったりするんじゃん」

「そうかもね。逆に私は黒髪にするかも」

「え、茶髪のほうが似合うと思うけど」

「似合う似合わないじゃなくて黒髪とか茶髪でももっと暗めの色にしたいの」

 俺は彼女の地毛の色が好きだったので軽いショックを受けた。

「茶髪がコンプレックスなわけ?」

「ううん?意外と自分の髪色は気に入ってる。私に似合うっていうのもそうなんだと思う。でも多少似合わなくても違う髪色にもなりたいじゃんか」

「そっか…」

 俺はファッションって人の目を気にしてするものだから似合わなくてもいいというような意見を少し疑問に思った。

 そう思いながらも違う日に棗が女友達に「棗は髪長くしないの?印象変わるし、めっちゃ似合うと思う」

と言われて、「でも私はこの髪型が好きなの」と愛想笑いもせずに答えていたのを思い出した。

 棗は優しくて思いやりも協調性もあるけど、人の目を気にして自分の意見を偽ったりもしない。人の意見に流されたり、その場の雰囲気のために媚びてしまう俺とは大違いだ。

 棗は人に媚びたりしない子だった。そういうところも含めて、好きだった。


 朝起きて俺は懐かしい気持ちと親友の彼女の夢を見てしまったことの情けなさが混じった複雑な気持ちで目が覚めた。

 そういえば、昨日会った棗の髪の色は焦げ茶だった。あのときの宣言通り、髪を暗めの色にしたんだろう。地毛であるあの明るい茶髪のほうが似合ってるのに…と思ってしまう。いや、焦げ茶の髪もそれはそれで似合っているんだろうけど。

 中学の時の棗と今の棗を思い出す。顔立ちは少し大人っぽくなったし、背だっていくらか伸びただろうが、可愛さはそのままだった。

 愛想笑いというものを覚えたのか、それとも性格が単純に明るくなったのか(もとから暗いわけではなかったけど)笑顔が増えた印象だった。 

 それはきっと喜ばしい変化なのだろう。でも、棗が変わってしまった。そう思うと少し寂しい気持ちにもなった。


 


 

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