最終話 暗殺者? ソフィ
気を失ったリアナの制服を剥ぎ、それを紐代わりにしてリアナの手を後ろ手に縛るソフィ。
「悟志! 悟志は無事?」
教室に勢いよく駆け込んでくる女性。それは、本物の楓であった。
楓は倒れていた悟志を見て、直ぐに駆け寄りその身体を起こす。
「悟志、しっかりして!」
「楓、僕は大丈夫だ。何ともない」
「ああ、良かった。本当に良かった……貴方に何かあったら私は」
「大袈裟だよ。だけど、すまない楓。ソフィさんに知られてしまったよ」
「え?」
「まさか、悟志が本当に私のターゲットだとは思ってもみませんでしたよ」
ソフィが悟志達の方にジリジリと詰め寄る。楓は立ち上がり、悟志を庇うようにソフィの前に出て腕を左右に伸ばして立ち塞がる。
「待ってソフィさん! これには訳があるの!」
「訳、ですか? それは一体どういう訳ですか?」
「実は……実はこれは貴女の実力を試すテストだったのよ!」
キョトンとする悟志とソフィ。
「実力を試すテスト……ですか?」
「ええ、そうよ。本当の暗殺者を使って貴女の実力を測ったのよ。そして、その腕前は見事だったわ!」
「うーん? という事は、カエデ。私は合格なのですか?」
「ええ! 合格も合格! 百点満点よ!」
百点満点という言葉に、ソフィは照れくさそうに頬を指で掻く。
「そ、そうですか? へへ、何か嬉しいでーす」
「そこで! 良ければ取り急ぎソフィさんのお父さんと連絡が取りたいの! お願いできるかしら? 合格の件で話があるのよ!」
「おー! 分かりました。きっと父上も喜ぶでしょう!」
何の疑いもなくソフィは持っていた携帯を使って父親に電話を繋ぐ。
「オー、もしもし? 父上ですか? 実は今私の友達から合格を頂きまして、ええ? 何の事か分からない? 大丈夫でーす、今説明してくれます」
ソフィが差し出してくる携帯電話を即座に受け取り、ソフィとは反対方向を向いて喋り出す。
「どうも、初めまして。私、ソフィさんの友達であり、出海悟志のSPをさせていただいております卯ノ花楓と申します」
『卯ノ花楓? SP?』
「はい。実は早急に申し上げたい事がありまして。こちらにおられるソフィさん、我々のSPとして雇わせていただけないでしょうか?」
『…………それは、どういう事ですかな?』
スーッと息を吸い込み、ゆっくりと吐く楓。そして、電話を口元に近づけ。
「ソフィさん、重度の馬鹿ですよね?」
ボソリ、と呟いた。
電話の向こうにいる源次郎はそれに反論はせず、しばし無言であった。
『……楓、と申されましたか。一つお聞きしたい』
「はい、何でしょう?」
『うちの娘は目的を達成できましたか?』
「いえ、残念ながら。その代わり、ケルベロスを倒しました。その実力を私は大きく買っており、是非我々のSPに迎い入れたいと思っております」
『雇わせる理由がない』
「そうでしょうか? 護衛先である出海悟志は現政界に置いて最も総理に近いとされる木原議員の息子。その政治家とパイプを繋げる意味合い、そして、ソフィさんの欠点をフォローできる私もおります。お考え下さい、ソフィさんが本当に暗殺者として向いているのか? 如何でしょう?」
力説する楓に、源次郎は黙り込む。
今、源次郎の中ではソフィの行く末を考えていた。
(今回の暗殺は失敗と考えるべきだろう。だが、果たしてソフィが他の職に手を付けて上手くやっていけるだろうか、いや絶対に無理だろう。今後、父も私も老いて一人残された娘はどうなる? なまじ腕が良いだけに暴走しかねない。そうなれば、この誘い、悪い気もしなくもない。だが……それは青葉流の看板を降ろすと同義)
源次郎は即答は控え、数分の間があった後。
『楓とおっしゃりましたかな?』
「はい、そうです」
『此度のお誘い、お受けいたします。是非、うちの娘をSPに入れてください』
「! ありがとうございます! 後日書類を持ってお伺いいたします!」
楓はその場で何度も頭を下げた後、持っている電話をソフィに返した。
「あ、もしもし父上? あ……うん、ほぅ、分かりました。父上に従います!」
源次郎と何らかのやり取りがあった後、ソフィは電話を切った。
「ソフィさん、どうだった?」
「カエデに倣って生きて行けといわれました。はて? どういう事でしょうか?」
「合格って意味よ! ソフィさんはこれで私と一緒のSPになれたのよ!」
「おお本当ですか! SPに……あれ? 私は暗殺者になるはずですが? SPとは何ですか?」
「それは追々話すわ。じゃあ、今日は合格祝いに悟志の家でパーティーしましょう!」
「オー! それは良いですネ!」
その後、ソフィ達は悟志の家へと向かい、朝までソフィの歓迎会を行った。
それから月日は流れ。
学校を卒業した悟志は、父へのあこがれもあり、同じ政治の道を歩む。政治家としての道のりは決して楽なものではないが、総理となった父の指導もあり、最年少で総理の椅子に座る事となる。
悟志のSPとして働いていた楓は、卒業した後も側で見守り続ける。
学生を卒業する時には悟志からのプロポーズを受け、妻となる。子供にも恵まれ、育児もこなすとなると、SPの本業を務めるのは困難と判断し、依願退職をする。
政治家の悟志を妬む人間から、狙われる時もあるが、それは彼女にとって何ら心配する事ではなかった。
何故ならば、二人の側には頼れるSPが存在するからだ。
頭脳の方は、置いておいて。
完
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