俺だけ気まずい帰り道
その日は棗がバイトがあるというのでそのまま3人で帰ることになった。
「それにしてもびっくりしちゃった!糸野くんと涼が友達だったなんて。ていうか意外と同じ大学でも気が付かないもんだね。経済学部と保育学部って接点ないもんね」
棗が俺の右側で笑顔で言う。
「俺らだってびっくりしたよ、なぁ?」
俺は棗の笑顔にドキドキしてることをひた隠しにしながら左隣にいる八雲に言った。八雲も頷いた。棗は八雲のことを苗字で呼んでいる。俺と棗は中学の時に仲良かったから、お互い名前呼びなのに。そのことに優越感を抱いた。
そんな名前呼びだなんてことにこだわったって棗が八雲の彼女であるという事実は変わらないのに。
「二人はどこで知り合ったわけ?キャンパス内?」
「ううん。それが違うの。糸野くんの妹の華ちゃんが学童に通ってて私学童のバイトしてるから。それで迎えに来るのはいつも糸野くんだから」
「ああ、なるほど。八雲の家、共働きって言ってたもんな」
と俺は頷いた。名前までは知らなかったが八雲に小5の妹がいるのも聞いたことがあった。
「それで私がバイト初めて半年経って糸野くんとも結構話すようになって。糸野くんがデートに誘ってくれて悪い人ではないし、まあいいかな?って思ってデートに行ったらその日に告白されて私ちょっとびっくりしちゃった」
「え?なんで?デート行くんだから、告白されるって思うでしょう?」
八雲がキョトンとする。
「私、告白ってデートして3回目くらいで告白されるようなイメージがあって、もちろんそうじゃないカップルもたくさんいるだろうけど」
「俺もそんな感じのイメージかも」
俺も同意する。
「まじか。僕が青木さんに告白OKしてもらえたのって運が良かったんだな」
「でも棗は八雲と二人で遊びに行ったことその日以外なかったんだろ?よくそれで付き合おうと思ったな」
デートという言葉は使いたくなかったから『二人で遊びに行く』と言い換えて質問した。
「うん、まあびっくりはしたけど糸野くん優しいし。私、今まで恋愛に興味なかったんだけど――――だって中高生ってすぐ別れちゃうカップル多いじゃない?でも友達で2年間続いてるカップルがいて、それを見たらたら良いなぁって思うようになってたから」
つまり、人生で初めて彼氏が欲しいと思っていた時期に告白されたからと言うことなのだろうか。
俺がもし、もっと早く棗と再開し、棗が彼氏が欲しいと思ったタイミングで告白できていたら。今頃、彼女と付き合っていたのは八雲ではなく、俺だったのかもしれない。そんな女々しい考えが頭をよぎった。
八雲は本当に棗のことが好きらしく、八雲の棗を見る目は穏やかで幸せそうだった。
棗は八雲に対して少し照れくさそうにしていた。
棗が八雲に抱いている感情が恋愛感情かというと、今の所違うらしかった。しかし、このまま交際を続けていたら、そのうち恋愛感情に変わるだろうと言う気配はした。
どこからどう見ても付き合いたての幸せなカップルだ。彼氏は彼女に夢中で彼女の方はそんな彼に若干戸惑いつつ好感を抱いている。
八雲が連れてきたのが棗じゃなかったらなと俺は思った。そうしたら俺が嫉妬したとしても、それはリア充爆発しろ程度のもので、微笑ましいカップルをニヤニヤしながら茶化すこともできただろう。
でも、自分の好きな娘が友人の彼女になってしまうなんて微笑ましい雰囲気が流れれば流れるほど俺はイライラしてしまう。そして悲しくなるのだ。顔では笑っていても心はしくしくと泣いていた。